質問をした生徒の意図をきちんと捉えているか

質問者の意図を捉えるのは思いのほか難しく、的確に答えたつもりなのに、相手の顔からクエスチョンマークが消えないこともしばしばです。
質問者が、自分の中の「もやもや」の正体を捉えていないことも多く、言葉になった部分に答えただけで、不明を解消できるとは限りません。
日々の教科学習指導でも、進路などの面談でも、質問や相談が上手にできない生徒(=不明や悩みを特定/言語化したり、必要な助けを求められない生徒)がいます。その意図を汲めるかは指導の成否を分けます。

2017/03/23 公開の記事をアップデートしました。

❏ なぜその質問をしたか、背景を探る必要

WEB上には「〇〇知恵袋」みたいなQ&Aページがありますが、やり取りをじっくり読んでみると、質問者が求めているものと回答者が想定したものが微妙に(ときに大きく)ずれているものが多々あります。
質問を書き込んでいる方も、自分の引っ掛かりの正体がわかっていなのか、必ずしも質問を的確な言葉にできているとは限りません。
自分の中では「質問の前提として自明」と思い込んでいる部分が、表現からこぼれていることもあります。
それに気づかず、質問のうちで言語化された部分だけにフォーカスした答えを用意したところで、質問者の必要を満たせません。
ベストアンサーに選ばれるのは、長々と(たいていは丁寧に)書き連ねた答えではなく、「質問者がなぜその質問をしたのか」まで探り当てている答えです。

❏ 質問者自身が、疑問の正体を自覚できていない

もしかしたら、同じことが、教室の中でも起きているかもしれません。
せっかく質問したのに、見当違いな説明(説諭?)が長々とされるだけで、しっくりくる答えが得られなかったら、また質問してみようという気持ちも薄れます。
生徒が抱えた疑問にはきちんと答えてあげたいものですが、自分の疑問をきちんと言葉にできなかったり、不明の所在を本人も特定できていなかったりすることも織り込んでおかなければなりません。
なぜその質問をしようとしたのか、どんな課題や問題意識を持っているのか、根っこの部分に想像力を働かせることが、質問の意味を的確にとらえることに繋がります。

❏ 普段からの観察と分析が、想像力のみなもと

そうした想像を働かせるには、生徒がどんなところで躓きやすいのかを知っておくことや、ある誤答の背景にどんな誤解や不理解が潜んでいるのか掴んでおくことも大切です。
ディスカッションやグループでの課題解決の場での生徒のやり取りをつぶさに観察することや、答案に現れた誤答を分析して誤りの原因を捉えておくことも欠かせません。
キャリアが長くなり、多くの生徒を指導した経験を重ねるだけで、こうした想像力が自然に身につくわけではなく、引っかかりの原因を探り当てることを日頃からどれだけ意識しているかで大きな違いが生じます。
日常的に、書かせてみたり、話し合わせてみたりして観察の窓を開くようにしておくことも、想像の手がかりを増やしてくれます。

❏ 生徒からの質問を、別の表現で言い直してみる

生徒からの質問を、先生が別の表現で言い換えてみせることも、「表現された質問」と「生徒が抱えている疑問」のギャップを探り当てるのに役立ちます。
「それって、こういう疑問かな?」とワンクッション挟むことで、最初の質問に表現されていなかったものを引き出せることもあります。
生徒自身にとっても、そうしたやり取りの中で、自分の疑問をより正確にとらえ直すのは有益なことだと思います。
的確な回答で、その場の疑問を解消してあげることはもちろん大切ですが、生徒が自分の疑問の正体を探り当てられるように導くことも、指導を通じて目指すべきことの一つです。

❏ 同じ疑問をもった生徒の言葉も借りてみる

如上のやりかたで行き詰ったときは、他の生徒に「同じような疑問をもった人はいますか?」と手を挙げさせて、改めて質問を言葉にさせてみると、思わぬ突破口が開けたりします。
違う言葉で表現された疑問に触れる中で、「ああ、そういうことだったのか」と、ようやく質問の真意を捉えられることも少なくありません。
同じところに引っかかっていても、引っかかりの原因や生徒が自覚する症状(疑問の感じ方)が違うことも少なくありません。
一人の生徒が抱えた疑問をもとに、やり取りを重ねる中で、解消すべき不明点を教室で共有して、解消すべき不明をしっかり捉えていくことはクラス全体のその後の学びにも好ましいものを持ち込むはずです。

❏ 疑問を抱かせないように先回りするだけでは…

生徒がなんの疑問も感じていないところで、延々と説明を聞かせたところで、あまり実りのあるものにはなりません。
生徒が自ら考えて解を導くべき課題を導入フェイズで示して仮の答えを作らせたり、問い掛けやクイズで生徒から疑問を引き出すことで、はじめて「学ぶことへの自分の理由」を生徒は持ちます。

学びに躓きが生じるところは、往々にしてその単元の「山場」だったりします。過去の指導経験(受けた質問、見つけた誤答など)を土台に、躓きの発生をきちんと予測しておき、それを足掛かりに学びを膨らませるという戦略もあり得ると思います。



重ねてになりますが、質問に直接答える前に、本人も特定できていない不明点を的確に把握することで、はじめて的確な答えができます。
そもそも、質問してくれなかったら疑問点に気づいてあげられないというのでは話が先に進みませんが、せっかく質問してくれても、その背景にある「不明の正体」をつかめなければ、ベストアンサーを返すことはできません。
積極的に質問をさせること生徒に問いを起こさせることは、そこまでに学んだことを俯瞰し、さらに深めていく上でも重要ですが、せっかく出てきた質問にどれだけ的確な回答を与えられるかも、教える側の腕の見せ所ではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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