ステージごとの学習者特性の違いを踏まえて
学習はその場で完結するものではありません。次のステップに進むための準備(レディネス)を整えることも重要な指導目標の一つです。
既習単元の知識がその先の内容を理解するための前提になることは当然ですが、ある単元を学ぶことで身につけた学び方もまた、次以降の単元を学んでいくときの重要な土台になります。
不明点があるとき、先生が教えてくれるのを待つのではなく、参照型教材を使って自力で不明を解消したり、興味を起点にそれまで知らなかったことを知る姿勢と方法を獲得した生徒はスムーズに学びを進めます。
教科固有の知識や技能を学ぶ中で身につけていくべき事柄のひとつは、参照型教材を徹底的に使い倒すことで得られるものとお考え下さい。
2015/10/08 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 学びの初期段階では、記銘・想起の負担も大きい
指導期間を、導入期、拡張期、仕上げ期に分けてみると、時期によって学習者の置かれた状態やその特性が異なることは容易に想像できると思います。
導入期において、どんな科目/単元にも共通するのは、「生徒は多少の前提理解は持っていたとしても、周辺も含めた体系的な知識をまだ揃えていない」ということです。
新たに学んだことをひとつひとつ積み重ねるしかなく、関連づける先の知識や理解が乏しいまま、個々の知識を集めていかざるを得ません。
記銘のアンカー/想起のトリガーを持たないことで、覚えるときの負担も他の時期に比べてかなり大きくなりがちです。
❏ 活用機会と切り離した勉強が問題に拍車をかける
これに加えて、活用の場面と切り離して、知識の獲得だけを求めることが問題に拍車を掛けます。(cf. 課題解決を伴わない知識獲得は…)
意味の拡張(※)を伴わず、学ぶことの意義も見いだせないところに、覚えることだけを強いられたら、その科目/単元の面白味を見出す前に嫌になってしまうのではないでしょうか。
意味の拡張 | 個々の知識について、ある側面だけの限定的な理解に止まる初期の状態から進んで、「こういう使い方もできるんだ」「こんなところでも役立つんだ」「ここに繋がっていくのか」と、多面的にその意味を捉えられるようになること。 |
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深く学んでいないだけに、理解をもとに記憶の再構築を図ることも難しそうです。再記銘の機会は演習期を待たなければならないという状態でそれまで記憶が保持できたとしたら、それはそれでミラクルです。
❏ 次のステージの前に「負のモチベーション」を作らない
次の段階に進む前に、「苦手」「嫌い」という意識を持たせないことも大切です。初期段階で生じた苦手意識は後々まで引きずるものです。
対象から遠ざかろうという負のモチベーションを作ってしまえば、その対処に多大な負担が生じ、それを引き受けるのは先生ご自身です。
教える側がよく使う、「先に進めば、今やっていることの大切さがわかる」というのは、学びをひと通り終えた人の論理であり、これから学ぶ生徒にとってはピンと来るものではありません。
先生がこれだけ力説する以上、きっとなにか大事なことなのだろうと推測するのが精一杯。信頼関係(あるいは強制力?)だけに頼った学びの維持というところでしょうか。
面白くなる前に苦手を作ってしまったら、後でどんな学びを用意していたとしても、生徒がその機会を積極的に活用してくれる見込みは薄くなりそうです。
❏ 小テストの繰り返しより、じっくり課題に取り組む時間
ここまでお読みいただければ、単語集を1冊買わせてページの順番通りに小テストを重ねて覚えさせるといったやり方には大きなリスクがあることは容易に想像がつくと思います。
知識の断片化、覚えにくさ・忘れやすさというマイナス要因を、根性だけでどうにかしようとするのは合理的ではありません。
そもそも、小テストの実施やそれに向けた勉強は、それ自体が授業時間や家庭学習という貴重な教育リソースを消費します。
学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められることを考えると、そのリソースは、授業で学んだことを元にじっくり課題に取り組むことにもしっかりと配分すべきではないでしょうか。
ただし、小テストにも「覚える練習/思い出す練習」として、記憶の力を高める効果/役割があります。効果的な活用を考えましょう。
❏ 段階を踏んでいけば、直前期の仕上げもスムーズに
演習(拡張)期、受験(仕上げ)期を迎えた時点で、既に覚えていることが多ければ、残りの部分に集中して取り組むことで効率も上がりますし、日々の予習にかかる時間も小さくできるでしょう。
入学から受験期を迎えるまで参照型教材として使い倒してきたら、仕上げ期に入って残っている未習箇所はそれほど多くないはずです。
しかしながら、「覚えさせたこと」が「覚えていること」とイコールではない以上、予めできるだけ多く覚えさせておくという戦略が、狙った通りの結果になるとは思えません。
覚えさせたはずのことの多くが、抜け落ちていたら、そのケアに手間取ったりする中、授業計画が躓くことも増えるのではないでしょうか。
こうした問題を防ぐには、初期段階からしっかりと参照型副教材を使わせ、以下の状態を作っておくことが重要です。
- 知らないことがあったときに参照型教材を使って、ある程度まで自力で理解を進められる。
- 既習内容の知識がさまざまなアンカー(参照型教材への書き込み、課題解決に用いた記憶など)につなぎ止められている。
- 覚える練習/思い出す練習をしっかり重ねてきたことで「覚える力」も十分に底上げされている。
本稿のサブタイトルは「ステージごとの学習者特性の違いを踏まえて」ですが、終盤(卒業直前)を迎えたときに備えているべき能力やスキルは、ある年齢に達したら自然に発現するというものではありません。
それらを獲得させる事前の指導(準備)があってこそ身につくものであり、それらを未獲得の生徒には、特性の違い(成長)を前提に練り上げた指導計画も、十分な成果を得られるものにはならないはずです。
先に進んだときの学びを見越して、そこで必要になるものを、それまでの期間の指導でしっかりと身に付けさせておくことが重要なのは、言うまでもありません。(cf. 進級、進学後の学びを見据えた準備)
その5に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一