模試受験後の指導~進路希望を維持させる~

模擬試験を受験させた後の指導は、進路希望の実現への意欲を維持させる上で最も大切なことのひとつです。それまでの自分の学びをきちんと振り返る中で「次に向けた課題」を明確にできるかどうか、戦略を立て直すことで「志望実現に向けた勝算」を描き続けられるかどうかが、受験生としてのその後を大きく隔てます。

2014/11/28 公開の記事を再アップデートしました。

❏ やりたいことに挑み続けられるように

模試の結果が返ってくるたびに連発するE判定をただ眺めているだけでは、次第に勝算を描けなくなり、志望を下方修正する気持ちが生まれるのも当然のことかもしれません。
しかしながら、同じE判定でも、もしかしたら「C判定までの得点差」は縮まってきているかもしれません。
客観的・戦略的な振り返りを通じて、結果の中に「何をすれば良いか」を見出すことができれば、あきらめるという「最後のカード」を切る必要はなくなるのではないでしょうか。
それまでの成果のたな卸しと、次に向けた課題形成が重要であるのは、日々の学習と同様です。「やり直しをさぼって、もし、似た問題が本番に出たら」という次元の問題ではありません。やりたいことをやりたいと思い続けられるかどうかの大問題です。

❏ C判定までの点差が埋められるかどうか

模試のやり直しに際し、正解できなかった問題の一つひとつについて、失点を以下のように区別させてみましょう。
「見落としや考え違いで落とした点数」・・・A

「計画をちゃんと完遂していたら取れていた点数」・・・B
もし、得点Aと得点Bを足したものがC判定までの点差に達しているようであれば、「しっかり勉強を重ねていけば、合否を争えるところまでは到達できる」ということを意味しています。


❏ 問題検知センサーと記憶を手繰り寄せる方策

A失点(=見落としや考え違いで落とした点数)については、模擬試験の解説を読んで「あっ、そうか」と思える部分に相当します。
知っていたからと言って試験本番でそれを思い出せないようでは使えません。なぜ、思い出せなかったのか、記憶をたどる糸口はどこにあったのかを、しっかり考えさせましょう。
正解に至るプロセス(どんな知識を動員するか、設問の要求をどのように把握するかなど)を言語化する習慣を普段から身につけさせないと、A失点が大きくなります。
気づくかどうかはその日の調子次第、というのでは困ります。
気付いたり思い出したりするのにもメカニズムがあり、それを意識上に取り出して自在に操れる「言語化によるメタ認知」がカギです。

❏ 一度手をつけた教材はきっちり仕上げ切らせる

B失点(=計画をちゃんと完遂していたら取れていた点数)は、これまでに勉強した教科書、授業でとったノート、やりかけの単語集や問題集などに、設問が求めているものが載っているはずです。
やるべきだったことが何であるかを認識できれば、次の模試に向けて具体的な「やり直し計画」の立案に進めます。
新しい教材を買い込んできて頑張るというのではなく、”学習機会としての模試受験(その1)~仕上げさせる“で書いた通り、やりきらずに放置していたことの仕上げの中に、道が開けることを実感させましょう。
思ったように成績が伸びないと、これまでと違ったものに手を出したくなるのが人情ですが、つまみ食いのやりかけ教材を増やしても良い結果は引き寄せられません。

❏ 合否は総合点で争うもの~広い視野で戦略立案

当然ながら、受験は複数の科目の総合点で合否を争うものです。
私立文型志望なら、英語、国語、歴公の3教科それぞれの伸びしろ(A得点+B得点)を計算させ、その上でC判定までの合計得点差を埋めるために何をすれば良いかを考えさせましょう。
仮に、ある科目で点差を大きく詰められなくても、その分を他教科で埋め合わせればよいだけの話です。ただし、大学に入ってからのキャッチアップには相応の覚悟が必要になりますが…。
特に現役生の場合、理科や地歴公民で学習範囲が終わっていないこともあります。積み上げの幅をきちんと見極めて、「届くはずのものが視野の外にこぼれないように」したいものです。

❏ プラスαの詰め方を誤らせないために

仮に今の学習で埋められる点差(A得点+B得点)ではC判定まで届かないということであれば、プラスα の取り組みとして何が必要かを考えさせなければなりません。
ここでも、生徒が自分でしっかり考える前に「ああしろ、こうしろ」と先生が先回りして指示を出していては、生徒が自分の学びを組み立てる力を身につけるチャンスがなくなります。
生徒に学習プランをじっくり考えさせてもなお、生徒自身が導き出した答え(=対策)が明らかに不合理で、且つ自力ではそこから先に考えを広げられないようであれば、教科担当の先生に相談に行かせましょう。
伸びている他の生徒/志望校に合格した先輩たちのやり方を安易に真似させるのも危険です。その生徒に同じ方法が適合するとは限りません。
普段の学習指導を通じた観察に基づく「診断」と「処方」がポイントです。ときには、教科内の先生方で意見を交わし、「カンファレンス」で正しい指導方針を立てる必要もあろうかと思います。
教科担当の先生には、「やり方を考え出させること」「仕上げ切らせること」といった基本方針をしっかり伝えておきましょう。目線を合せてこそ、個々の指導の成果にシナジーが生まれます。

❏ 志望の切り下げで、学びの目的を見失わせない

如上のプラスα をイメージしてもなお、第一志望には届かないという判断になれば、合格の見込みが立つ次善の志望に切り替えを検討せざるを得ませんが、「進路希望を維持する」ことにはこだわりましょう。
不用意な志望の切り下げを機に、それまでの頑張りを支えた意欲も損ねることがありますが、それは第一志望を諦めることと「学びたいこと」(=志望理由)を放棄することを混同しているからです。
志望校を切り下げざるを得ないときにこそ、志望校を選んだときの思い(何を学びたいのか、学んだことを介して社会とどう関わりたいのか)に立ち返らせて、目指したいものを改めて確認させるべきです。
ゴールは同じでもそこに至るルートは様々です。「諦めたくないもの」があるなら、別の道を探してゴールを目指すべきだと思います。
別ルートを辿ることで、途中の苦労が増えたり、余計な投資が必要になったりすることがあるかもしれませんが、それでもゴールが消えてなくなるわけではありません。
道を切り拓く覚悟を新たにさせ、チャレンジする気持ちを持たせ直すことこそが、この局面での先生方のお仕事ではないでしょうか。
続編「どこまで伸びるか見立てる」に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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