学習目標という言葉で最初に思い浮かぶのは「単元の内容を理解すること」かもしれませんが、それだけではありません。内容を学ぶことを手段に様々な能力や資質(基礎力、思考力、実践力など)を獲得することも目標です。(cf. カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する)
わからないことがあったときに調べたり、予習復習を進めたりするときの「学習方策」を身につけること、加えて、協働で課題解決に臨む場面でのふるまい方や新たな知を作り出す探究の方法と姿勢などを獲得することなども、学習活動を通じて生徒が達成を目指すものに含まれます。
2014/12/26 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 学びの方策、資質・スキル・姿勢にも到達目標
単元固有の知識や理解は、既習内容の理解という前提が必要とは言え、その獲得自体はその場の学びで(=授業の中で)完結し得ます。
仮に生徒が教科書などを自力で読んで理解する力や、自ら学び進めようとする意欲(=学ぶことへの自分の理由)を備えていなくても、十分な技術を持つ先生が丁寧に教えて理解させ、生徒がそれをきちんと覚えさえすれば、「知識・理解の獲得」という目標は達成できます。
しかしながら、これだけで良しとして立ち止まっていては、生徒はいつまでたっても「教わって覚える」という受動的な学びのスタイルから離脱できず、学習者としての自立には向かえません。
卒業して、先生方の手を離れたあとも自ら学び続けられる生徒に育てるという大切な目的にあまり近づけていないように思います。
自立的に学びを進めるうえで必要な、学びの方策、資質やスキル、姿勢の獲得は、単元内容の理解/習得を図るのと並行して、常にその達成を意識すべき重要な学習目標(先生方にとっては指導目標)です。
❏ モデルを示して上手にガイド+生徒が工夫を挟む余地
学びの方策や様々な資質・スキル・姿勢などの獲得は、単元の内容を学びながら、段階的・中長期的に進むものです。
ある単元を学んだときに初めて経験した学びの方策は、その先の単元や別の科目を学ぶのに繰り返して用いる(応用する)中で、自在に使いこなせる「自分のもの」になっていきます。
好ましい学びの方策は、放っておいても生徒が試行錯誤の中で見つけるかもしれませんが、それでは少々「博打」の要素が入り込みそうです。
正しい学習方策の獲得に時間が掛かり過ぎるのは避けたいところです。卒業までに間に合わず、「あとはそれぞれ頑張ってね」というわけにはいきません。教科書を終えずに学年末を迎えるより問題は大きいかも。
そもそも、学習方策の未獲得に起因して、単元内容の理解すら思うに任せない/上手くいかない状態が続けば、学ぶ意欲を失い、その科目から遠ざかろうとする生徒が出てきても不思議ではありません。
最初のうちは、先生から「やり方」を示して適切にガイドする必要があります。「お仕着せ」にならないよう、ファーストトライは生徒の好きにさせ、その中で上首尾に進められた生徒のやり方を互いに学ばせるのも好適ですが、変な癖がつかないようにきちんと見守りましょう。
その後は、課題に挑ませたり、学びを体験させたりするたびに、きちんと振り返りをさせて、より良いパフォーマンスを得るために、何をどう学んでいくか、生徒自身が考え出せるように導くことが肝要です。
❏ 学習方策を獲得したか、きちんと点検&フォロー
科目の特性にマッチした学び方(予習や復習のやり方など)は、年度初めの授業開きなどでも伝えていると思いますが、「伝えて終わり」にしていないでしょうか。
ある程度の期間が経過したら、モデルとして示した方策を自分のものにできているか(=日々の学びの中できちんと実行できるようになっているか)をしっかり観察してみる必要があります。
最初のうちは「やってみせ、言って聞かせて、させてみて」で始めた学習法の指導も、段階が進むにつれて「やりかたそのものを考えさせる」ところに持っていく必要がありますが、最初の段階を通過できないでいる生徒を放っておくわけにはいきません。
学習方策の獲得そのものが「目標」である以上、その達成検証は教える側がきちんと行うべき仕事のひとつです。
年間授業計画/シラバスや学習の手引きでは、生徒が取るべき学習行動(予習や復習のやり方、授業内での取り組み、副教材の進め方など)を生徒を主語にしたセンテンスで書き出しておき、行動評価を行うときの規準として活用したいものです。
生徒自身にも、その「規準」に照らして自己点検をさせることで、自分の学びのあり方を振り返るきっかけになると思います。
なお、シラバス等をそのまま振り返りに使うのでは、点検がやりにくいことも多々ありますので、書いてあることを質問文に起こし直し、生徒が答えるアンケートの形式に仕立ててみるのもお奨めです。
こうした点検を通じて「できていない生徒」を見つけ、その改善を促そうと、授業開きで伝えたことを再び言って聞かせたところで、そう簡単に行動改善には繋がりません。
やらなかった/できるようにならなかったのは、先生が示した方法を実践することへの自分の理由を見出していなかったか、実行するのに必要な前提を備えていなかったからだと思います。
他の生徒が見出した別の「好適な方法」を試させてみるのもありでしょうし、できなかった理由を取り除く支援も考えなければなりません。
❏ 生徒に提示した方法の妥当性も確かめて絶えず改善
授業開きなどで生徒に伝えて求めた学びへの取り組みについて、生徒がどこまで自分のものにしてくれたか確かめたら、もう一つ点検しておくべきことがあります。
それが「生徒に提示した(=獲得させることを目指した/目標とした)方法が、合理的で、且つ効果的な学びに資するものだったか」です。
提示した方法が合理的で効果的なものであったら、それに従った生徒は学力を伸ばし、科目を学ぶことへのより高い意欲を示すはずです。
生徒自身の学び方に関する振り返り(如上のアンケート)の結果を用いて、「指示をこなした生徒」と「それ以外の生徒」を分け、考査や模試での成績の伸長や、授業評価アンケートで尋ねた「科目に対する自己効力感(=学力向上感)」などに有意差が生じているか確かめましょう。
意図していなくても、先生方はご自身が中高生だったときに身につけた学び方を前提に、生徒にどんな行動を求めるべきか考えています。
学習指導要領が改訂されるたびに、目指すべき学力像は少しずつ変わってきましたが、いくども改定が重ねられる中、積み上げられた「学力像の変化」はかなり大きなものになっています。平成で通用した戦略が、令和の時代にもそのまま効力を発揮するとは限りません。
新しい学力観に沿った学ばせ方の転換が進むことを前提に、生徒にどんな学び方を求めるか、データで検証しながら冷静に考え続けましょう。
繰り返しになりますが、獲得を目指させる行動や学びへの姿勢は、到達目標の一つ。もし、目標が間違ったところを置かれていたら、努力すればするほど、正しいゴールとはかけ離れたところに流れ着いてしまいます。くれぐれも、間違った的に矢を射らないようにしたいものです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一