苦手意識が膨らんでしまったら(その3)

前学期までの学習で、学習を通じた成果を感じ取れなくなり、苦手意識が芽生えているということは“認知の網”がしっかりと張れていないことを意味します。

新しいことを理解するには、その情報を過去の経験や既得知識と結びつけることが欠かせません。結びつける先を持たない情報は、認識を通過してしまい記憶に残らないからです。
「認知の網」が張られていなかったり密度が足りなかったりする領域では、知識の獲得や理解の形成は困難です。場合によっては、新しい知識を得ようとしている場面であることすら認識しないこともあります。とある脳科学者によれば、「人の脳は、知っていることしか認識しない」ということのようです。
何かを伝えようとするときには、その周辺にある知識、前提として持つべき理解、あるいは直接・間接の経験を、生徒/学生が持ち合わせている状態を整えておく必要があります。
新たな知識を得るための土台作り「共通理解基盤の形成」 より

既習内容の知識や理解が足りないことは、それだけに止まらず、新しい情報を受け取る準備が整っていないという状況も想定しなければなりません。
ここで打てる手はただ一つ、理解の確認をこまめに行うことです。ひとつひとつ丁寧に反応を探りながら、進めていきましょう。
前学期に、苦手意識が強まってきたり、学力向上感が希薄になってきたりしている状態で、理解の確認が徹底されないのはきわめて危険な状態とお考えください。
❏ 確認の仕方は、場面と方法によって使い分ける
理解の確認と言っても、「わかりましたね」 では念を押しているだけで、理解できていたかどうかの判別には何の役にも立ちません。わかっているかどうかを生徒自身が判断できないケースが存在することを忘れないようにしましょう。
場面と方法で、確認の仕方を整理してみました。

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発問による確認

導入 前回の学習内容を、発問を重ねて確認する。問われればノートや教科書を見直すため、リマインド効果は高く期待できます。
展開 A→B→Cという仕組みを説明したら、AをA´に置き換えて問いを発しC´が戻るかを確認。―「わかったね」では用をなしません。
まとめ 生徒が理解したことを、言葉にさせる問いを。ノートやプリントに書かせても良いし、ペアで相互に説明させるのも有効です。

小テストによる確認

導入 前回内容の定着を測るのに加え、本時のレディネスが整っているかも確認。回収前の相互採点+自己添削は再記銘の機会です。
展開 どうしても覚えさせたいときは、授業の途中であっても、短時間で覚えさせテストしても良い。わからないことは周囲に聴かせましょう。
まとめ 次回までに間違えを直して完全回答を作らせるのを宿題にすれば、習ったことを再記銘する機会を、さらにもう1度は作れます。

提出させた課題による確認

事前に 課題の点検を通じて、誤答の分布を知ることは、どこを固め直し、どんな気づきを促すかといった、「指導の主眼」を定める上で最も有効な方法。
教室で 提出物に優れたものがあれば、プリントや板書、掲示を通じて他の生徒の目にも触れさせ、相互刺激に活用。仲間が到達できたことは、“自分にもできるかも”という可能性に気づく、かけがえのない機会とお考えください。

お時間が許すなら、理解度の確認~場面と方法 も併せてお読み頂ければ幸いです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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