改めて迎える「新年度」の始動に当たって押さえたいこと

緊急事態宣言の解除を受け、様々な活動が再開します。学校もリモートでの学習指導を続けてきたとはいえ、学年での指導、進路指導、生徒会活動なども含めた学校全体の教育活動では「改めての新年度」です。
新しい生活様式の中でどんな学校を作るか/作りたいか、展望と意志を示し、校内外のステークホルダ(生徒、保護者、教職員、地域の方々)の理解と共感を得るべき局面であるのは、例年の新学期と同じです。
❏ 教員間の「目線合わせ」、生徒への「方針提示」
臨時休校前に描いていた当初の計画と、これから始まるwithコロナの環境下での教育活動とでは、最終的に目指すものは同じでも、実現に至る工程や手段は違ったものにならざるを得ません。
状況が変わった以上、計画の練り直しは不可避ですが、個々の対応を考えるだけでは目的とするところへの意識が薄れ、ブレも生じます。
年度末から新年度に掛けて行った「指導方針の共有」や「指導に際しての目線合わせ」も、学校再開に臨むに際し、状況の変化を踏まえ改めて行う必要があろうかと思います。
分掌、学年、教科といった各組織で具体的な改訂指導計画の検討に入る前に、方針の共有や目的とするところの確認をしっかり行いましょう。
学年やクラスの生徒に対しては「HR開き」や「授業開き」からの再開です。生活・学習・進路の各領域での学年団や各教科からの「期待」をしっかり伝えるとともに、生徒一人ひとり、何ができて何ができていないのかじっくりと観察していきましょう。
タイトルにもある通り、これからの数週間はまさに「改めて迎える新年度」です。これまでの様々な発信や検討が行われてきたことと拝察いたしますが、それらを教育目的・指導方針のもとで結び付け直すところに立ち戻ってみることが、その後の動きをスムーズにするはずです。
新年度を迎えるに当たり~まとめページ(2024年度版)
❏ 目指すところをきちんと言語化
学校全体での教育活動について、目的や方針を共有するには、それらにきちんとした表現を与えることが大切です。「進路指導の充実」「深く確かな学び」「自律的な生活態度」といったフレーズでは、人によって解釈にばらつきが生じる上に、達成検証もできません。
どんな取り組みを行うか、指導を展開するかメニューを並べるだけでは、目的とするところが共有されないままです。「やりましたけど?」という履行を以て責任を果たしたかのような誤解も生みます。
こうした問題を回避するには、生活、学習、進路の三領域をメインに学校が教育活動を通じて実現すべき価値(=目標)をきちんとセンテンスとして書き出しリストにしてみるところから始めるのが好適です。並べて眺めてみると、項目間につけるべき優先順位も見えてきます。
出来上がったセンテンス・リストは、少しアレンジするだけで学校評価アンケートの評価項目/質問文にも転用できます。新型コロナに削られてしまった教育活動に当てられる時間を有効に使うために、ある工程の成果はほかの目的にも使ってしまいましょう。
学校評価アンケート~質問設計を通して校是の共有
❏ 学習、生活、進路の各領域で想定される喫緊の課題
教科学習指導では、対面で行う教室での指導でどんな学習活動を重点化するか判断することになりますので、当然の帰結として、家庭学習の内容や取り組ませ方も大きく変わるはずです。
加えて、新課程の移行も眼前に迫っています。新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を急がなければなりません。
こうした変革への意識の持ち方には、現場で頑張る先生方の間でも大なり小なりの違いがあると思われます。学校全体で方向性を持った指導を実現するには、そうした意識の違い解消は喫緊の課題の一つです。
生活指導でも、年度当初からの働きかけは不足が積み上がっているはずです。生徒が協力し合って活動に取り組む中でしか得られないものを、例年より短くなったカレンダーの中にどう配列していくかも難題です。
遅れを取り戻そうと限られた時間に多くの活動を詰め込んでも飽和を招くばかりかもしれません。実現すべきことにきっちり優先順位をつけて、指導内容を精選する必要があります。
進路指導も遅れが生じているはずです。高3生は言うに及ばす、高1、高2でも進路意識の形成する過程を一歩ずつ踏ませるために配列していた体験の場、学びの場をどうリスケジュールするかが問われます。
こうした「場」を不用意に間引きしては、一つ一つの選択にじっくり向き合わないままの「とりあえずの選択」を助長するばかりです。
過年度の指導を振り返ってみたときに全体計画の中で位置づけや効果が曖昧だったものを軽量化したり、対象とする生徒を絞ったりするなど、必要な指導を必要な生徒にという姿勢で計画作りに臨むべきです。
❏ 再びの臨時休校に備えたリスクマネジメント
教室での対面指導ができない状況が再び生じても質を下げない指導が可能な環境とノウハウを作っておかなければなりませんが、それは教科学習指導に限ったことではないはず。生活指導、進路指導でも同様です。
再び危機(クライシス)が訪れたときにどうするか、対策を事前に練り上げておけば、学校再開後の教育活動の計画作りにも、リスクに怯えた消極的な判断をしなくても済むのではないでしょうか。
クライシスマネジメントに自信があれば、リスクをより大きく取った意欲的・積極的な教育活動に挑むことができるということだと思います。
未経験の課題には、過去の経験は教科書になりません。先生方が知恵を出し合い、考え尽くした中に答えを見つける姿勢が求められます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一