教科間で調整を行いつつ、課題(予復習、宿題など)の総量を適切な範囲にキープするには、いくつかの数字を把握しておく必要があります。
ひとつは「生徒一人ひとりが授業外の学習に充てている実際の時間」。一般的には「家庭学習時間」と呼ばれますが、放課後の自習室で勉強をする時間や通学の電車・バスで参考書を広げる時間なども含めるべきですので、呼称は「授業外学習時間」の方が適切かもしれません。
これに加えて、各教科の先生方が想定する「与えた課題を完遂するのに必要と見込まれる標準的な時間」(見込み所要時間)も、すべての教科についてしっかりと数字で把握しておきたいところです。
先生方が与えた課題を行う時間と、それ以外に生徒が自分で選んで取り組んでいる勉強の時間は集計を分けるべきでしょうし、塾などの授業やその予復習などに充てる時間も、切り離しての把握が必要です。
2015/01/08 公開の記事をアップデートしました。
❏ 授業外学習の実時間と見込み所要時間の比較
家庭学習時間調査などで把握した、授業外学習に生徒が実際に投じている時間と、課題を与える側(先生方)が想定する「課題の完遂に必要な時間を足しあげたもの」を比べたら、両者は概ね一致するでしょうか。
比較するには、双方の時間を科目ごとに把握しておく必要があります。全教科を合算した数字では、例えば、英語と古文は見込みを大きく超過しながら、他教科では逆のことが起きている場合に「全体としては概ね一致」という、あまり意味のない結果が出力されてきます。
実際に調べてみると、見込みと実際の時間が大きく乖離していることが少なくありません。この状態のままでは、どのくらい課題を与えるべきかの判断を誤るリスクがあり、適切量への調整に支障が生じます。
{実際の学習時間<見込み所要時間}の場合
たとえば、先生方が30分程度を見込んでいるのに、生徒はそれほど深く課題を掘り下げず、10分もかけずに「完了」と思い込んでしまっていることがあります。考えられる要因は、以下を含めて様々です。
- 何をどこまでやれば良いのかが、明確に示されていなかった
- 十分に課題を掘り下げる方法をきちんと学ばせていなかった
- 手を抜いたりズルをしたりしても、教室で困ることがなかった
乖離の要因を一つひとつ解消して、両者が一致するようにしていく必要がありますが、そもそも乖離が生じていることに気づかなければ、どこにも手を付けられません。
{実際の学習時間>見込み所要時間}の場合
逆に、実学習時間が見込みを大きく超過しているようなら、知らぬ間に過剰な負担を生徒に強いていたということです。
これを看過したり、気づかずに放置しては、負担に耐えられなくなった生徒が、課題に取り組むことを諦めてしまったり、ズルや手抜きの方法を学んでいったりする公算が大きいのではないでしょうか。
想定以上に実時間がかかっているようなら、生徒が備える「既習事項の理解」「学習方策の獲得」が、先生が想定する水準に達していなかったのかもしれません。
予習で何かに取り組ませるにも、前の授業を終えて生徒を教室から送り出す前に、所定のタスクをこなせるだけの知識や理解、取り組み方などを生徒が身につけているかどうか、確認する必要があるはずです。
❏ 乖離の様子は「平均値」ではなく「度数分布」で把握
実学習時間の調査結果を、クラスなどの「平均値」で把握しているだけでは、実態を見誤るリスクが膨らんでいくばかりです。
前述のような状況で、課題にまともに取り組むのを諦める生徒が増えると、自ずと「ゼロ」に近い生徒の増加で平均値が押し下げられ、実時間が見込みを大きく超えているのに、両者が近づいて見えてしまいます。
実際に課題に取り組んだ時間は、個々の生徒について把握して{実時間-見込み時間}を算出し、10分毎くらいに分けた階級ごとの度数分布を見るようにすれば、こうしたトラップに引っかからずに済みます。
ちなみに、度数分布を見て{実時間-見込み時間}が大きなマイナスとなっている生徒が大勢いるようなら、課題にしっかり向き合いきちんと仕上げさせることに注力した指導を行う必要があるはずです。
❏ 実際の所要時間の差が、生徒間で過度に大きい場合
課題を完遂するのに要する時間が、生徒間である程度の違いを含んでいるのは当たり前ですが、それが過剰なほど大きい場合には、それなりの対処を講じる必要があります。
学力が高い生徒、要領を身につけている生徒が10分で終わるところを30分以上かかってしまう生徒がいたら、その生徒が抱えるビハインドはどんどん拡大していくばかりです。
宿題の処理に手間がかかり、次の授業の予習に手が回らず、授業内容も十分に理解できなくなるという悪循環は、指導者側が断ち切ってあげるべきではないでしょうか。
クラスに与える課題を、全員が必ず仕上げるべき必達のものと、それをクリアできた場合にチャレンジする発展的なものに段階を分けてあげるというのも一手です。教室を離れる前に、課題への取り組みかたを考える時間を少し取り、やり方や取り組みの手順を隣同士などで話し合わせることで、遅れがちな生徒に取っ掛かりを持たせるのも効果的です。
❏ 課題ごとに所要時間を申告させれば、把握も容易
こうした調査は、さほど複雑ではありません。担当している授業について所要時間の見込みを立てた上で、生徒に「実際にどのくらいの時間がかかっているか」を聞いてみれば簡単に把握できるはずです。
課題を提出させるときなどに、着手から完遂までに何分かかったか申告してもらうのは大した手間ではありませんし、ICTを用いて電子的に回答・申告してもらえば、改めてデータを入力する手間も生じません。
こうしたデータを積み上げれば、一定期間での科目ごとの総学習時間はもちろん、各先生がデータ(同じ形式に揃えることが前提)を持ち寄ることで、全教科合算での学習時間の把握も十分に可能です。
少なくとも、「平均してどのくらい勉強しているか」というざっくりとした訊き方を続けるより、データの精度もぐんと高まります。
ちなみに、課題に取り組むときに、ストップウォッチ(スマホでOK)を用意し、開始から終了までの時間を測定させると、集中力が上がり、より短時間で課題を完遂できるようになる傾向もあるとか。
❏ 学習時間の把握は手間は掛かれど、効果≧費用
生徒の学習時間を、科目ごとあるいは個々の課題ごとに把握するのは、確かに手間がかかりますが、得られるものも小さくありません。
自分自身がどのくらいの時間を勉強に充てているかを、生徒は案外、正確に把握していないものです。自分の状態を正確に/客観的に把握していないのでは、的確な振り返りもできません。
それまである科目を「苦手」と思い込んでいた生徒が、学習時間を正確に把握し直してみたら、他の生徒と比べ、圧倒的に勉強時間が不足していただけであり、その科目に不向きと決めつけるのはまだ早すぎると気づいてくれることも決して珍しいことではありません。
そこから奮起して頑張ってみたら成績も上がり、あきらめていた志望校に再びチャレンジできるようになったという事例もあります。思い込みで、自分の可能性を低く見積もっていては、将来の選択肢も小さく縮み上がるばかりです。
その3に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一