生徒が持つ知識/イメージを把握してから学びをスタート

新しい単元を学ぶ入り口では、生徒がこれまでの学習(教室の中に限らず生活を送る中でのもの)を通して、これから学ばせる内容/対象について何をどこまで知っているか/どんなイメージを持っているかを把握しておくことが大切です。
生徒が既に知っていること/イメージしていることと、授業を経て形成させるべき十分で正しい理解との「差分」を埋めることこそが、本時の指導で達成すべき目標である以上、学びのスタートで生徒がどこにいるのかを把握することはマストと言ってよいのではないでしょうか。

❏ 知っていることを自由に発言させてみる

単純に「〇〇についてこれまでにどんなことを勉強した?」「今日はイスラムの歴史を勉強するけど、イスラムに対してどんなイメージを持ってる?」などと訊いてみるだけでもいいと思います。
求められる正解がない問いですから、生徒は発言がしやすく、頭の中に浮かんだものを次々に言葉にしてくれるはずです。
少し形を整え、「戦国武将で誰が好き?」と訊いてから「何で好き?」と問いを繋げば、それに答えようと、知っていることを総動員します。
また、他の生徒の様々な発言に触れることで保持されていた記憶が次々と想起されますので、スタート時点での生徒がもつ知識やイメージは、比較的短時間のうちにある程度まで把握ができそうです。

中には、教科書や資料集の本時の学習範囲を開いて参考にしている気の利いた生徒もいるはずです。そんな姿を見つけたら、すかさず「なんて書いてある?」と振ってみれば、他の生徒にも同様の行動を促せます。
思いつくことを次々に発言させていけばウォーミングアップにもなり、その後の学習でも活発な発言を引き出しやすくなります。対話的な学びの実現に向けた「準備運動」といったところでしょうか。

❏ 発言を拾い上げながらマインドマップを描く

せっかくの発言も、聞き流していては少々もったいない気がします。
文字に書き出しておかないと、本時の学びに繋がる/役立つ発言があったとしても、その後のワイワイ・がやがやで意識から押し出されてしまい、学びの土台を膨らませることができません。
生徒の発言を拾い上げながら、先生が黒板を使ってマインドマップを描いていけば、本時の授業をスタートさせるにあたり土台とすべき「既習内容の全体像」のようなものが生徒の眼前に広がっていきます。

マップ内の「埋められずに残った箇所」を、導入フェイズ以降の本時の学びによってしっかり埋めていきましょう。
なお、口頭での発言は瞬時に消えるのに対し、黒板上に書き出された発言は消すまでずっとそこに残りますので、生徒の記憶を刺激する(保持されていたのに想起できなかった記憶を引き出す)効果も持続します。

❏ ICTを利用したミニアンケートでも

上記の導入アクティビティは、生徒が持つタブレットやBYODで持参させたスマホがあれば、Googleフォームなどを使ったアンケートを用いて行うこともできます。
教室内で口頭で行う場合よりも、文字にする分だけ曖昧さを削り落とした「発言」にもなりますし、ほぼ同時にあった発言も漏らさず拾い上げることができるため、早押しゲームのようなカオスも避けられます。
声の小さい生徒や遠慮がちな生徒も参加しやすいのも大きなメリットではないでしょうか。声がでかくてレスポンスの良い生徒が全体での発言を支配してしまっては、みんなの学びになりませんよね。
個々の生徒が周りのペースに煽られずにじっくり考えたり調べたりできることを優先したいときは、前時の終わりに如上のアンケートを公開しておき、次の授業までに回答させるというやり方もあり得ます。
教室での即興での発言に比べて文字に残っている分だけ、学習内容に対して生徒が持つイメージを把握するのに先生は少し余裕を持てますし、より多くの生徒の頭の中も覗けます。但し、アンケートの設定や回答に目を通す手間は増えますので、要所に絞った活用が適切だと思います。

❏ 導入フェイズで生徒の知識・イメージを把握(再)

繰り返しですが、いかに短時間のうちに、生徒の既得知識の分布や濃淡を把握するかは、授業展開を想定する上でも、本時の学びを円滑に指導するにも大切なこと。本時の学びの成果を大きく左右します。
授業の開始から、既に知っていることを長々と話されたら、「そんなこと、知ってるよ」と退屈するばかりです。生徒が「よし学ぶぞ」と思っていてくれたとしても、その意欲を台無しにしてしまいます。
真面目で優しい生徒は退屈を隠して先生の話に付き合ってくれるかもしれませんが、刺激がなければ意識は他に向かうのも当然。導入フェイズから居眠りや内職が始まっては実りある学びになりません。
本稿でご紹介した、導入フェイズにおけるフリーディスカッションやミニアンケートは、その要件を満たすものとして有用なものです。教科や単元の特性を踏まえた上で、機を見てお試しいただければ幸いです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一