学校には建学の精神や教育理念、教育目標といったものがありますが、生徒一人ひとりがそれらを卒業までに自身の思考や行動の中にどのくらい実現できたかは、学校の教育成果を測る重要な指標のひとつです。
特色ある教育活動も、建学の精神や教育理念の下でデザインされているはずですので、精神や理念に照らした行動評価の結果は「学校の教育力を伝える新たなモノサシ」の一つになり得るのではないでしょうか。
2017/05/11 公開の記事をアップデートしました。
❏ 教育目標から「生徒に期待する行動」を書き出す
建学の精神や教育目標がどれだけ実現/達成できたかを測ろうとするなら、最初に取り掛かるべき仕事は、それらを達成したとき生徒にどのような行動が見られるのかを書き出して、評価の規準を作ることです。
生徒に期待する具体的な行動が言語化されていれば、それに照らした行動観察で、期待を充足する行動の発生頻度を定量的に把握できます。
入学時点から卒業までを通して、定点観測を続けていれば、如上の行動が見られる頻度の上昇や、ルーブリックに照らした評価結果の分布の改善も見られるはずであり、そうした変化が教育の成果を示します。
教育目標として掲げたことの各要素について、如上の評価(効果測定)を行い、実現に向けた進捗の様子を把握しておかないと、実現にはほど遠いうちに卒業させてしまうことにもなりかねません。
精神や理念は、抽象的な表現で記述されていることが多く、そこから育てるべき人間像や生徒に期待する行動を具体的に書き出してみようとすると、読み手によって解釈が大きく異なることも少なくありません。
指導に当たる先生方が、それぞれの立場から解釈したことを持ち寄ってみて、すり合わせる中で共通の解釈を作り上げる必要があるはずです。
分掌、教科、学年といった様々な立場で設定する指導目標も、「上位」におかれる学校全体の教育目標のもとで設定されるもの。それらの解釈がバラバラのままでは、教育活動全体の設計もまとまりを欠き、不整合を内包するものになってしまうリスクがあろうかと思います。
❏ 期待する行動を生徒にきちんと、繰り返し伝える
先生方がしっかりとイメージを共有していても、それが生徒にも十分に伝わり、理解を形成していないことには、建学の精神の具現や教育目標の達成に向けた、生徒の頑張りや適切な内省は引き出せません。
学校ホームページなどでは、それらの内容をより具体的にイメージできるよう、説明が加えられていることが多いと思いますが、入学後に自校のホームページをじっくりと閲覧する生徒はそれほどいないはず。
教室の中で、先生方がしっかりと(頻繁に、且つ生徒が十分に理解できる表現で)伝えていない限り、生徒の意識からはこぼれていきます。
学校評価アンケートへの回答データをみていても、建学の精神や教育理念などを意識して日々の学校生活を送る生徒の割合が、時間が経過するにつれて下がっていくケースが大半です。
学校を訪ねたときに、「教育目標に掲げられている、〇〇ってどういうこと?」と生徒に訊いてもきちんとした答えが返ってくるのは稀です。
別稿「教育目標や指導方針をちゃんと伝える」でも書きましたが、目標や方針をしっかりと伝えておかないと、個々の指導に込めた先生方の意図は正しく伝わらず、ときに誤解されるなどの弊害が膨らみます。
学校生活が落ち着いているタイミングを見計らい、「建学の精神」「教育理念」の内容を、生徒がどこまできちんと理解しているか、言語化させることで、確かめてみる(調査を行う)のも好適です。
その上で、書き出してみたことの一つひとつを自分が日々の生活の中でどれだけ意識している/満たせているか自己採点させてみると、内省も促せますし、行動や思考の変容も期待できるのではないでしょうか。
❏ アンケートなどで質した生徒の意識と先生方の見立て
生徒による自己採点の結果と、先生方の日々の観察による見立てを照らし合わせてみると、伝えたつもりなのに伝わっていなかったことや、生徒の意識が想定していないところにあることにも気づけます。
生徒の自己評価と先生方が下す外からの評価は必ずしも一致しないことを踏まえておかないと、指導に押しつけや見逃しが増えてしまいます。
生徒は「期待する行動を満たせるようになってきた」との認識なのに、先生方の眼には不十分だからといってダメ出しばかりを続けていたら、生徒も面白くはないでしょう。
改めて、生徒の行動に見られた変容(成長)を探してみて、肯定的に評価してみせる(言葉にして伝える)ことで、自己認識と他者からの評価を一致させるところから、次の指導に繋いでいくのが好適です。
そもそも、「どんな行動が期待されているか」を、生徒がこちらの想定通りに理解していないようなら、反省すべきはそれまでの伝え方(使った表現や、生徒がイメージできる場面との結びつけなど)です。
生徒に見えている景色を想像しながら教えているかは、教科学習指導に限らず、あらゆる指導の中で十分に意識しておくべきことです。
逆に、先生方の眼からは十分なのに、生徒の自己評価が低い場合もあります。「学校生活を通じてできるようになってきたこと」を認識させれば、もう一歩先を目指す意欲や姿勢も引き出せるかもしれません。
❏ 訊ねてみるだけでも行動改善が期待できる
アンケートに答えさせること自体にも、自己評価の機会として、ある程度の教育効果(生徒の行動や考え方の変容=成長)が期待できます。
自己評価は、目指すべき状態と現状との差分を認識させるためのもの。質問文を前に答えを選ぼうとすれば、自ずとそれまでの自分の行動を振り返ることになるため、「変化」のきっかけになり得ます。
内省の機会を得て、今の自分に足りないものに気づき、今後の行動を考えていく場合と、そうした機会を持たないまま、漫然と日々を過ごす場合とでは、成長のスピードに小さからぬ違いが生じます。
また、先生方の目を通した観察に基づく「行動評価」の結果もどこかのタイミングで生徒本人に伝えていくことになるはずです。伝えないことには、生徒の自己認識を改めさせることもできません。
建学の精神や学校の教育目標から切り出して作った、観点別に設けた段階的評価規準(ルーブリック)に照らしてみた結果を本人との間で共有する中で、どの部分で何が足りないかを気づかせていきましょう。
評価の結果を一方的に開示するのではなく、ルーブリックに照らしながら、丁寧に対話を重ねて、先生方の見立てと生徒の自己認識の乖離を少しずつ埋めていくことで、目指すところの正しい理解を作りましょう。
くれぐれも、評価の押し付けやお説教にならないよう、生徒の気づきを作る対話の構築に専心すべきであるのは言うまでもありません。
3年間/6年間の教育活動を通じて、建学の精神などに表現された「目指すべき人間像」に着実な接近を図らせるには、定期的に行う行動評価(先生方による評価+生徒自身の自己評価/振り返り)が必要です。
的確な評価を行うための準備として、建学の精神/学校の教育目標の再解釈(理解の深化)は不可欠です。そこで得られた成果を、行動評価のルーブリックに調えたり、授業評価アンケートと同時に行う「生徒意識調査」や「学校評価アンケート」の質問文に起こすところまで、しっかりと進めていきましょう。
ルーブリックやアンケートの質問文は、教室で先生方が「目指すべき人間像(生き方、あり方)、身に付けたい行動や考え」を言葉で伝えるのを補完する、効果的な材料になってくれるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一