強調の正しい方法(その4)

強調の目的が「目立たせることで、意識や記憶からこぼれることを防ぐこと」であるとすれば、教科書・プリントの重要ポイントにマーカーを塗らせることや、確認テストを行って覚える機会を増やすことも、広義には「強調の一種」ということになります。
いずれも広く使われている方法で、生徒も小学校以来の習慣の一つとして自然に受け入れていますが、使い方を間違えると強調の効果が薄まるばかりか、知識の断片化を加速させてしまうリスクも持ち合わせます。

2014/10/20 公開の記事を再アップデートしました。

❏ お手軽マークアップは知識を断片化させる

教科書やプリントの読み合わせを行いながら、重要ポイントを蛍光ペンでマークアップさせるのはよく見かける方法です。
色をつけた後は、その部分に視線が止まりやすくなりますが、色のついていない部分に視線が向けられにくくなり、結果的に「知識の断片化」を加速させてしまいます。
また、重要箇所にマーカーを塗ったところで生徒はその語句を手を使って一文字たりとも書いていない、というのも看過できないところです。デジタル時代に逆行するように感じるかもしれませんが、「手を使って書き写すことの大切さ」も決して軽視すべきではありません。
サブノート式に仕上げたプリントで空所に適語を埋めて行く作業でも同様です。埋める時には前後の文脈を読まざるを得ませんが、埋め終わったあとはその箇所ばかりに目が行きます。
穴埋めの「答え合わせ」でも、先生が空所に入れる語句だけを板書して生徒はそれをプリントに書き込むだけという場面が少なくありません。これもまた知識の断片化に拍車をかける一因です。

❏ マークアップは意図を明確に、必要最小限に

各地を訪ねて授業を参観していると、書画カメラに教科書やプリントを映して、説明しながら下線や傍線を引いたり、記号やメモを書き込んだりしているのを見かけることがあります。
説明を行っている間に限れば、どこを指しているかわかりやすくなる、というプラス面も確かにありますが、傍線・下線を書き足しているうちに、教科書には線の引かれていない箇所がほとんどなくなってしまうようでは、後で見直しても大事な箇所がどこかわかりません。
マークアップは、必要最小限に止めるからこそ効果的です。
また、「なぜここをマークアップしたか」という問いにきちんと答えられなければ、マークアップした意味そのものが失われているのではないでしょうか。
当たり前ですが、「大事だから」では答えになりませんよね。答えるべき問いは「なんでここが大事なのか」です。
ときどきで構いませんので、如上の問いへの答え(=マークアップした理由)を、教科書やノートの余白に生徒自身の言葉で書き込ませてみてどんなことが書かれているか机間指導中に覗き込んでみましょう。

❏ 生徒自身にマークアップすべき箇所を探させる

大事な箇所をマークアップさせるにしても、先生が逐一指示をしているだけでは生徒は自力で大事な箇所を探し出す練習を積めません。下手をすると探そうとする姿勢すら弱めてしまうリスクもあります。
教科書や資料を読ませ、押さえるべきキーワードを生徒自身にピックアップさせる練習も採り入れてみましょう。ピックアップする個数は必要最小限のラインを先生が予め決めておけばOKです。
キーワードは、単元や学習範囲を理解するのに欠かせない概念です。正しく選び出せるかで、学習範囲の理解度にもアタリが付けられます。
ピックアップしたキーワードには、生徒自身の手で「説明文」をつけさせても面白いと思います。説明しようとすれば、用語集などの参照型教材にも当たらざるを得なくなりますので、強調したい箇所に形を変えながら幾度も接触することになり、印象も記憶も理解も深まります。
参照した副教材には、どんどん書き込ませて「学習の痕跡」を残させましょう。再び同じ項目を調べたときには前回調べたときの記憶も蘇り、印象や理解が一層深まります。

❏ 対象語句を用いた論述問題を併用して理解を固める

全体像を把握しないまま他の項目と関連づけられていない知識は使えない(=生きて働かない)ばかりでなく、思い出せなくなったときに記憶を復元することもできません。
文脈から特定の語句を抜き出して覚えるのは効率的に思えるかもしれませんが、弊害を抑える工夫とセットにしないと学びを歪めます。
そのために有効な方法の一つは、覚えさせたい語句をリストアップしておき、それらを用いたまとまりのある論述を課すことです。
例えば、「以下の語句7つすべてを用いて、荘園制度の起こりを200字程度で説明しなさい」という問いを提示すれば、使うべき語句への注目は当然高まりますし、一つひとつが表現すべき内容の中でどのような位置づけと意味を持つのかも考えます。
こうした問いは、授業内で答え合わせまで進めようとすると、生徒が自分の答えを仕上げ切る前に正解例を先生が示してしまうことになりがちです。答えを示されたら生徒はそれ以上考え続けることを止めてしまいますので、授業を跨いだ「次回までの宿題」として、しっかりと自分の答えを仕上げさせましょう。(cf. 答えを仕上げる中で学びは深まる

❏ テストの目的を「覚えること」に偏らせない

小テストを行い、合格するまで再テストを行うのは生徒にきちんと覚えさせたいとの意図によるもの。広義の「強調」に当たります。計画的に実施すれば、学習習慣の形成にも役立つ部分もあります。
しかしながら、テストや宿題を課して覚させようとする外圧方策は、テストも宿題もなければ覚えようとしない生徒を生むリスクを孕みます。
また、教えたことを同じ形で問う(=そのまま復元させる)ことを繰り返しても、丸暗記を助長するばかりです。
定期考査などあまり遠くない時期に用意された「関門」に向けて、当座の記憶に刷り込むことはできるかもしれませんが、深い理解などを伴い長く記憶に残るかというと疑問ですし、覚えさせた知識・理解が「生きて働くもの」になるとの保証もありません。
そもそも、学校を出たあとの実生活の中では、必要な知識や情報はその場で検索して利用することも多いはずです。覚えている量が課題を解決する力を表すわけではありません。
教えたことを覚えさせることにばかり力を入れ、その期待に忠実に応えた生徒に良い成績をつけるのでは、生徒の学びに誤った方向を与えてしまう可能性もありそうです。知識は考えるための道具として不可欠ですが、覚えてしまえばそれで学習が目的を達したわけではありません。
別稿「ノート持ち込み可の定期考査がもたらすもの」でご紹介した取り組みは、新しい学力観のもと、これまでのテストのあり方を見直そうとするものであり、注目に値すると思います。
その5に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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強調の正しい方法(その3)Excerpt: 強調は、印象と記憶を刻み込むために行う行為です。重要度に応じたエネルギーを学習者に使わせているかは、常に意識して点検しておく必要がありそうです。
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強調の正しい方法Excerpt: 様々な手法で行われる強調が、「目立たせることで、聞き漏らしや見落としを防ぐ」という本来の目的を達するためには、どこを強調すべきか、情報の重要度をきちんと判断することを先行させる必要があります。その上で、重要度に応じた適正なエネルギーを学ぶ側に使わせる、という発想で、その場に合った方法を選んでいく必要があります。
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知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得Excerpt: 知識の整理と拡充を図る場面でよく用いられている方法に、蛍光ペンでマークアップさせたり、サブノート式のプリントを用意したりといったものがあります。限られた授業時間の中で、必要な知識をピックアップして漏らさず伝えていくには、合理的で効率的なやり方に見えますが、弊害も少なくなさそうです。
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話し方・伝え方、強調の方法Excerpt: 1 わかりやすい話し方1.0 わかりやすい話し方(序) 1.1 わかりやすい話し方(その1) 1.2 わかりやすい話し方(その2) 1.3 わかりやすい話し方(その3) 1.4 わかりやすい話し方(その4) 2 強調の正しい方法2.0 強調の正しい方法 2.1 強調の正しい方法(その1) 2.2 強調の正しい方法(その4) 2.3 強調の正しい方法(その2) 2.4 強調の正しい方法(その3) 2.5 強調の正しい方法(その5)
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