十分な検討と協議を経て、3年/6年間を見渡したグランドデザイン、科目・教科ごとの到達目標、学び方を生徒に伝える手引きの3つが調ったら、いよいよ年間授業計画を書面に起こして最終的な仕上げです。
❏ 年間授業計画の起草は、約束事を確認する機会
年間授業計画は、授業の進め方や指導法についての約束ごとを明文化して、授業に様々な立場から関わるすべての当事者(先生、生徒、学校、保護者)が互いに確認・共有するためのものです。
教科書の目次をコピーしてきて、横に学期と月を書き込んだだけのようなものでは、授業の進め方について約束ごとを網羅したことにはなりませんよね。
約束ごとは先生方の間で十分に共有されているとしても、生徒や保護者に示す必要がなくなるわけではありませんし、もしかしたら、先生同士の間でも、意識から抜けている部分もあるかもしれません。
きちんと文字に起こすことで、共有すべきものは何かしっかり確認しておくことも、年間授業計画を書き起こすことの目的の一つです。
❏ 単元進行だけでは、授業計画の要件を満たさない
前述の通り、グランドデザインと到達目標の記述は上位2書面に譲り、授業内外での生徒の取り組み方については学習の手引きに引き渡しますので、それ以外の部分が年間授業計画に記載すべきことです。
配当単位、使用教材、単元あたりの配当時間、評価基準といった、授業計画の根幹にかかわる基本情報は、他の書面にはなじみませんので、年間授業計画に記載します。
同じ単元・教材でも、座学で進めるのか、実験や実習を挟むのか、討論や発表、評価を組み込むのか、体験の場を設けるのかなど、様々なところに違いがありますよね。
繰り返しになりますが、学期と月の横に単元名を並べただけでは、授業計画の要件は満たしません。
単元固有の知識技能を提示して覚えさせるだけなら、どんな方法を採ろうとも大差ないかもしれませんが、そうではありませんよね。
❏ 経験させるべき学習活動も記述し、好適実践の共有を
思考力や表現力、物の捉え方や探究のスキルなど、「教科固有の知識・技能」 を学ばることで獲得を図るものがありますので、それに適した学習者活動があるはずです。
どのクラスでも、必ず経験させたい活動、振り返りのさせ方――こうした部分でも、摺り合わせたうえで明文化しておきたいものです。
前年度までの指導から、成果検証を経て抽出した、継承すべき好適実践もあるはずです。
すべての先生がまったく同じ手順を踏むのでは、その先生の良さも活きません。窮屈で仕方ありませんし、そもそも生徒の反応を見ながら進め方を工夫する部分がなければ、人が教える意味はありませんよね。
一つの目標・方針に従い、それぞれの先生が最善の方法を工夫するからこそ、成果検証もできれば好適実践の抽出・共有も可能になります。
❏ 完成した書面は、頻繁に参照し、更新に備えて朱入れ
いつ、何を、どう使って授業を進めるかという計画を、年度の頭に決めておくのが年間授業計画ですが、冊子になって配布されたあとはほとんど見向きもされないことが多々あります。
新たな単元に進むたびに目を通し、約束事として提示したことを確認する必要もありますし、指導を経て気づいた修正点は、その場で「朱書き」して、年度末の更新に備えるべきです。
教科の先生方が定期的に集まる機会もあるはずです。
機会あるごとに、そこまでの指導で大きな成果が見られた工夫やうまく行かなかったことについて情報交換し、「議事録替わり」に該当書面に朱書きしていくようにしたいものです。
❏ 新たな工夫・試行錯誤の結果をきちんと反映
ある学習活動を新たに組み込んだら、想定以上に時間がかかったという場合でも、翌年にはそれを織り込んだ計画に修正していけは、同じ轍を踏むリスクは減らせます。
どんなに検討を重ねて起草をしても、最善のものではありません。起草した後に経験したことが新たな知見となり、次の発想を膨らませるわけですから、「最新のものが最良のもの」になるのは道理です。
多忙な日々を送る中、気づいたこともやがては失念します。だからこそ、年間授業計画、学習の手引きなどは常に手元に置いて、思いついたことをどんどん朱書きしていくことが大切です。
いざ次年度版に向けた更新に臨むとき、朱入れした部分を辿っていけば、修正漏れも防止しやすいはずです。
❏ 公式文書として配布した以上、履行責任が生じる
起草・更新の段階で、十分な想定をしてもなお、当初予定の単元進行がどうしても守れないこともあろうかと思いますが、そうした場合に備えた修正を吸収できる余地をあらかじめ組み込んでおくのも計画づくりの基本です。
特に、新しい試みを採り入れるときには、途中で予期せぬ修正が生じるのは半ば当然です。やってみないことにはわからないということは少なくありません。
様々な事情で、当初の予定通りに行かないこともありますが、公式な文書として公開した以上、履行の責任が生じるもの。
レアなケースかもしれませんが、年間授業計画に示した単元進行がずれたときに保護者からクレームが寄せられたことがありました。学校のHPで年間授業計画を確認したうえで、単元を合わせて教科書準拠の通信添削を申し込んだのに進み方が違うじゃないかと…。学校がそこまで責任を持つべきかどうかは別の話ですが。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一