高大接続改革に向けて今できる準備(その2)

昨日の記事でご紹介した「採点ルーブリック」ですが、すでに一部の学校では、定期考査において自由英作文や意見論述問題などで利用が始まっているようです。
最初から満点のものなど作りようもなく、使いながら、規準そのものの妥当性(※)を高め、適用しやすいものに改めていくことが大切です。

「直感で与えた点数と、基準に沿った点数が一致するのが良い基準」というのも荒っぽく聞こえるかもしれませんが事実です。良い答案だと多くの先生方が感じる答案にきちんと点数が与えられ、そうでない答案に点数の大盤振る舞いがされない規準を目指しましょう。

また、せっかく作った規準も適用が採点者ごとにバラバラでは…。同じ答案を複数の方で見て、採点結果を突き合せていくようにしましょう。
正しく適用するトレーニングを積むことが先生方に課される仕事の一つとお考え下さい。

❏ 規準に照らした評価でメタ認知を高め、学習を支援

ルーブリック評価は、目標達成に向けて学習者を後押しするための評価手法とされています。

  1. 出来るようになったことを明らかにする(自己肯定感)
  2. 足りないものに気づき、補う策を考える(課題形成)
  3. こうすれば成長できるとの見込みの中で目標に接近を図らせるツール

テストが返却されたときに、間違え直しをして模範解答を覚えなおせばそれでOKという「テスト直し」 のスタイルでは十分に用をなさないことになりそうです。

❏ より良い答えに近づくプロセスに焦点を当てた指導

返されてきた答案を見て、減点された項目について規準に照らし、どのようにすれば1段階上の評価に移れるのか生徒自身に考えさせる必要があります。
自分の答案を客観的に分析した上で、より良い答えの案を出してはじめて、テストのやり直しが完結したと言えます。
教室が知識や正解を伝える場から、答えの作り方を学ぶ場に転換していますが、答案を作り、採点し、朱入れ/リライトする機会もますますその意味を大きくしていきます。
とりわけ、答えが1つに定まらない問題、軸の置き方や着眼点により複数の正解が生まれる問題であればなおさら、模範解答を示したり、覚えたりすることがあまり意味をなさなくなりそうです。
模範解答は、答案を見直すときの参考、発想を広げる手掛かり、“参考答案”という位置づけに代わるのではないでしょうか。

❏ 日々の授業でも答案を客観的に分析するトレーニングを

定期考査や校内実力テストで、採点ルーブリックを導入したとしても、テストの時だけでは、採点基準を適用する訓練の場は不足しそうです。
先生に答案を預けないと採点ができない(=答案としての適格性が評価できない)のでは、「自学自習」の実現ははるか遠くに置かれたままですよね。
日々の授業の中でも、自分の答案を規準に照らして、客観的・分析的に見直す練習をさせる必要があります。
自己採点・相互採点を通して、採点基準を理解し、正しく適用できることも学習指導が目的とすることの一つになるとお考え下さい。
2つ前の記事でご提案した通り、指導の初期段階では、黒板やプロジェクタに答案例を提示し、公開添削を繰り返しておくのが好適です。板書などで共有した上で、問い掛けを重ねながら方法を学ばせていきます。
提出された課題に目を通したり、机間指導で生徒の手元を観察する中で、「70点の答案」を見つけておきましょう。「模範解答」では朱入れの余地はありませんし、的外れの答案では真っ赤になるだけで添削例には使い勝手が良くありません。

❏ 結論を導くまでのプロセス自体を表現させる場面を

これまでの入試では、記述問題であっても、導き出した答えそのもを記述するケースが大半だったと思います。
「○○とは何か」「○○はなぜか」の2つに代表される問いを思い出しても、「どうしてそういう答えになるのか」答案に組み込むことは求められませんでしたし、字数にもそんな余裕はありませんでしたよね。
別稿「思考力をはぐくみ評価する」でも申し上げましたが、思考とはプロセスそのもの。結論の部分だけを表現した答案からでは、どんなプロセス=思考を経たのか推測できません。
日頃の授業において、「考えさえるための問い」を用意し、課題形成・課題解決を図るプロセス(=情報を統合し、比較や関連付けを行い、推論を経て仮説を立てて検証する、など)を、経験させる必要は言うまでもありませんが、それに加えて、プロセスそのものを表現させることを求めていくことが大切です。
 ■ご参考記事: プロセスに焦点を当てた問い



平成27年12月には、高大接続システム改革会議(第9回)配付資料で、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」で評価すべき能力と記述式問題イメージ例【たたき台】が公開されています。
問題のサンプルに目を通すときは、どんな問題が出るのかだけでなく、少し深めに踏み込んで「その問題で何を図ろうとしているのか」「どのような仕組みで点数化するか」に十分な想像を巡らせておく必要がありそうです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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