学習目標の示し方(その1)~目標を共有することの効能

教科学習指導に限ったことではありませんが、生徒に何かを学ばせようとするとき、事前に学習目標を正しく認識させておくことには、

  • 目標に照らした生徒側での情報補完が容易になる(≒理解力の向上)
  • 目標に達したことを実感しやすく、モチベーションの向上が図れる
  • 修正に何をすれば良いか見つけやすく、苦手意識を抑制できる

といった好ましい効果が多岐にわたって期待できます。
教科学習指導における「目標」には、教科や科目に通底した大きなものもあれば、単元や項目ごとのものもありますし、学びの局面ひとつひとつにも到達を目指すべきものがあるはずです。

それらを生徒にも理解できる表現でしっかりと示し、生徒と共有できているかどうかは、学びの成果を大きく左右します。授業をデザインするときにはいつも教えるが側が意識しておくべき事柄です。

2014/12/24 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 目標を伝えているかどうかで学習効果が大きく変わる

下図は、活用機会(習ったことを使った課題解決体験)を横軸に、学習効果(授業を通じた進歩・向上の実感)を縦軸においた散布図です。
両者の間に強固な相関があるのは一目瞭然だと思いますが、学習目標等の周知(ガイダンス)の成否での色分けにもご注目ください。

画像


ガイダンス成功群と同失敗群それぞれに描いた2本の近似線は、互いに一定の距離を保ち、どこまでも交わることがありません。この近似線間の距離こそが「目標をはっきりと示しておくこと」の効果です。
学びを通じて、自分の進歩や成長を実感できることは、その科目を学び続ける意欲の原資であるとともに、できるようになったことの中には、新たな興味も生まれます。学習目標をきちんと示すかどうかは、学びの成否とその行方を左右するとお考え下さい。

❏ 生徒自身が達成を検証できることが目標提示の要件

何かを学ばせようとしたら、まずは「ゴールをきちんと示す」 ことが必要であるのは上のデータが示す通りですが、肝心なそのゴール(学習目標)は、「生徒自身が達成を検証(=成否を判断)できる表現」で提示されているでしょうか?
学習指導要領で用いられているような定性的な記述は、各教科の専門家である先生にしか理解できないと考えたほうが良さそうです。ましてや各単元の学習内容を学ぶことを手段に獲得を図る能力や資質は、それらを表す用語を並べただけで生徒がすんなり理解できるとは思えません。
単元名や学習項目(例えば「二項定理」とか…)を導入フェイズで板書して見せたところで、まだ学んでいないことだけに「何を学ぶのか」もピンとこないでしょうし、項目名に照らして考えたところで「何ができるようになればOKなのか」は生徒には想像すらつかないはずです。
そもそも、単元名や項目名は、獲得する知識や理解をひと括りにしているだけですので、それらをどう「生きて働かせるか」は、「解決すべき具体的な課題(問い)の形」で示してあげる必要があるはずです。

達成検証ができなければ、モチベーションの原資である達成感も曖昧なままです。目標と自分の現状の差分をきちんと認識できなければ、それを埋めるためにどうすれば良いかを考えることもできません。
生徒に自ら考え、主体的に学びに取り組ませたいなら、目標を生徒自身が達成を検証できる形(問いや課題)で表現するようにしましょう。
生徒が学習目標を正しく認識しているかどうかは、テストの結果や行動観察では測定できませんから、何らかの方法で本人に尋ねてみる必要があります。クラス全体の様子を捉えようとするなら、アンケートを行ったり、リフレクションシートへの記載を解析して定量化してみたりといった手続きが欠かせないはずです。

❏ 学びの本題に入る前に学習目標を正しく認識させる

授業ごとの目標提示は当然ながら、導入フェイズで行います。後出しにしては、前述の「目標に照らして生徒側での情報補完」も働きません。
何を目指している場面かをきちんと把握できてこそ、生徒は目的意識をもって授業に参加できますし、先生の説明を聞くときも、自分で調べるときも、情報の不足を自ら考えて補おうとします。
道案内に喩えてみるとご理解いただけると思います。「今日の目的地は〇〇公園です。駅から北に向かって10分程のところ、〇〇川の河川敷にあります」という情報を事前に得ている場合と、どこにいくかも知らされていない場合とを想像してみてください。
どこに行くかも告げられないまま、「駅の改札を出たら先ず右に向かって、1分程歩いたところにある最初の信号を右に折れて下さい。道なりに進み、3番目の交差点を…」といった具合に指示を受けても、正しい道順を辿るのはとても難しそうです。そもそも覚えきれないかも…。
実際に歩き出してみて、聞いていたのと違う風景が目の前に広がったときの戸惑いは容易に想像できます。
ゴールがどの辺にあるか予め知っていれば、「たぶんこっちだろう」と見当もつきますが、その前提を欠いては「信号なんてどこにもないぞ」となるのがオチ。そこからのリカバリーはききません。
これと同じことが、学習活動/授業の中でも日々起きているのではないでしょうか。手順を事細かに伝え覚えさせるよりも、手順を描き出せなくなったときに、目標に照らして「復元」したり、新たに考え出したりできるようにしてあげる方が、よほど実効のあるアプローチです。



ちなみにですが、授業冒頭では目的を敢えて示さないという選択肢もないわけではありません。うまくいけば、自分で見つけたという喜びが達成感をより大きくしてくれます。ただし、教える側の勝算とは裏腹に、実際にやってみたら大半の生徒が狙った気づきには至らなかったというリスクもあります。試してみるには勝算の冷静な見極めが必要です。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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