授業改善には授業デザインを先行させる

深く確かな学びを実現する授業を構成する要素には、話し方や板書、指示や説明、確認の取り方などの「伝達スキル」と、学習目標を共有したり、学んだことを使う場を整えたり、対話を通して学びを深めたりといった「授業のデザイン」の2つがあります。
伝達スキルの多くは、個々の先生に内在するものであり、参観などを通じて優れた手法に触れたとしても、その場から自分のものとして自在に使いこなせるようになるとは限りません。
生徒の学びは瞬間ごとの成果の積み上げですから、伝達スキルが改善するまで待ってもらうわけにもいかず、少しでも早く生徒が学びの成果を得られる状況を作る必要があります。
こうした場面では、授業デザインの改善を先行させましょう。
こちらに含まれる要素は、先生方の間で共有が比較的容易な「外在知」です。活用機会としての好適な問いや課題なら、紙やデータでのシェアは瞬時で行えますし、それらを軸にしてどのように授業を進めるべきかも指導案を介して伝えられます。
個々の授業の学習効果への寄与度では、活用機会や授業内活動が大きな部分を占めますし、授業デザイン/活動の配列さえ正しく整えば、別稿でお伝えした通り、生徒同士の教え合いなどをしっかり機能させることで伝達スキルの不備・不足はある程度までカバーできます。
授業デザインの改善を先行させることは、「生徒に学びの成果の積み上げを待たせない」という最優先事項の実現に大きく寄与するはずです。

2017/02/06 公開の記事をアップデートしました。

❏ 伝達スキルの不備は何としても解消したい

学習効果(授業を受けて生徒が実感する学力の向上や自分の進歩)を大きく左右するのは、目標提示、活用機会、授業内活動といった「授業デザイン」に含まれるものであるのは、以下のデータが示す通りです。


しかしながら、その一方で、伝達スキルに不備・不足があると、学びが成果を結ぶのが妨げられます。直感でも「わからなければできるようにならない」というのは想像できますが、データも「指示と説明」の評価結果が「学習効果」の上限をほぼ決定していることを示します。

 

❏ 伝えるための技術を改めるのは時間がかかる

授業評価&生徒意識アンケートの結果をもとに、教員単位、授業単位で集計値を追跡してみると、短期的には、伝達スキルよりも授業デザインの方が、改善が進みやすいことがわかってきました。
初回実施の結果に基づいた集計結果分析を行い、そのうえで第2回の授業評価アンケートを行った学校のデータで検証してみたところ、伝達スキルでは平均値に第1回と第2回で有意差がないこともしばしばです。
伝達スキルで有意な変化が確認できるのは、たいていの場合、3回目、つまりは初回実施から1年後、あるいは4回目(課題形成→改善行動の効果検証のサイクルがふた回りしたとき)です。
長年の経験の中で先生方が培ってきた「伝える技術」を更新するには、初回の結果に基づいて改善課題が特定されてから2回目のアンケートが実施されるまでの数か月では期間が足りないということです。
伝達スキルに見出された不備の解消に集中するという戦略では、学びの成果(学力の向上や自分の進歩)を実感できる授業を、生徒はかなり先まで待たなければならないということになってしまいます。
これに対して、授業デザインの方はというと、初回から第2回にかけての変化量(改善幅)が伝達スキルの2倍以上も大きく、母平均の差にも統計的な有意性が確認できます。
冒頭でも書いた通り、活用機会としての好適な課題や問いの設定、それらを使った目標提示や学びの仕上げといった「授業の進め方の設計」に関する部分は、先生方の間での共有が短期間に且つ確実に行えるというメリットが、授業改善に要する工期を短縮してくれるということです。

❏ 授業デザインの改善がもたらすメリット

問いを軸にした授業設計に転換を図ると、様々なメリットが生じます。これらが相まって、仮に先生方の伝達スキルに不備があっても、生徒の学びを止めない「学ばせ方」ができるはずです。

1. 学習目標をより良く把握することで、理解力の底上げが図られる

解くべき課題を通して生徒は学習目標を把握します。(別稿参照)何を目指している場面なのかしっかりわかっていれば、目的に照らして個々の説明をより良く理解したり、理解の不足を思考で補えます。
例えば、レンガを渡されて、どう積み上げるかひとつずつ指示されたとします。最終的に完成させるものが橋なのか城なのかを知らされていれば、全体をイメージしながら一つひとつの指示を理解できますが、完成像がイメージできなかったり、違うものを想像していたとしたら、指示を理解し損ねたり、うまく行っているのかピンと来ないまま、もやもやと指示に従うしかありません。

2. 活動性が高まれば、教え合いや気づきの交換で集団知が働く

教え合い・学び合いは、生徒が互いの知識や理解を持ちより、協力の中で不明を解消していく活動です。先生が説明して聞かせる場面ばかりでなく、生徒同士の話し合いや考えたことを説明し合う場を授業の中に設ければ、その中で生徒は互いの不明を解消するチャンスも生まれます。
先生の説明を聞いているだけでは、説明の中に生じた不明を解消するすべもなく、不明は雪だるまのように膨らむばかりです。
また、協働で解決すべき課題があれば、対話も自己目的化することなく活性化し、気づきなどの交換で思考は拡充し、一人ひとりが持ち合わせていた道具立て(知識・理解、思考力など)の限界を超えた課題解決力を発揮できるはずです。
集団知の利用によって自分ひとりでは解決できなかった問題に解を導けたという体験は、協働性や学びへの自己効力感も高めます。

3. 教科書や副教材をコンサル先に必要な情報を集め、理解を形成

丁寧に教えて理解させるというだけの戦略から、不明や疑問があれば、教科書や副教材を読んで自力で理解する/必要な情報を集めて知識に編むようにさせることに指導の方針を転換しましょう。
前者の戦略では、先生方の説明に不備があれば、生徒も巻き添えにして学びの成果を損ねさせてしまうばかりか、学習者としての自立に向かわせるのに必要な学習方策の獲得にもブレーキをかけます。

こうした姿勢と方策を学ばせるにはPBL(課題解決学習)の要素を備えた授業デザインが不可欠です。
教室でしかできない学びを充実させ、貴重な授業時間を最大限有効に使うにも、問いを軸に授業を設計することが大切とお考え下さい。

❏ 授業改善を停滞なく、着実に進めるために

授業デザインを整えることは、生徒の理解力をきちんと引き出すことになるため、仮に教える側での伝達スキルに問題が残っていても、それが学習者側のデメリットに転じにくくなると考えられます。
繰り返しになりますが、授業デザインは「やり方や手順に関する知識」が占めるところが多く、好適な実践に倣うことで比較的短期間のうちに改善が図れます。授業デザインの改善で生徒の学びを確かなものにした上で、伝達スキルの改善にじっくりと取り組みましょう。
教えたことをそのまま記憶させ、再現を求めるだけの流れでは「伝えたつもりなのに伝わっていないこと」(=伝達スキルの不備がもたらした結果)にも、気づけないことが多いはずです。
獲得させたはずの知識・理解を、学ばせたときとは異なる条件・文脈で使わせてみて、それらが正しく「生きて働いているか」を確かめることに注力しましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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