昨今、耳にすることも少なくない「組織的な授業改善」。何やらヘビーな響きがありますが、それぞれの先生方が重ねてきた工夫の成果を共有して、教科全体、さらには学校全体で「より良い授業の実現」を目指しましょうということにほかならないはずです。
別稿「互いの実践に学び、校是たる授業像を作り上げる」でも書いた通り、周囲の先生の優れた手法や工夫に学ぶことなしには、改善に向けた発想も自分の中に閉じたものとなりがち。広がりも深まりもないままに凝り固まってしまうリスクを抱え込みます。
2017/09/14 公開の記事をアップデートしました。
❏ 優良実践とは付加価値の大きな指導のこと
優良実践とは、大きな教育成果を挙げた指導、教育目的や指導目標の達成に大きく引き寄せたものを指すのは言うまでもありません。
結果学力の向上にしても、学びを通した進歩や成長の実感、興味や関心の発現、学習行動の改善にしても、それぞれに相応しい指標/モノサシを用意すればその所在を特定することができるはずです。
測定項目 | 測定方法 |
---|---|
各教科の知識技能の獲得(結果学力) | 模擬試験の成績や外部検定のスコアにおける分布の変化 |
進歩の実感、興味の発現(自己効力感) | 生徒による授業評価アンケートなどの集計値に基づく生徒の意識分布やその変化 |
学習行動・スキルの獲得(学習者としての自立) | ルーブリックなどの活動評価の記録、振り返りシートでの好適記述の出現頻度 |
同じ時間/コストでより大きな成果を得た(同じ期間を跨いで、始期と終期の差分=進歩の度合い[好ましい変化]が大きく観測されたものこそが、「付加価値」の大きな授業/指導です。
投じられる資源(指導期間、授業数)に限りがある以上、遠くにあるゴールを効率的に引き寄せようとするなら、より効果的な(=付加価値の大きな実践)を選択して共有するのは当然の帰結だと思います。
❏ 指導を経て、学力の向上を生徒がどれだけ実感したか
授業評価アンケートでは「授業を受けて生徒が実感する学力の向上や自分の進歩」を尋ね、その結果を定量化(比較可能な形に変換)します。
ここで得られた数値は、当該期間における指導が「個々の生徒の学び」に与えた好ましい影響の総量を端的に表します。それらを「付加価値の大きな授業」を探し出すのに使わない手はないはずです。
校内で行われているすべての授業の評価結果を見比べれば、その中には突出して高い評価を得ている授業があちらこちらに見つかります。
また、学力向上感(学習効果/科目学習に対する自己効力感)に対する他項目それぞれの寄与度を統計的手法で推定することも可能です。
様々な指導技術(伝達スキルや授業デザイン)のうち、寄与度の大きなものに焦点を当てれば、知見の共有/組織的授業改善も効率的です。
なお、付加価値の大きな指導を教科内/学校全体で共有することで、より良い授業をより広く実現するには、最小要件をしっかり満たした「生徒による授業評価アンケート」の継続的な実施がその土台となります。
❏ 教育活動や指導の成果は多角的に
付加価値の大きさをきちんと測ろうとするなら、様々なツールを活用した「多角的な効果測定」が必要なのは上述の通りです。ひとつのツールで得た結果だけでは見方に歪みが生じているかもしれません。
模試や外部検定での成績を短期的に伸ばすだけなら、徹底した対策指導を行えばある程度の効果は出るでしょうが、その結果が「指示をこなすだけの学習姿勢」だとしたら新たな問題を抱えたことになります。
また、成績が伸びていても学力の向上や自分の進歩を実感できていない場合、その科目への興味を深めることも、学び続ける意欲を維持することもなく、「伸びているのに諦める」ことだってあり得ます。
メタ認知や適応的学習力の獲得が遅れた生徒は、先生方の丁寧な手引きや支援を受けられなくなった途端に伸びが止まるかもしれません。
結果学力、学ぶ意欲、学ぶ方策など、学習を通じて身につけさせたことは、広く偏らずに評価を行い、それぞれでどれだけ伸びたかを把握しておく必要があるはずです。(cf. 教科固有の知識・技能を学ぶ中で)
❏ 成績推移は平均点より四分位数で
成績(主に結果学力)の伸びを論じるときに、平均値の上下だけに着目していることが多いようですが、これは合理的な方法とは言えません。
下のサンプル(データはダミー)では、上位を伸ばしたクラス、下位の拡大があったクラスなどが混在していますが、学年全体の平均で見てしまうと、7月模試の学年平均は49.9、11月模試の学年平均は49.7です。
平均値だけをみて、「ほぼ前回並み」と結論づけるのでは、あまりにも迂闊/思慮不足と言えるのではないでしょうか。クラスごとに見れば、改善と後退の混在は明らか。学力を伸ばした指導/授業も存在します。
例えばA組は、平均値こそ前回とほぼ同じですが、クラスの生徒の中央値には明らかな上昇が見られます。7月以降の指導には、成績中位層の学力を伸ばすだけの理由と材料があったはずです。
成績などの変動(指導期間を経た差分)の把握には、「分布」を目視できる形(箱ひげ図など)へのデータ加工が必要ということです。
ルーブリックを用いた活動評価の記録で、指導の成果(行動や考え方の変化)を探る場合も、回次ごとの回答分布でクロス集計表を作ってみるべきでしょう。残差分析で有意性の検定もできます。
ちなみにこのA組、中位層が伸びた一方、上位が伸びず、下位層も膨らんでいます。この場合、中位層を伸ばすノウハウを抽出するとともに、上/下位層それぞれへの働き掛けには反省すべき点があったはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一