負荷を高めるときになすべき配慮と工夫
負荷が不足すれば生徒の力を十分に伸ばせませんし、出口で求められる学力への到達が遠のき、結果的には乗り越えなければならない段差を後に大きく残すばかりです。生徒が感じる難易度や負荷耐性の高まりを常に把握して、適正な負荷をバラつきなくかけて行くことが重要です。
チャレンジングな課題に挑む中では学び方の工夫も生まれ、学習方策も身につきますので、学習者としての自立も進むものと期待できます。
とはいえ、やみくもに負荷を高めても、生徒の中にわからない/できないといったネガティブな体験を積ませるばかり。負荷をしっかりかけたいなら、達成可能性をきちんと担保する仕掛けが欠かせません。
2015/02/18 公開の記事をアップデートしました。
❏ 既習内容の確認と学び直し機会の整備
わからなければ出来るようにならないのは半ば自明ですが、理解を妨げる要因の一つは既習内容をきちんと理解していないこと/正しく思い出せないことです。
生徒の学習履歴は入学前を含めて様々ですので、ときには先生が前提としていることを生徒が「きちんと習っていない」ことすらあります。
新しい単元に入るときには、既習内容を理解しているか、想起できる状態にあるかを確かめ、必要な範囲で学び直しをさせましょう。
先生が丁寧に説明してあげればその場で理解できる生徒でも、既習内容の理解が不十分であったり、自在に想起できなかったりすることがあります。この状態では、少し内容が進んだだけであたかも足元から土台が崩れるように理解が積み上げられなくなります。
既習内容の確認は、問い掛けで行うのが好適です。問いかけて、答えを探すべく教科書や副教材の該当ページを開き、そこに書かれていることを読ませれば、理解の上塗りもできますし、授業が進む中でも必要があればそこを読み直せば知識の補完が図れます。
どうしても抜け落ちては困ることは、黒板の片隅に書き出しておけば、少なくとも消すまでの間はそこに必要なことが固定されていますので、生徒は目線を動かすだけで参照できますし、「書けば写す」のが生徒の習いですのでノートにも残ります。
また新単元に入る前に既習内容に関するミニ実力テストを行えば、クラス全体での理解度・定着度を測ることができます。範囲を伝えてテストを予告しておけば、生徒の側で自発的な学び直しも期待できます。
ミニ実力テストの結果、クラスを対象としたある程度体系的な学び直しが必要という場合もあるでしょうが、新単元への移行前に補習(講義形式で教え直しをするより、課題を与えて生徒同士で解決させる形式の方が手間もかからず効果も大です)をセットして対応しましょう。
❏ 伸びこぼし/吹きこぼれを生まない対策も並行して
負荷を高めようとするときに、ついて来れない生徒を作ってはいけませんが、そちらにばかり目を向けていては、余力のある生徒や先に学びを進めたい生徒を待たせてしまうことにもなりかねません。
先に進める状態にある生徒に対し、くれぐれも不要なストップをかけないようにしたいものです。
クラス全体に既習内容の学び直しをさせているタイミングでは、「手空きの時間」が生じている生徒がいるかもしれません。傍用問題集などを持たせているなら、自発的にどんどん進めさせましょう。
また、授業での到達目標そのものも、学びが遅れている生徒と余力のある生徒とでは分けてあげるのも必要な措置だと思います。
クラスの全員が必ず自力で答えられるようになってほしい必達課題と、それがクリアできた生徒が取り組むべき上位課題、その科目に強い興味を持つ生徒にチャレンジさせる挑戦課題の三段階ぐらいにハードルを設定したいものです。
ちょっときつめの負荷を掛けるには、ある程度まで「学びの個別化」が必要です。やり過ぎは先生の負担が過剰になりますが、クラスを幾つかの層に分けるところまでは対応を考えて行きたいところです。
問題集を持たせておき、設問番号で必達/上位/挑戦を区別するのでもかまいませんし、先生方が出題研究の中で見つけた良問を探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問として提示してみるのも好適です。
挑戦課題は任意提出という形になると思いますが、提出された解答に鋭い着想や倣うべきものが見つかればプリントにするなどの方法で生徒間でシェアさせましょう。生徒同士の相互啓発が働き、特に上位の生徒にはモチベーション向上も期待できます。
なお、個々に添削するのは先生方にも負担が小さくありません。「答え合わせ会」などで解法や考え方を生徒相互で探させるのも好適です。
❏ 学習目標を理解させることで達成可能性を引き上げる
別稿「目標提示が苦手意識を抑制」でお伝えした通り、学習を通じて到達を目指す状態をしっかりと認識させることには苦手意識の発生を抑制する効果があります。
何を目指しているかピンと来ないうちに大事な説明が始まっては、押さえるべきポイントを聞き逃すことも少なくなさそうです。
逆に、学習目標を正しく認識していれば、目と耳から直接入ってくる情報(先生の説明や資料などに書かれていること)を、イメージした「完成予想図」と結び付けることで、正しく組み上げていくのが容易になります。目標を認識することが理解力を補完するということです。
学習を通じて完成を目指すものを生徒に伝えるには、これから学習することを用いて解決すべき課題/答えを導くべき問いの形で示すのが最善の方法であることは以下の拙稿でもお伝えした通りです。
また、何のために学ぶのかを正しく想像できれば、学習への取り組みや課題への挑戦のモチベーションにもなりますので、積極的な学びの姿勢を引き出し、結果的に課題の達成可能性も引き上げてくれます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一