探究型学習を使った進路指導(その3)

探究型学習に取り組ませるとき、研究のテーマを決めさせるまでの「準備段階での指導」が大切であるというのが、前稿の主旨です。
目指すところ(=課題の解決に取り組む体験を通して、自己の生き方・あり方を見出すこと)をしっかり伝えた上で、正しい準備の工程を踏ませなければ、テーマの候補を挙げさせたところで、ダメ出しをせざるを得なくなるケースもしばしばだと思います。
せっかく考えたことを差し戻されては生徒も面白かろうはずはありません。「先に言ってよ~」と反発すら覚える生徒だっていそうです。

2015/03/16 公開の記事を再アップデートしました。

個々の生徒が過去の学びや経験の中に「自分の生き方・あり方に繋がり得る興味」を見出していれば、それを起点にテーマや問いを設定できると思いますが、そうでない場合は、自分事としての興味がどこにあるのか、改めて探す機会が必要になります。
数ヶ月の期間を設けて、日々のあらゆる体験(新聞を読む、授業を受ける、行事に参加する)の中で得る気づきや問題意識を言語化(=メモに蓄積)させ、ある程度の量になったところで、その中から研究テーマの起点となりえる「掘り下げてみるべき興味」を探させましょう。

❏ あらゆるものに触れて自分が何に反応するかを知る

興味のあるものは何かを自分に問い、頭の中で探すだけでは往々にして思考は袋小路に入り込みます。
それに対して、日々の学び(生徒に限らず、生活のあらゆる場面に学びと気づきの機会は転がっています)の中で「気になったこと」「疑問に思ったこと」「何かをしなきゃと感じたこと」を書き出していくことは自分の興味がどこにあるのかを探す好適な手段です。
好きなことだけをしていては、自分も意識していなかった興味と出会うことはありません。何にでも関わってみて、それに対して自分がどう感じるかを確かめていくことが大切です。
各教科の日々の授業は、好きとか嫌いとかに関係なく、新しいもの/知らなかったものに触れる機会を与えてくれます。
スマホで触れる情報だけでは、これまで興味を持たなかった記事は中々開かないもの。新聞の紙面を1枚づつめくりながら記事のタイトルだけでもすべて拾ってみる方が、意識していなかった興味の所在に触れられる可能性がぐんと高まります。
こうした、興味の対象を意図的に広く探す活動に取り組む中で、生徒は進路に繋がる探究のテーマになり得るものを見つけていくはずです。

❏ 気づきや考えを言語化することで深まる内省

数ヶ月かけて日々の学びの中に「自分事としての興味」を探すと言っても、具体的なタスクがなければなかなか取り組みは継続しません。
まずは、大きめの付箋と、それらを貼り付ける整理用のノートを手元に用意させ、テレビやネットのニュース、新聞や雑誌の記事や特集、日々の授業などの中で、気になったことを見つける度に、付箋を取り出してメモを起こさせていきましょう。
授業を受けていて、他の生徒が付箋を取り出す姿を目にすれば、スルーしていたところに考えるべき問題が潜んでいたことにも気づけます。
後でやろうと思っていては、時間の経過で思い出せなくなり、せっかくの気づきが揮発してしまいます。付箋を紛失してしまっても同じこと。散逸させないよう、書いたその場でノートに貼らせましょう。
ここでのポイントは、ニュースのタイトルや学んだことの項目名だけでなく、それを学んだときに自分が考えたことを言葉にして付箋に残させることです。
大きめの付箋なら、50字とか80字程度の書き込みもできますので、「考えたことを簡潔にまとめる」にはピッタリかと思います。
気づきや学びを言語化してみることは、思考を深めることにほかなりません。こうしたタスクを課すことで、身の回りの出来事/問題への意識をしっかり持つようにさせることができるはずです。

❏ 付箋の整理で進捗を可視化~意欲を継続させる

日々増えていく付箋は、ノートに張り付けて整理していけば、進捗が可視化され、生徒は達成感のようなものを得ます。毎日2枚づつ新たな付箋が増えれば、2カ月足らずで付箋は優に100枚を超える計算です。
整理用のノートがあっても、順番通りに工夫もなくただ付箋を貼っていくしかできない生徒もいるでしょうが、周りを見渡してみれば、ノートの見開きを使い、付箋を構造づけながら整理している生徒もいるはず。
互いの優れた工夫に触れることで、生徒間に相互啓発が働き、生徒は教わらずとも情報整理のスキルを身に付けます。週に一度くらい、互いのノートを開いてどこまで進んだか見せ合う場を作りたいものです。
誰かが興味深い情報を手にしていたとき、どこでそれに触れたかを生徒間で共有すれば、当たるべきソースに関する知識も膨らみます。
ちなみに、付箋とノートを使う以外にも、用紙にマス目を作って順番にメモで埋めていくという方法もあります。何枚目に入ったか、どこまで埋まったか、進み具合は一目瞭然なので生徒自身の励みになるかも。
すべてのマスが埋まった用紙は、マス目に沿って切り分ければ、位置を動かしたり順番を変えたりしながら整理ができる「カード」になりますので、付箋を使った場合と同じことができる状態に持って行けます。
2つのやり方の違いは、収集しながら整理する(付箋)のか、収集を先行して後で整理をするか(マス目)の違いだけです。情報整理に慣れていない生徒には後者の方がハードルが低いかもしれません。

❏ 多くの付箋が集まったところにこそ興味が存在

様々なものに広く触れて、それらに自分がどう反応したかを付箋に残すフェイズが終盤を迎えれば、相当な枚数の付箋がたまっているはず。
この段階まで来たら、付箋の整理(=構造づけて再配列すること)を通し、自分が関心を持ち、鋭く反応したところ、即ち、テーマ選びの起点となる「自分事としての興味」の所在を探らせましょう。
タスクに取り組む中、アンテナを高く張って過ごした数ヶ月の間に、生徒は自分がどんな状況や問題に取り囲まれているかを、以前よりも広い視野でより深く知るようになっていたのではないでしょうか。
初期に集めたメモと、後半でのメモでは対象とすることも大きく変わってきているかもしれません。意識と思考の変化(=成長)の証です。
付箋の整理は、KJ法やマインドマップ、マトリクスといった様々な方法がありますが、整理の方法を知り、工夫することも貴重な学びです。
100枚以上になった付箋を整理してみると、その分布には領域ごとに濃淡がでるのが普通です。
人は、潜在的に関心のあるところにしか反応しない(=認知の網が張られていない)ため、付箋がたくさん集まっているということは、そこに自分事とのして興味と関心が向いているということにほかなりません。



ここまでくれば、自分がどんなキーワードに反応しているかを、生徒は改めて知ったはずです。キーワードさえつかめば、ネットでも書籍でも当たるべき「信頼できる情報ソース」を探せるようになります。
ここからは、次稿の方法などを駆使し、社会がその課題にどう取り組んでいるか、どんな研究がなされているかをより深く知る中で、自分が解くべき問い/解決すべき課題を探す段階に進んでいくことなります。
その4に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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