進学先や就職先を決めるのは、ここから先、自分がどの道を進んでいくのか(=進路)を選択することです。同時に2つ以上の道を歩くことはできませんから、他の選択肢に後ろ髪を引かれる思いがあっても一つを選ぶしかないのが通常です。この意味では「進路選択」というよく使われる言葉の成り立ちは十分に合理的なものだと思います。
これとは対照的に、「キャリア」は選ぶものではなく、積み重ねるものです。ある時点で選択した道を歩む中で、出会い、経験する様々なことに触発されつつ、次々と現れる分岐で重ねていった選択の結果、形成されるのがその人のキャリアではないでしょうか。
終身雇用が「昔話」になる日もそう遠くないかもしれませんし、平成の中盤には、様々な経験を計画的に積み上げて自らのキャリアを形成しようとする人も現れました。そろそろ「進路」と「キャリア」の区別を明確にしておいた方が良さそうです。
2015/08/04 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 進路の選択がキャリアを決定するわけではない
進路選択が差し迫った課題になる時期を迎えると、やりたいこと、興味のあることが見つからないことに焦りや悩みを抱える生徒が現れます。
小中学校で経験してきた横断的・体験的な総合的な学習と、そこで生徒が学んだことをベースに展開されるべき高校からの進路指導と結び付けた探究的な学習が十分な成果をあげていないせいかもしれません。
しかしながら、如上の「進路とキャリアの違い」を生徒も指導者も十分に理解できていないことが、生徒を不要に追い詰めているもう一つの原因になっている可能性も否定できないのではないでしょうか。
ゴールを決めて最短距離を歩くのとは違うアプローチもあるんだよ、ということを教えてあげるだけでも、やりたいことが見つからずに焦っている生徒に一歩を踏み出させることができるように思います。
❏ 面白いものを追及する中で出会う新たな興味
どんなことでも、面白がって突き詰めていけば、最初は見えなかったところに更なる深みや広がりがあり、そこには予想もしなかった面白いこととの出会いもあります。
日々の学習や様々な体験の中で出会った興味を放置せずに、より広く調べてみたり、探究を通して掘り下げて行けば、また新たな興味と出会うことになりますし、その興味を起点に選んだ進路を歩む中にもそうした出会いが待っています。
先に進んで学びを深めないと見えてこない景色もあります。今見えている世界の中に「一生をかけるに値すると思える営み」がないなら、先に進んでみるしかありません。
やみくもに進んでは、袋小路が待っているかもしれず、ある程度の展望を持つことは必要ですが、すべてを計算し尽くすことはできません。自分の中に生まれた興味に忠実であることも大切ではないでしょうか。
❏ 予期せぬ偶然との出会いでキャリアは形成される
ある局面での選択は、その後の選択肢の配列を変えてしまいますので、安易な態度で臨むわけには行きませんが、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」(ジョン・D・クランボルツ)という考え方もあります。
現時点で興味があって、より深く学んでみたいことがあれば、そこに足を踏み入れてみてこそ、予期せぬ偶然との出会いが期待できます。
変化が加速し、不確実性が高まる社会では、一つのゴールを設定して逆算的にルートを選ぶこと自体が、現実的ではなくなっているようにも思えます。今ある職業が、生徒がキャリアの中盤を迎える20年後、30年後に存続している保証はどこにもないはずです。
幸運にも存続していたとしても、環境や情勢の変化で、今の時代に放っている輝きがすでに失せていることだって十分にあり得ること。
将来のビジョンを描き、どんな人生を歩み、最終的にはどのような状況に身を置くかを考えたところで、思い描いた通りに実際のストーリーが進展するとは考えにくいような気もします。
こうした時代だからこそ、以下の三要件を常に意識し、充足しようと努力することがより良い人生を引き寄せるのではないでしょうか。
- 認知の網を偏りなく広く張ることで、偶然との出会いを見逃さないようにすること→認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ばせる
- 正しく事実を捉える姿勢(ファクトフルネス)を備えて間違った的に矢を射る愚を犯さないこと→探究活動を通して養うファクトフルネス
- そこまでに身につけた選択の力を最大限に発揮して、局面ごとに最善の選択を重ねていくこと→進路指導で育む“選択の力”
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追記: きっかけとなる興味さえ作れれば、それを突き詰めるうちに、新たな気づきや刺激を受けて、やがて「学びたいもの」 が見えてくる。その中にこそ、進路意識が形成されていきますが、いざその時を迎えて「手が届かないからあきらめるしかない」というのは悲劇です。
偶然との出会いに備え、しっかりと学力をつけておくことこそが、キャリア教育の真ん中にあるのかもしれません。
興味を見出すにも、対象とするものへの自己効力感が不可欠です。以下のデータは、学力や技能の向上、自分の進歩を実感できたところにしか興味が芽生えてこないことを示しています。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一