学校評価アンケートをどう活用するか(その3)

【効果を確かめ、教育リソースを最適配分】

各地の学校で教育活動の充実が進められ、特色ある教育活動も実に様々なものが見られるようになりました。目を見張るばかりです。その一方で、以前から行われていたことも効果を確かめることもないまま、慣習的に続けられ、新しい取り組みが加わるごとに教育活動が肥大化、複雑化の一途を辿っているケースも少なくないように見受けられます。
やることを追加していくだけでは、限りある教育リソースの枯渇は避けられず、生徒も個々の学習機会に十分な準備を行ったり、仕上げに取り組んだりできなくなり、大きく確かな実りは得にくくなるばかりです。
多様なパーツが組み込まれることで「学校が目指しているもの」をわかりにくくしてしまうことも大きな問題ではないでしょうか。

2014/07/15 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 役立っているか、という訊き方に内在する限界

校内の教育資源に限りがある以上、「スクラップ」なしに「ビルド」はありえません。別稿「効果測定とスクラップ&ビルド(教育資源の最適配分)」でも書いた通りです。
教育活動の一つひとつについて効果を確かめながら(=評価を行いながら)、優先順位を考えて取捨選択していく必要がありますが、そこでは学校評価アンケートのデータも上手に活用したいところです。
アンケートで効果を尋ねる(評価してもらう)と言っても、個々の教育活動について「役立っているか」とダイレクトに聞いてみたところで、リソース配分の判断材料として有益なデータは集められません。
生徒や保護者は、その教育活動が導入される以前との比較ができませんから、「どちらかと言えば、役に立っている(のではないかな?)」と答えるのが精一杯だと思います。
先生方にしても、客観的な効果測定の結果が揃っていなければ、感覚に頼った評価しかできません。思い入れをもって取り組んでいる先生は、たとえエビデンスがなくても心情的に「役立っている(はず)」と答えるでしょうし、力を入れるべきことは他にあると考える先生が実態より否定的な評価をしがちになるかもしれません。

❏ 尋ねるべきは、教育活動/指導を通して目指した変化

取り組みの有用性を「〇〇は役に立っているか」と尋ねても、「どこに着目して、どういう基準で」がはっきりせず、主観的なばらつきのある評価結果しか得られません。
そもそも、生徒も保護者も、ある程度まで評価できる(振り返ることができる)のは、多くの場合、自分のこと/我が子のことに限られます。教育活動全体については判断材料を持ち得ません。

個々の取り組みが目指した成果(期待した行動や考えの変容や獲得させようとした能力や資質など)に焦点を当てて、それが自分/我が子の中に生じているかを尋ねた方が、答えやすく、且つ有益なデータの得られるアンケートになります。
例えば、社会に参画する意欲と姿勢を養おうとして導入した「地域連携の体験型行事」について生徒の評価を得るとき、「○○(=行事名)は役立ったか/教育的に成果をあげたか」と訊かれても生徒は戸惑いますが、「社会の中で自分にできる役割を探したい/引き受けられるようになりたいと思うか」であれば直観的に答えを選べます。

❏ 肯定的な回答の増える様子から指導の効果を探る

如上の訊き方で答えを集めても、その時点の集計値だけでは、そういった資質や姿勢をもともと備えていたのか、教育活動を通して獲得したのか判別がつきません。
教育活動を行った時期を挟んで、その前と後で同じ質問に答えてもらえば、回答分布の変化で行事の効果を推定することもできるはずです。
行事を開始した学年とその前の学年とで比較ができれば、学年全体への効果も推し量れますし、同一学年を追跡して回答の変化を捉えていけば時期ごとの変化量から、その期間に行った指導の成果も窺えます。
学校評価アンケートはたいていの場合、年度毎に1度の実施ですので、特定の教育活動の成果をピンポイントで測定するには適していません。補完には、行事を経験するたびにミニアンケートを行い、回答データを蓄積しておき、学校評価アンケートと一緒に解析するのが好適です。

❏ 任意参加行事の効果は参加者/不参加者の比較で

任意参加の行事なら、参加した生徒/しなかった生徒でデータを分け、双方の変化量の差を統計的に検証すれば、効果の有無を推定できます。
下表は、生徒を対象に行ったアンケートでの、「進路選択に至るまでに納得いくプロセスを辿れたか」という質問に対する回答(得点化済み)と、ポートフォリオの活動ログから抽出した進路行事への参加状態/取り組み状況のデータを組み合わせて作成したものです。
前者を目的変数、後者を説明変数として回帰分析を行い、回帰係数とその有意性を検証した結果を表示しています。

画像


P値が0.05未満なら、95%の確率で有意差があるということですが、ここでは網掛した3つを除き、どれも有意差が生じていません。オープンキャンパスの訪問数に至っては、回帰係数がマイナスです。
夏休み中の生徒に課したノルマは、効果を検証されないまま、リソースとエネルギーを無駄に投じて、自己目的化してしまっていたということになりそうです。
全員参加の行事でも、活動ログに照らして、好ましい取り組み方をした場合と形だけの参加で済ませた生徒を分けてみれば、適切に取り組ませた場合に期待できる成長度も探れるはずです。

❏ 目指すべき学校像の実現に「リソースの集中配分」

学校評価アンケートを行う目的は、「目指すべき学校像に近づいているか」を様々な立場からの目で評価して、その実現に向けた課題の所在を探り、今後の戦略を立てることにほかなりません。
教育活動の拡充を図るだけでは、リソースの枯渇は目に見えていますので、個々の活動の効果を測り、効果の薄いものは手仕舞いにするか縮小するかの対応を取り、そこで浮いたリソースを重要な活動に厚く配分していくべきです。
学校の教育目標を達成するのに、個々の指導がどれだけ寄与しているかを推し量るには、教育目標の達成に近づいた生徒の行動や意識に現れる変化に焦点を当てた質問を設定しておき、それを目的変数、個々の教育活動に関する評価項目を説明変数とする重回帰分析が便利です。
もう少し簡便に済ませるなら、如上の目的変数との相関係数を算出しておき、相関係数と換算得点で散布図を描いてみるという手もあります。
散布図の中には「相関係数が大きく、換算得点が低い項目」が一目瞭然になるはずです。それを「最優先して改善に取り組むべきことがら」と位置付ける一方、相関係数が有意性を確認できないほど小さいものは、ちょっと後回しにしても良いのではないでしょうか。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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