どの教科・科目でも学習の目標を生徒と共有しているかどうかは学びの成果を大きく左右します。授業の目的や取り組み方について十分に理解させてから学びの本題に入ることにより、生徒は、学力の向上や自分の進歩といった学びの成果をより確かに実感できるようになります。
❏ 学習目標の明示は学びが成果を結ぶ大前提
下表は、学習効果のクラス別集計値を目的変数、目標理解の同集計値を説明変数においた回帰分析の結果です。
目標理解:先生は達成すべき目標やポイントをはっきり示してくれる。
学習効果:授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる。
選択肢は「とてもそう思う」から「そう思わない」の5段階で、100点満点に換算します。否定的な回答が概ね10%未満となる75ポイントは、必達を目指したい水準です。
❏ 近似線から下方に大きく離れた授業では…
学習における目標理解と学習を通じた成果の間にはかなりはっきりした相関がみられるのは上の表に示した通りですが、同じデータから散布図を描いてみると、近似線から大きく下方に離れている授業も少なくないことがわかります。
近似線から下方に大きく離れて位置する授業では、学習目標の提示以外に学習成果を妨げているボトルネックが潜んでいると想定されますが、目標提示の方法自体にも改善の余地があるかもしれません。
❏ 何をしようとしている場面か、生徒は把握できている?
ここで重要なのは、結果学力としての到達目標を示すことだけでなく、「今、何をしようとしている場面なのか」をしっかり理解させること。
併せて「どうやって目の前の課題に取り組むか」を生徒自身が思い描けるようにすることも、積極的な学びの姿勢作りには不可欠です。
概念の導入から順番に進めていくだけでは、未習単元を学んでいる生徒にはその後の展開が想像できません。
最終的に解けるようにさせたい問題(練習問題や章末問題)を冒頭で見せて、手持ちの知識と理解で考えられるところまで考えさせてから新しい概念を導入するという方法もあります。
題意を読み取って図に書き起こしたり、わかる範囲で式に起こしてみたりすることで、生徒に「その先に進むために新たに学ばなければならないこと」に気づかせられれば、後の展開も想像がつきやすくなります。
❏ 取り組み方そのものは、きちんと伝わっているか
しかしながら、学習における到達目標は結果学力だけではありません。
学びへの取り組み方についてもポイントになる箇所や、生徒に身につけてもらいたいことがあるはずです。
そうした事柄を先生の側ではしっかり説明したつもりでも、生徒が理解していなかったり行動に繋げられなかったりすれば、学びの成果に結びつく形での活動を引き出せません。
やらせてみながら、取り組み方を生徒自身にも考えさせ、その場面で生徒がどんな行動を取っているか精緻に観察してみることが大切です。
言われた通りに手を動かしているからと言って、取り組み方を生徒が理解していることにはなりません。
それまでに教えたこと、やらせてきたことが初見の課題を解決するのにきちんと応用できているか確認したうえでないと、次の指導、有効な手立ても思い浮かばないのではないでしょうか。
■ご参考記事: 4月の授業開きを思い出して~夏を迎える準備
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一