探究型学習を通じて自らの進路希望を作るに至ったA君が、本シリーズの冒頭で登場しましたが、同じプログラムを同じように経験しながら、自分のあり方・生き方と結びつくものを見つけられないまま活動を終える生徒だっています。
安易にテーマを設定した、調べ学習を行うところで終わった、探究してみたことの先に広がる学問の世界を覗き見ることができなかったなど、様々な要因でゴール(課題解決に取り組む体験を通し、自己の生き方・あり方を見出すこと)に至る道が途切れてしまったということです。
道が途切れたときに次の一歩を正しく踏ませて、探究活動が目指すべきところに近づかせるのは、他ならぬ指導に当たる先生方のお仕事です。
2015/03/18 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 探究型学習の指導方法は開発途上
総合的な探究の時間が先行実施されていたとは言え、従来からの教科学習指導とは異なる「学ばせ方」であり、その指導方法は、多くの現場で未だ「開発途上」にあると言えそうです。
ある生徒が探究活動を進める中、もう一歩踏み出せたら新しい世界が眼前に開け、そこに進路希望を作れるはずという場面で、躓いていることに気づいてあげて、適切な助言やガイドができるかどうかは、担当している個々の先生の知見とスキルによるところが小さくありません。
専門教科での学習指導とは異なり、不慣れな領域での指導に戸惑いや苦労も多いかと思います。そんな中でこそ、指導の各フェイズにおいて、成果をあげている/大きな効果が窺える実践を特定し、優れた指導手法を共有していくことが重要と考えます。
共有した手法は、先生方の協働でさらなるブラッシュアップを図って、次年度にも確実に継承し、校内での指導法の確立を目指しましょう。
ここでは、ルーブリックを用いた活動評価の結果やポートフォリオから窺える生徒の成長を手掛かりに優良実践を抽出する仕組みがカギです。
❏ 目標を共有した上で、個々の創意で指導を工夫
探究活動の指導に限らず、何事も最初のトライは手探りです。どこかにマニュアルを見つけてそれに倣うだけでは、そのマニュアルが起こされたときの発想を超えることはできませんし、自校のプログラムとの整合性も担保されません。
(ただし、創意と工夫を重ねると言っても、他校での先行例なども参考にしないと、試行錯誤の振れ幅が大きく残り、無用な失敗に多くの生徒を巻き込んでしまうリスクが膨らみます。)
活動全体を通して目指すところをしっかりと見据えた上で、指導の各フェイズでの目標を明確に定め、先生方がそれぞれ最善(=目標の達成が最も確実)と思う方法で、指導を進めましょう。
進路選択に向かうプロセスとしての探究活動の各フェイズを終えたときに「生徒が何を経験しているか」「次に向かうためにどんな状態にあるべきか」をきちんと言葉にできることが大前提。しっかりと話し合って目線を合せて置きたいところです。
各フェイズの目標が先生方の間できちんと共有できれば、それを達成するための手法・手順に関するアイデアを出すにも、方向性をひとつにできます。そのアイデアを互いに伝え合うことで、個々の先生方の創意・工夫はより豊かなものになるはずです。
❏ 全体計画の中での各フェイズの目標と指導法
本シリーズで例に挙げてきた指導手順は、「自分事として向き合える課題を見つけ、その解決に取り組む体験を通して、自分のあり方・生き方を見出す」ことを全体を通した目的としていますが、ここがブレては、個々のフェイズの指導内容もチグハグなものになります。
まずは、探究活動と進路指導を一体として設計することで目指しているところを、自校の教育目的に照らして明確にしていきましょう。
研究開発大学に進んでイノベーションに貢献できる人材を育てようとする場合と、地域課題に向き合ってその解決に役割を担える人材を育てようとする場合とでは、如上の「自分事として向き合える課題」も違ったタイプになるはずです。
自ずと、生徒に考えさせることや当たらせるべき情報も、テーマ選びの準備段階から違ったものになるのではないでしょうか。
前々稿、前稿で照会した、新聞を読んで関心の所在を探らせることや、研究論文に当たり学問世界にも視野を広げさせることが、学校の教育目的とうまくマッチしないようなら、当たらせる情報の所在などを変えていく必要があろうかと思います。
別稿のように、商工会の方や自治体の地域振興担当者の話を聞く方が、論文に当たるよりはるかに実効が期待できる場面もあるはずです。
❏ 指導の効果を測定し、比較するための評価基準作り
目的を共有し、互いのアイデアを共有しながら指導法をそれぞれに工夫しても、それだけでは「試行錯誤に生徒を巻き込む」ことに変わりはありません。きちんと効果を測定して、それぞれの成果を比較した上で、効果が薄かったものは引っ込め、より効果の大きなものに収束させていく必要があります。
そのために欠かせないのが、活動の成果(=生徒の成長、行動や思考の変容)をきちんと把握するための評価の基準(観点×規準)です。
優良実践を抽出・共有すると言っても、評価基準が明確にされていなければ、「優良」の選び出し方そのものが恣意的になってしまいます。
各地の学校で、探究活動に用いるルーブリックの整備が進んでいるようですが、きちんと運用して、指導効果の定量的な測定に役立てたいところです。(時々、作っただけで活用されていないケースもあり、「何のために手間暇かけて作ったの?」と思うことも…。)
ルーブリックに限りませんが、最初から完成度の高いものを作るのは難しいはずです。使いながらこまめにブラッシュアップを重ねて、完成度を徐々に高めていくという発想も必要です。
また、どの場面にも適用できる汎用性を備えた「コモンルーブリック」は、観点も表現もあいまいになりがち。適用が難しい上に、個々の場面でのルーブリックとの整合性を欠くこともしばしばです。
まずは、場面(指導フェイズ)ごとに、活動を通して到達してもらいたいことを生徒を主語にしたセンテンスに書き出して、それにあてはめて〇△✕に相当するABCを割り振るくらいの気楽さでも良いかも。
指導場面ごとのルーブリックを運用する中で、観点や規準を蓄積していき、それらの「共通項」を串刺しにして整理したものを土台に、コモンルーブリックの観点を定めていく手順の方が効率的な場合もあります。
ちなみにA評価を超えたところにはS評価が存在しますが、斜め上を行くことが多く、S規準は固定的なものにせず、Sと評価した理由を個々にきちんと言語化して、評価結果に添え書きする方が合理的です。
また、指導の成果は、評価分布の変化の中に現れるものですから、ある場面での評価結果だけを見て、それを指導の成果と誤解しないように気を付けましょう。評価結果を蓄積して、それがどのように変化してきたかにこそ着目すべきです。
社会が取り組む課題を軸にした学部・学科研究に続く。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一