復習の目的と課すべきタスクの考え方

予習は「授業で学んだ方法を試して身につける場」と捉えて生徒に課すべきタスクを選択する必要がありますが、復習もまた、単に「習ったことを忘れないように反復する」というだけの場面ではないはずです。

  1. 習ったことを振り返って理解に欠け落ちがないかを確認する
  2. 順番に教わってきた事柄を整理し直して理解の統合を図る
  3. 学んだことを様々な課題に適用してみて、その意味の拡張を図る
  4. 授業中に疑問/興味を感じたところを自ら調べ、理解を広げる

といったところにも復習という活動の目的があります。

2015/04/15 に公開した記事をアップデートしました。

❏ 習ったことを忘れないようにするには反復+活用

記憶は、記銘、保持、想起という3つの過程からなり、記銘(符号化)を繰り返す中で記憶はしっかり保持(貯蔵)され、必要に応じた自在な想起(検索)が可能になります。
忘却曲線を引っ張り出すまでもなく、学習から時間が経過すると記憶は薄れていきますので、忘れきってしまう前に再記銘の機会が必要です。
とは言え、再記銘の方法は「覚え直す」だけではありません。
獲得した知識を課題解決に「活用」する中で、記憶を手繰り寄せる機会さえあれば、敢えて「覚える」という、時に味気ない作業に頼らずとも再記銘は図れます。
課題解決を通して結びつく事柄が増えれば、それだけ想起の起点(記憶のアンカー)も多くなり、思い出しやすくなるメリットもあります。
知識の使い方(=生きて働かせる方法)への習熟と、記憶の強化を同時に狙った方が、覚える効率もはるかに高くなるのではないでしょうか。
ちなみに、新しい学力観の下でも、覚えることの価値が薄れるわけではありません。小テストなど「覚える力を鍛える機会」の整備もしっかり整えましょう。(cf. 新しい学びの中で「覚える力」が持つ意義

❏ 授業を終えるときの振り返りが復習/再記銘の1回目

忘却曲線によれば、記憶の42%が20分後に失われ、1時間が経過すると56%が消えてしまうとか。終業のチャイムが鳴った段階ですら、授業の冒頭で扱ったことはその半分が消えている計算です。
まずは、授業が終わってカバンに教材をしまう前に、ひと通り見直しをさせたいところですが、「見直しなさい」という指示だけでは、目的とするものがないだけに漫然とページをめくって終わってしまいます。
この場面で広く使える方法のひとつに、「黒板上に残ったものを活用した、学びの振り返り」というものがあります。板書を辿りながら、ポイントになるところを改めて問い掛け、意識に上らせましょう。
また、別稿「質問を引き出す~学びを深め、広げるために」でも触れた通り、毎回の授業を終えるときに、「今日の授業で学んだ中に、改めて問いを起こしてみる」ことを、生徒に求めてみるのも効果的です。
質問をするということは、疑問点や「その先を覗きたい箇所」を探すことにほかならず、自ずと、ノートや教科書、プリントを見返す中で、再記銘と整理が促されます。
ここでしっかりと振り返りをさせておくと、宿題を家に持ち帰っていざ取り組もうとしたときになって「わからないことが残っている」ことに初めて気づき、途方に暮れることも減るはずです。

❏ まとめ直しの作業を通じた知識の整理と理解の統合

授業の中で順番に一つひとつ学んできたことを、別の形にまとめ直して構造化させてみることも、理解の統合を図るのに効果的です。

サブノート式のプリントなどを用意し、授業では空所を埋めず(答えを言わない)におき、家に帰ってから教科書やノートを参照しつつ穴埋めをしていくことを宿題にしている授業がありました。
構造化されたフレームの中に授業で学んだ用語を配列してみたり、説明文を完成させてみたりすることで、個々の知識は互いに関連をもち、全体像を作ります。
理科や社会に限らず、英語や古典の授業でも、文法項目や重要語法などについて「まとめシート」を作らせてみるのも面白いと思います。
例文を中心に据えて、押さえておくべき事柄を説明文として周囲に配置したり、注意すべき点を添え書きすることで1枚のプレゼンテーションに整えるというイメージです。
提出させたものから優秀賞を選び、クラスを跨いで他の生徒の目に入るようにすれば、「こんなまとめ方もあるのか」と相互啓発も働きます。

❏ 学んだことを用いて解決する課題を仕上げさせる

冒頭の3.にある「学んだことを様々な課題に適用してみて、その意味の拡張を図る」ことには特に注力が必要と考えます。
授業で学んだことを元に、新たな課題に解を導くことは、獲得した知識や理解に「生きて働く場」を与えることにほかなりません。その中で、学んだことがどんな場面で活きるのか、新たな気づきも得られます。
また、課題を解決する過程で重ねた思考とその結果を、他者の理解を得られるように表現する力も、そうした練習の中で鍛えられるはずです。
習ったことを課題解決に使ってみる中で、生徒は、自分が正しく理解していたのかを確かめることができますし、学んだことで「自分にできることが新たに増えた」との実感は、学びへの自己効力感も高めます。
別稿「学習目標は解くべき課題で示す」でも書いた通り、本時の学びを俯瞰し得る問いや課題を用意するのは、学ばせる側の大切な仕事です。導入フェイズで示しておき、学び終えたときに取り組ませましょう。

❏ 興味を起点に知の水平を広げ、探究で深めさせる

一般的なくくりで言う「復習」には含まれませんが、探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問もきちんと用意してあげたいところです。
教科書内容を飛び出し、他の教科や科目、自分を取り巻く様々な事柄との関わりを持つ問いは、調べ学習や探究活動の好適な入り口です。
授業の中で芽生えた興味を起点に、自力であれこれ調べたり考えてみたりする中で、新たな気づきや興味の拡大も期待できるはずです。
こうした問いは、探究活動のテーマ選びの助けにもなるでしょうし、興味を掘り下げ押し広げた先には、進学して学んでみたいことや、学んだことを通じて社会と持つ接点を見出していくことも期待されます。

なお、学びの拡張を目的とした、如上の1問は、あくまでも生徒が興味に従って取り組む任意の課題としましょう。授業内容の理解で手一杯な生徒にまで履行を求めても、キャパオーバーは自明です。どこまで取り組ませるかは、個々の生徒のニーズと余力を見極めて決めるべきです。
予復習のデザインに加えて、履行率を高める工夫を」に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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