小テストをもっと効果的に(その2)

小テストは、知識の定着を促すには有効な手段の一つになり得るのは確かです。「思い出す練習」を重ねることは、知識を想起しやすいものに変えていく効果も備えますし、覚える力の向上も図れるでしょう。
しかしながら、そうした効果も、生徒が目的意識をしっかり持って小テストに臨み、きちんと覚える努力を重ねてこそ得られるもの。手を抜く生徒にどうやってやる気にさせるかという別の問題もあります。
また、小テストへの取り組みを「平常点」として評定に参入すべきかという悩みもお聞きしますが、このあたりについても、校内で(=先生方の間で)合理的なコンセンサスはできているでしょうか。

❏ 再テストの繰り返しで、後手のスパイラル

小テストで合格点に達しなかった生徒への対応は、「再テストなどを課す」か「やり直しを生徒に任せる」のどちらかではないでしょうか。
結果を踏まえた指導をまったく行わないのでは問題もありますが、指導のやり過ぎもまた様々な弊害を抱えるように思います。
小テストで合格点に満たない生徒に、再テストを延々と繰り返すばかりでは、いたちごっこに生徒も先生方も疲労困憊。「再テストがなければ覚えようとしない」という生徒を生み出すことにもなりかねません。
その上、再テストに気持ちと時間を取られて、次のテストの準備ができないというのでは、まさに「後手のスパイラル」。ポジティブに学びに向かわせる状態からどんどん離れて行ってしまいそうです。
そもそも、小テストで不合格を連発するということには、「きちんと理解していないから効率的に覚えられない」「復習の習慣やタスク管理のスキルが未確立」といった、根っこの原因があるはずです。

その原因を取り払うことを先送りして、圧力をかけることで無理に「暗記」に向かわせるのでは、「学びに向かう姿勢」は歪むばかりかと…。

❏ 副教材を計画的に学ばせるためのテストは…

小テストには、授業で学んだことの定着を促すもの以外に、単語集などへの「計画的な取り組み」を支えるために行うものもあります。
定期的にテストを行えば、出題範囲に沿って停滞なく学習を進めさせることはできるでしょうが、どうしても、無味乾燥な「覚えることだけの繰り返し」になりがち。獲得した知識の使い方にも意識が向きません。
毎回の小テストでいつも合格点を得ているのに、応用問題にはからっきし、模試の成績も伸びてこないというのでは、自分の努力が点数の伸長に結びつかないことに、学びへの自己効力感を落とすかもしれません。
卒業までに獲得して欲しい知識群を早くカバーさせたいというのも分からなくはありませんが、課題解決に使ってみる機会を持たない知識は、生きて働くものにはなり得ず、学習者に余計な負担をかけかねません。

参照型教材や単語集は、主教材を学びながら使い込ませましょう。総ざらいは、使った教材に「学習済み」のフラグがたくさん立ってから行うのが効率的です。(cf. 参照型教材を徹底して使い倒す

❏ 小テストはその場で自己添削+その結果を点検

授業の冒頭で、前回までに学習した内容、あるいは本時の準備として自習してきた内容の小テストを行うのはよく見かける光景です。
教室で、配布→実施→回収まで、特別な指示もなくスムーズに流れる様子を目にすると、きちんと習慣化できているなと感心します。
小テストでちゃんと合格点が取れた生徒は、復習や準備にきちんと取り組み、前提となる知識群を備えた状態で本時の学びに臨んでいるものと思われますが、必ずしもそうした生徒ばかりではありません。
前回の内容がよくわかっていない/想起できない、準備も怪しいとしたら、本時の学びにレディネスは整っていないことになり、そのまま授業を進めては、「わからないこと」が膨らんでいくばかりかも。
小テストで正解できなかった問題の「手当」は、その場でしっかり行うことで、学びの土台を整える必要があるのは言うまでもありません。
まずは、教科書やノートを参照させて、自分の答案にきちんと朱入れをさせましょう。答案を回収するのはその後です。正解を配ったり提示したりせずに、自力で正解に至らせるのがここでの肝です。
答案を交換しての相互採点では、「自分が答えられなかった」ところの補完はできません。どうしてもわからないところは隣同士などで教え合わせても構いませんが、まずは「自分で調べ直して」を求めましょう。
前時の授業でノートをきちんと取っていなかった生徒は、答えを探せないことに、「ちゃんとノートを取らないと困る」ことを学ぶはずです。

❏ 小テストの点数は平常点に加えるべきか?

もう一つ、先生方の頭を悩ませているのは、「小テストの点数は、平常点として評価に参入すべきかどうか」ではないでしょうか。
確かに、日々の小テストに真面目に取り組み、いつも満点の生徒がいたら、それは褒めてあげたいところだとは思います。
しかしながら、小テストにきちんと取り組むことが「主体的に学びに向かう姿勢」かどうかは、冷静に考える必要があります。
別稿でも書きましたが、主体的な学びは「学ぶことへの自分の理由」と「自立的に学べる学習方策」を獲得してこそ実現するもの。先生の指示に従い、きちんと準備するというだけではこの要件を満たしません。
また、前述のように小テストが「習ったことを覚えること」に偏っていて、きちんとした理解に繋がっていないとしたら、そこでの点数が、学習の成果としての「知識や技能」を表現している保証もないはずです。
さらに考えてみると、小テストの点数を評定に組み入れることがフェアな結果になるとも言えません。
例えば、小テストが終わった後、早々に覚えたことをすっかり忘れてしまうA君がいたとします。数週間後の考査で、小テストでの積み上げの痕跡も見て取れないとしたら、ちゃんと覚えたことになるのやら…。
これとは逆に、小テストでは失敗しながらも、その後のやり直し、覚え直しにきちんと取り組み、考査で挽回したB君が、「平常点」のビハインドで、評定がA君を下回るようなことがあったら不合理でしょう。
こうして考えてみると、結論は、「小テストの結果を評価に組み入れるのは様々な矛盾を孕み、好ましいことではない」でしょう。
生徒には小テストにしっかり取り組んで欲しいのは山々ですが、アメとムチのような使い方をするのではなく、「覚える機会、思い出す練習として学習者を支えるもの」「本時の学びの土台を確かなものにするために行うもの」との位置づけを、日頃から生徒に伝え、理解させることこそが大切だと考えます。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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知識の活用、学びの仕上げExcerpt: 1 課題解決を通した知識活用の機会1.1課題解決を伴わない知識獲得は…(序) 1.1 課題解決を伴わない知識獲得は…(その1) 1.2 課題解決を伴わない知識獲得は… (その2) 1.3 伝達スキルと授業デザイン 2 課題に挑ませた以上、仕上げさせるのが責任2.1 仕上げきる過程を省かない 2.1 やりきらせる責任(序) 2.2 やりきらせる責任(その1) 2.3 やりきらせる責任(その2) 2.4 課題の仕上げは個人のタスクに(前編) 2.5 課題の仕上げは個人のタスク...
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