その宿題、本当に必要ですか?(その1)

先生方の多忙はすでに広く認知された社会問題ですが、生徒の忙しさもかなりのところまで来ているように感じます。
こなしきれないほどの宿題を与えても、ひとつひとつの課題にじっくり向き合えなくなってしまっては本末転倒。仕上げ切らないことを常態化させてしまっては一大事です。
教材でかばんを膨らませても、学びが膨らむとは限りません。生徒に取り組ませているものを一度たな卸しして、必要性を判断した上で断捨離を試みる必要もありそうです。

2017/09/29 公開の記事をアップデートしました。

❏ ニーズの違いを見極めず、最大限の網を掛けると…

各単元を学ぶときにその核となる部分の理解は、どの生徒にもきちんと形成させる必要があります。認知の網に大穴を残しては偶然との出会いを活かせなくなってしまうからです。
しかしながら、その先の周辺知識をどこまで広げるか、学びをどこまで深めていくかは、本人の進路希望や興味の所在によってそれぞれ異なるのではないでしょうか。
科目に興味を持ち、その先にある研究に進みたいと思う生徒には、学びを十分に深め広げる機会を整えてあげるべきですし、国公立や難関私大を目指す生徒にも入学選抜の要求に見合った学びが必要です。
しかしながら、こうしたニーズに意識を取られ、受験に備える必要がない生徒にまで同じことを求めることが合理的とは思えません。すべての生徒をひと括りにして学ぶ範囲をいたずらに広げてしまうと、意図せぬところに弊害を抱えることになります。

❏ 知識の拡張範囲は進路希望に応じて複線的に

最も広く・深く学ぶ必要がある生徒の必要に他の生徒を付き合わさせるより、知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせてという発想で必達目標の先に数段階の複線的な要求を設定するのが好適です。
生徒が既に受験期を迎えているなら、進路希望別に宿題の範囲を指定する方法もあります。
このプリントは二次私大で受験科目とする生徒向け、センター試験だけのひとは傍用問題集の〇番と〇番、難関を目指す人は、〇〇大学の第〇問にも目を通しておくように、といったやり方です。
受験期がまだ先なら、必達課題を指定したうえで、それを達成できた生徒、さらに学びを広げたい生徒向けに任意の挑戦課題を与えるという方法もあるはずです。
単元の理解の核となる部分を授業でしっかり作っておきさえすれば、その先の知識の獲得は個人の活動を通じて行わせることもできます。

❏ 宿題には3タイプ~どれを中心に宿題を構成するか

宿題には、授業で学ぶ事柄との関係性において3つの種類があります。

 A: 授業で習ったことを反復する、「記憶と再現」タイプ

 B: 授業で扱えないことを宿題に回す「単語集・問題集」タイプ

 C: 授業で習ったことを使ってみる「活用機会」タイプ


これまでの指導/計画されている指導を見直し、A~Cの各タイプの比率がどのようになっているか確認してみましょう。
単元理解の核を作り、深く確かな学びを実現するにはCタイプの宿題がもっとも適していることは言うまでもありません。クラス全員に課す必達課題はこのタイプをメインにすべきでしょう。
Aタイプばかりでは、知識の定着は進むかもしれませんが、それが「生きて働く」ものになっているか不安が残ります。
獲得した知識を課題の解決に使ってみる機会が十分に用意されなければ、生徒は自らのインプットの不備を検知できなくなるばかりか、学習目標の認識が甘くなったり、学びを通じた達成感が希薄になったりといった問題も生じます。

❏ 副教材ベースの宿題は必要最小限に

授業時間の不足をBタイプの宿題を増やすことでカバーしようとする戦略がうまく機能している事例は私の知る限りほとんどありません。
使う機会が当面ない知識を積み上げることにエネルギーを投じ続けるのは、学習者にとって面白味もなく、学習意欲を消耗させてしまいます。活用場面を想定できないものを獲得するのは心理的に負担です。
生徒の持ち時間の大半がこれに使われては、最優先すべき課題解決を通した知識活用に配分する時間が不足し、深い学びの実現が遠のきます。理解の軸も作れなくなり、いざ知識の拡張に取り組ませる局面を迎えたときに、生徒が自力で進められる範囲が小さくなってしまいます。
Bタイプの宿題は必要最小限に抑えましょう。単語集や用語集、参考書などは、主教材を学ぶ中で頻繁に参照させる使い方が好適です。
主教材を学ぶ中で知らないことと出くわしたときに、副教材のページをサッと開き、自力で読んで理解できる状態に、できるだけ早い時期に到達させることが、学習者としての自立を促します。

受験が近づけば「覚える」ことに力を注ぐ場面が訪れますが、授業内で頻繁に参照していただけに、学んだことがある/使った場面の記憶と結びついている/既に覚えていた項目がかなりの割合になるはずです。さらの状態と比べて効率よく且つ負担少なく進められるはずです。
その2に続く。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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