難易度の設定は負荷の感じ方を確かめながら

勉強に限らず、適正な負荷をかけることは能力や資質を伸ばす上で欠かせません。ある課題に対して正解を導けたとしても、楽々と達成した場合と、持てるものを総動員して達成した場合とでは、そこから得られる充足感も、その機会を通しての成長も大きく異なります。
楽々とクリアできるようなハードルばかりでは、頑張りがいもありません。生徒が集中力を欠く原因にもなりそうです。
負荷を適正な範囲(生徒が「やや難しい」と感じ、少し背伸びが必要な水準)に維持することが生徒のより大きな成長を引き出すのは、教科学習指導以外の場面でも同じではないでしょうか。

2015/05/19 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 「ちょうど良い」では負荷が軽すぎる

下の箱ひげ図は、授業内容や課題の難易度に関する生徒の感じ方を尋ねた結果(換算得点)を 0.5ポイント刻みで階級化し、各々の「授業で実感する学力の向上や自分の進歩」の換算得点の分布を示しています。
箱の位置が最も高くなっているのは、「ちょうど良い(±0)」 と「やや難しい(+5)」の回答数が拮抗する+2.5の少し手前であり、このぐらいの負荷をかけたときに学習効果は最大化すると考えられます。


見ての通り、上記の質問で選択肢の真ん中にある「ちょうど良い」に相当する±0の近辺では、負荷の不足が疑われますし、負荷を抑えて「できた気」にさせてしまうことのリスクも考慮する必要があるはずです。
また、学び方が身につき、学ぶことへの自分の理由を持つようになるにつれて、負荷耐性はより高くなります。別項で尋ねた結果と照らし合わせながら、最適な負荷をかけていくようにしましょう。

❏ 目標を引き下げるという判断の前にできること

生徒にとって課題が難しすぎれば、「挑んでみても返り討ち」 を繰り返すばかりで挑む意欲も失わせますが、そんなときも課題の難易度を下げる前にできることがあります。
まずは、こまめに理解を確かめ、置いてきぼりになる生徒を作らないことや、目指すところを共有し、生徒側での理解力を底上げしましょう。

課題解決の場を整えたら、挑ませる前に理解の確認

隣同士で説明させる場面を挟めば、抜けていたり、あいまいだった部分に気づけ、その場での教え合いが機能します。

目標をあらかじめきちんと示しておく[学習目標の示し方]

生徒の側で、目標に照らしながらの情報補完が効きやすくなり、小さな躓きを自力で解消できる効果があります。

どのクラスにも生徒間の学力差は存在するもの。一律の目標では、マッチする生徒は一部に限られます。クラス全員に課す「必達課題」と、それをクリアした生徒への「任意課題」を分けるなどの工夫も重要です。
また、躓きからのリカバーを円滑にすべく、不明解消のためのコンサル先(参照型教材や教え合いの相手)を確保させましょう。

ひとつの課題から複線的なハードルを作る

ひとつの問題をベースに、回答形式をフル記述/部分完成/穴埋めと複数のパターンで用意し、生徒に自分でレベルを選択させます。

参照型教材を徹底して使い倒す

参照型教材を常に手元に、参照を習慣化させ、「この本のページをめくれば手掛かりが必ず見つかる」 という状態を作りましょう。


❏ 難易度を調整するときは、生徒側の認識をこまめに把握

授業の進め方や課題のタイプや難易度を変更するときは、生徒側での難易度の感じ方を把握し、負荷耐性を見極めることが重要です。
答案に現れた結果(「できた/できない」の比率)だけを見ても、負荷のかかり方が適切かどうかはわかりません。同じ「正解」でも、楽々とクリアしているのと、目一杯頑張って何とかというのでは大違いです。
アンケートの結果と模試等のデータを突き合わせてみると、生徒が難易度を高く感じ始めて暫くすると得意/苦手の意識に変化が現れ、さらに時間をおいて実際の成績に低下が生じるというのが一般的です。

こまめに把握することでこうした変化をできるだけ早く、兆候の内に捉えて有効な対策を講じることができなければ、後手を踏むばかりです。
授業評価のタイミングを待たずとも、小テストの余白を用いてミニアンケートを行うぐらいなら日々の手間はそれほど増えないはずです。

❏ 段階的な調整と負荷耐性を高める指導

負荷に対する耐性は、学習者としての成長につれて変わってきます。
達成感と成功体験を重ねてきた生徒、あるいは自分なりの目標をもってモチベーションとすることができた生徒は、より高い負荷をかけてもへばることなく頑張ってくれるのではないでしょうか。
学習の成果として学び方を身につけていけば、同じ負荷をかけても次第に軽く感じるようになるのが普通です。タイミングよく負荷を高めていくことも大切なコントロールの一つとお考え下さい。
負荷を高めるタイミングを逸すると、後になって上げ幅を大きくせざるを得ず、乗り越えられないギャップを突きつけることになります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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