教育目標や指導方針をちゃんと伝える

学校評価アンケートの回答データを分析していると、「教育目標や指導方針をちゃんと伝えていなかったばかりに、様々な指導や学校の姿勢に対する評価が実態を下回る結果になってしまった」と思われるケースをしばしば目にします。
個々のクラス単位でも「生徒に期待する行動を担任の先生が明確に示している」かどうかで、他領域の指導に対する評価も大きく変わります。
個々の指導に込めた意図を正しく理解してもらったり、学校が整えてきた環境やシステムを肯定的に評価してもらったりするには、その背景にある「目標としているところ」(教育目標)や「大切にしていること」(指導方針)をしっかり伝えておくことが何より大切です。
教育目標や指導方針の説明や発信は十分かどうか、学校評価のみならず様々な機会に常に振り返ってみる必要があると思います。そうした発信の大前提である「教育目標や指導方針の校内(=教職員間)での正しい理解と共有」に改善すべき点が残っているかもしれません。

2016/12/05 公開の記事をアップデートしました。

❏ 目標や方針の周知は、個々の指導の評価を左右する

学校の教育目標が正しく理解されているか、あるいは生徒指導や進路指導の方針が明確に示されているかは、学校評価アンケートなどにおいて評価項目に是非とも組み込むべきものです。
 「教育目標や指導方針の説明は十分か」

 「学校の取り組みは正しく伝わっているか」

 「生徒指導の方針はわかりやすく、納得できるか」

 「先生方が生徒に期待する行動は正しく伝わっているか」
こうした観点での質問に対して肯定的な答えを選んだ生徒や保護者と、それ以外とでは、他の教育活動への評価を求めた質問への回答でも分布がまったく違ってきます。
個々の教育活動や指導の改善・充実を進めることが大切なのは言うまでもありませんが、説明不足で意図するところや取り組みの実態が正しく伝わらないのでは正当な評価は得られず、成果検証やその結果に基づく課題形成にも歪みが生じるリスクを抱えます。

❏ 相関の背後にあると考えられるメカニズム

このような現象が生じるのには、2つの理由があるように思われます。
一つは、目指すべきところをきちんと伝えることで、個々の指導や活動の必要性や合理性を理解してもらいやすくなるということです。
個々の指導に込めた先生方の意図が伝わらなければ、「無理強い」「場当たり的」といった好ましくない印象を持たれる公算も高くなります。
目指すべきところがはっきりしていれば、自分が/わが子がそれを達成できたのか/接近できているのかの判定もしやすくなりますが、成長を実感できれば、それは「指導の効果」と認識してもらえます。
もう一つは、先生方が教育目標や指導方針を深く理解していることが背景要因となって、「指導の方針や意図の説明をしっかり行う」と「改善を重ねた、ぶれない指導が大きな効果を得る」という、本来は別のことが同時に起きる(相関する)というメカニズムです。
例えが何ですが、アイスクリームと水難事故の「相関」(気温が高くなれば、アイスクリームがよく売れ、他方で水の事故も増えた結果、あたかも両者の間に因果関係があるかのように見える)と同じですね。

❏ しっかり伝えようとすれば、より深く確かな理解に

生徒や保護者に、アンケートを通して「教育目標や指導方針の説明や周知の度合い」を尋ねた結果を目にすることで、先生方はご自身の発信が十分であったかどうかを確かめる材料を得られます。
説明や発信が足りなかったことに気づけば、教育活動に込めた思いを伝える機会を増やすと同時に、「どのように表現すればより効果的に伝わるか」も考えることになります。
より効果的な伝達のための表現を考える中では、改めて指導目標や教育目的、さらにはそれらの背後にある「建学の精神」や「教育理念」にも立ち返ってみることも増え、ご自身の中で、より深い理解が形成されるのではないでしょうか。
目標や方針に先生方ご自身が強く共感していなかったり、深いところで理解していなかったら、生徒や保護者に強い思いを自分の言葉で伝えることなどできません。
生徒や保護者にどれだけ伝わったかを「検証の指標」に、より良く伝えようとする努力の中で、伝えるべきこと(内容)をより深く理解し、整理が進めば、それらを反映して、個々の教育活動/指導も教育目的との整合性の高い、より最適化されたものになるのではないでしょうか。

❏ 評価項目に「目標・方針の周知」を加えることの効果

教育目標や指導方針の周知・理解を学校評価アンケートで生徒や保護者に尋ねてみることの効果と目的は、発信が十分かどうかの評価を得ることに止まらないということです。
学校全体で、当該項目の評価が低かったり、学年・クラス・年度による違いが大きかったりといった「結果」を前に、先生方の目線合わせや、その前提となる「教育目標の深い理解の共有」が十分であったか振り返ってみる必要があります。
もし、こうした主旨の質問項目がこれまで学校評価等のアンケートに組み込まれていなければ、新年度の質問設計にはしっかり加えましょう。
当然ながら、評価項目/質問設計に変更を加えるということは、評価の基準が変わる(=学校経営や教育活動に修正舵を入れる)ということなので、しっかりと校内にその旨を周知する必要があります。

生徒、保護者向けのアンケートだけでなく、教職員アンケートや期首・中間・期末の面談や自己評価シートなどにも、同じ観点での評価項目を加えることで、教育目標の達成に向けた現場の先生方のコミットメントが高まったとのお話も、あちらこちらで耳にします。

❏ 正しいデータで、教育改善と学校広報

教育目標や指導方針の説明や周知が徹底されなかったことで、個々の教育活動への評価や「入学して/させてよかった」という総合評価が下がったとしても、原因がそうとわかっているならそれで良いのでは?/大した問題ではないよね?と考えるのはリスキーです。
そもそも、データで検証してみなければ、「周知の不足が評価を下げたのか」「周知しているのに低評価なのか」の切り分けもできません。
確かに、学校評価アンケートの集計結果は数字に過ぎませんが、教育活動の効果測定/成果検証を行う上で他に代えがたい重要な指標です。
的確な取り組みで教育効果をあげているのに、別の理由(ここでは周知と説明の不徹底)が原因で数値が上昇しなかったら、「倣うべき優れた実践」も埋もれたまま、抽出して共有することができなくなります。
効果があった取り組みなのに、共有も継承もされなければ、学校経営の継続的な改善はできませんし、改革が後戻りすることもあり得ます。
そうした「歪み」で改善効果を可視化できなくなっては、「指導の効果を示して理解者と協力者を学校の内外に増やす」という広報(パブリック・リレーション:ステークホルダーとの良好な関係作り)の目的に近づくための材料/エビデンスも揃えられなくなってしまいます。
理解者の中には、いずれ学校に入学してくるかもしれない「地域に住む受験生とその関係者」も含まれますので、巡り巡って生徒募集にも影響が及ぶと考えれば、軽んじることはできないのではないでしょうか。
教育活動を通じて達成を目指すところをしっかり伝えて、評価結果から歪みやノイズを取り払うことや、その準備として教職員の間で教育目標の正しく深い理解を形成することは、学校経営の重要な課題です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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