対話で行う理解確認

生徒の理解を一つひとつ確かめながら授業を進めることは、学びの成果を積み上げるのに不可欠なのは言うまでもありません。実際のデータでも、理解確認と学習効果の間には、かなり強固な相関が見て取れます。

散布図に重ねたヒストグラムを見ての通り、学習効果が75ポイント(=否定的な回答が10%未満となる水準)に達する授業が半数を超えてくるのは、理解確認の換算得点が80ポイント以上に達したときです。

2018/08/03 公開の記事を再アップデートしました。

生徒の理解を確かめるときの鉄則は、「その場で」「言語化を通じて」の2つです。日々の授業でこの鉄則を守れているかどうか、時々は振り返ってみましょう。

❏ 理解の形成を図ったら次のフェイズに進む前に理解確認

授業中のある瞬間に「不明」が生じると、その後の学びは土台(=前提理解)を欠いたものになり、正しい理解を積み上げられません。後になって「そういうことか」と腑に落ちる時ばかりではありません。
こうしたリスクを避けるには、理解の形成を図るフェイズが終わるたびに、間を置かずに(=その場で)理解を確かめる必要があります。
後日、小テストなどを行っても確かめられるのは、覚えたかどうかだけですし、授業を受けている途中で何らかの不明が生じたのにそのまま進んでは、固まらない土台の上に学びを重ねることになってしまいます。
授業を通じて理解させたことを用いて課題の解決に挑ませる前にも、確認は必須です。わかっていないのに課題に挑ませては返り討ちに会うばかりで、自信を失わせるだけです。

❏ 問いを投げかけ、思考の結果と過程を言語化させる

獲得させた知識が正しく働いているか(=理解できているか)を確かめるには、それら(=知識、理解)を用いて答えを考えさせる「問い」を投げかけてみる必要があります。
求答式(語句などを単体で答えさせるタイプ)や選択式の問いでは、理解を伴わない丸暗記でも正解できてしまいますし、そもそも知識や理解が「生きて働いているか」(=正しく活用できるか)はわかりません。
どんな問いを用意できるかが、生徒の理解を正しく測定できるか否かを分けます。ある項目に立ち止まって時間がかけられないときも、用語を使って何かを説明させるくらいの「思考と表現」の場は作りましょう。
思考の結果と過程を言語化させてみること以外に、生徒の頭の中を覗き込む(=何が起きているかを外から観察する)方法はないものとお考え下さい。cf. 活動させるのは観察のため~「観察の窓」を開く
別稿「振り返りのためのアウトプット」で書いた通り、「理解しているかどうか」は、学ばせたときと違う形/文脈で確かめていきましょう。同じものでは丸暗記、ただの記憶と再現しか求められません。
また、言語化した思考を教室内でシェアすれば、様々な気づきの交換が生じ、より深く、広い思考を生徒に体験させることもできるはずです。cf. 対話により思考の拡張を図り、観察の窓を開く

❏ 確かめたことを土台に問いを繋ぎ、思考を深化

ある事柄の理解を確かめたら、それを土台に次の思考をつないでいきたいもの。「理解したら後は覚える」だけでは、物足りなさも感じます。
こちらからの問いに、生徒が何かを返してくれたら、それを拾って次の問いに繋いでいきましょう。「どうしてそう言えるのか」「なぜそう考えたのか」を問いかけ続ければ、生徒はそうした思考にも習熟します。
思考を言語化させる「メタ化」は、考えを深めさせるとともに、思考力そのものを鍛えることにも大きな効果をもたらします。
生徒が正解を返してくれた時以上に、誤答からもクラス全体の学びが展開できます。誤答に繋がったミス/勘違いなどを見つけ、そこから思考を辿り直していきましょう。cf. 失敗から正しく学べているか
問い掛けに、期待した通りの答えがなかなか戻らないこともあろうかと思います。個々の答えにレスポンス(正誤の評価など)をせずに、幾人かに続けて同じ質問をぶつけてみるのも良いかと思います。

たとえ正解でなくても、発言の中に含まれる「有効な気づき」をシェアすることで、クラス全体が答えに近づいていくこともあるはず。すべては、先生がどんな問いを発し、生徒の発言をどう拾い上げるかです。

理解確認のための問いへの「正解」は、先生が示すだけでなく、生徒同士での話し合い、教科書や資料、参考書を読んでの先人との対話などの中から見つけ出させるようにすると、より良い学びになりそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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