相手に合わせて質問もアレンジ(学校評価アンケート)

昨日に引き続き、学校評価アンケートにおける質問文のお話です。学校評価アンケートでは、生徒、保護者、教職員の三者評価や、地域を加えて四者評価とするケースが多いようですが、同じ項目について尋ねる場合でも、回答者の認識のあり方やその及ぶ範囲をきちんと踏まえた質問を起こすことが大切です。

2016/10/19 公開の記事をアップデートしました。

❏ 例えば、勉強と部活動の両立について尋ねるとき

部活と勉強の両立を校是として謳い、実現を追求している学校では、これを評価項目に入れないわけには行かないはずです。
様々な立場の関係者からの評価や意見を募り、実現に向けた取り組みの進捗を探ったり、学校の教育目標の実現にさらに近づく方策を考えたりするのが学校評価を行う目的です。
そこで問題になるのは、「勉強と部活の両立」について評価を求めるときに、生徒、保護者、教職員に対してどんな訊き方をすべきかです。
同じ質問文で三者に尋ねるという固定観念に縛られて、「本校の生徒は学習時間を確保しながら部活との両立ができていると思いますか」などと訊いてみても、三者すべてが戸惑いなく回答できるとは思えません。

❏ 生徒への質問文では、自分のことに焦点を

生徒に対して「本校の生徒は…」と聞いたところで、生徒は面食らうばかり。どう答えたものか迷います。
「自分はOKだと思うけど、クラスの皆は…ウーン」、あるいは「自分はともかく、他の皆は頑張っているんでは?」と考える生徒は、YESで答えるか、NOで答えるべきか判断がつきません。
生徒に対しては、「あなたは」という二人称単数で聞き、自分自身のことに焦点を当てて答えてもらうのが良さそうです。
こうした聞き方をしておけば、YESと答える生徒の割合で、クラス間や年度間の比較を行うこともできる上、経年的な変化も追えます。
クラス間、年度間で比較するのは、序列をつけることが目的ではありません。優れた評価を得たクラスを見つけて、倣うべき手法を抽出・共有することや、指導改善を図ったときにその効果を測定するためです。
実際に、データを見てみると、同じ学年でもクラスによってだいぶ違う結果が出ます。好適事例を抽出できれば、学校全体での教育活動を改善する上でのヒントが得られるはずです。

❏ 保護者が答えられるのは、家庭での姿から窺える範囲

保護者に対しても、先の「本校の生徒は…」という質問をぶつけても、確固たる答えは返ってこないと思います。「その実現に学校は真摯に取り組んでいる」と尋ねても同様でしょう。
身だしなみや挨拶の様子などのように、何かの折に学校を訪ねたときの様子から直観で答えを選べる項目ならともかく、勉強と部活の両立への取り組みとなると、ちょっと見てわかるようなものではありません。
「お子様は、部活との両立を図りながら、学習時間も確保していますか」という質問なら、家庭での姿からYES/NOの判定をできそうです。但し「部活動はしていない」という選択肢の追加も必要ですが…。

❏ 教職員に対しては、教育活動の適正さを焦点に

教職員に自己評価を求めるときには、また違った訊き方が必要です。
そもそも、生徒が勉強と部活の両立を図っているかどうかは、部活動の参加率と学習時間調査の結果を照らし合わせればわかること。訊くべきところは、両立に向けた自分の/学校としての支援についてでしょう。
ちなみに、この観点での評価を行うなら、どの程度の参加率や学習時間が適正かの「基準」が必要です。先生方がそれぞれ「自分の基準」で評価していては、定量的に処理できるデータになりえません。

過年度生のデータを辿り、目標とする進路希望を実現した生徒の平均的な学習時間を目標とする方法もあります.。
もう少し精緻にやろうと思えば、「第一志望を堅持して進路希望を実現したかどうか」を目的変数とする回帰分析を行い、学習時間における境い目を探ることも可能でしょう。
こうした基準を、論拠とともに示すことで、生徒に対しても学習時間を確保することへの動機づけができるはずです。

話を元に戻しますが、教職員に尋ねるべき質問は、「本校では、生徒が勉強と部活を両立できるよう適切な指導がなされているか」です。
家庭学習時間は、各授業で適切な(=達成可能性が担保され、取り組んだ成果を生徒が実感できる)課題が与えられているかで左右され、勉強と部活のバランスや優先順位は部活顧問の指導に影響を受けます。
先生方が共通理解の下で、それぞれの立場から「両立に向けた適切な指導」を行わずに、生徒の側での頑張りばかりを求めてはいけません。

❏ 地域には、学校をよく理解してもらうことを主眼に

四者評価をやろうとする場合、地域も対象に加わりますが、ここで優先すべきは「学校の取り組みをよく知ってもらう」ことだと思います。
地域の方が生徒と接触するのは、生徒の通学時間や部活などで見かける校舎外の姿ですから、「勉強と部活の両立」について評価を求めるのもどうかと思います。「尋ねない」というのが正解でしょう。
地域の方には、学校の取り組みや姿勢を知ってもらうべく、学校が重点的に取り組み、成果を上げている取り組みについて「尋ねることで関心を持ってもらう」ことに注力するのも合理的な判断かと思います。
理解者と協力者を地域の中でも増やしていくというのが、対外的な学校広報の基本的スタンス。アンケートで尋ねてみることで「認知」が生まれれば、その先には「理解、共感、選択/協働」が期待できます。
もし、勉強と部活の両立を図る/支援する指導が一定の成果を得ていたら、エビデンスを添えてその様子を学校HPで伝えましょう。
アンケートの質問文の傍に、該当ページへのQRコードを添え、評価に際して参考にしてもらえば、「認知」の先の「理解」も期待できます。
質問文としては、「生徒が勉強と部活動を両立させる指導を展開してきました。本校のこれまでの取り組みは十分に評価できると思いますか」くらいの表現に落ち着くのではないでしょうか。
次稿「属性情報を取得することで」に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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