授業改善には授業デザインを先行させる

深く確かな学びを実現する授業を構成する要素には、話し方や板書、指示や説明、確認の取り方などの「伝達スキル」と、学習目標を共有したり、学んだことを使う場を整えたり、対話を通して学びを深めたりといった「授業のデザイン」の2つがあります。伝達スキルの多くは、個々の先生に内在するものであり、参観などを通じて優れた手法に触れたとしても、その場から自分のものとして自在に使いこなせるようになるとは限りません。生…

正答率の予測ができれば授業設計も最適化

正答率を正しく予想できるということは、問題が要求する様々な学力に照らした「生徒の状況把握」が正確に行えているということです。教科学習指導は、目標学力と生徒の現況学力との差を埋めるための行為であり、正答率の予測精度(=現況学力を正しく把握しているか)は、指導設計の妥当性に大きく影響を与えます。様々な場面で実際に予測を行ってみて、ご自身の予測力を常に点検するとともに、精度の向上を図る努力も怠らないよう…

授業内に行う小テスト

小テストは、前回までの授業で学んだことや自学用に持たせている副教材の内容など、覚えさせる/確かめる内容とそのソースは様々ですが、実施のタイミングは「授業の冒頭」というのが一般的だと思います。始業の礼から間髪入れずに小テストを始めることが習慣として確立している授業では、休み時間からの切り替えもスムーズで、授業時間を無駄なく使うことにも大きく貢献しているように見えます。これに対し、今回ご提案するのは、…

理解度の確認~場面と方法 #INDEX

ひとくくりに「理解度の確認」といっても、その方法には発問、小テスト、課題など様々。生徒同士に話し合わせてそれを観察するという手もありますが、それぞれの方法には得手・不得手とする領域があり、どれか一つの方法で押し通したところで的確な理解確認はできません。また、授業を進めるときのフェイズ(場面)ごとに、確認の目的も違います。それぞれの目的に合致した確認方法の正しい選択は、理解の確認という指導者行動を効…

理解度の確認~場面と方法(その4)~課題を提出させて

前々稿の発問による理解度の確認 、前稿の小テストによる確認 に続いて、「提出された課題を通して行う理解度の確認」について考えてみたいと思います。この方法で確かめる「理解度」は「知識・理解が生きて働くものになっているか」に焦点を据えます。言うまでもないことですが、教えたことを生徒が正確に覚え、答案に再現できたことをもって「理解できた」と判断しては、新しい学力観に沿った学ばせ方とは言えません。 201…

理解度の確認~場面と方法(その3)~小テストの活用

前稿では主に「発問」を通じた理解度の確認方法について考えてみました。導入・展開・まとめのいずれの局面でも「反応の即時性」と「対話への繋ぎやすさ」が発問が持つ最大の強みです。これに対し、小テストで行う理解度の確認の強みは、正誤の結果や誤答の分布を定量化しやすく、データを効果検証などに活用できることにあり、それを十分に生かしていきたいものです。ICT/デジタルツールの進歩により、その場での採点の自動化…

理解度の確認~場面と方法(その2)~発問による確認

理解度の確認といっても、その方法には、発問、小テスト、課題などの提出物の点検、生徒同士のやり取りなどの観察といった様々なものがあります。それぞれ長所・短所があり、用いるべき場面や上手に行うために押さえておくべき勘所というべきものもあります。まずは、発問/問い掛けによる理解度の確認から、場面を分けながら効果的なやり方について考えてみたいと思います。 2014/05/23 公開の記事をアップデートしま…

理解度の確認~場面と方法(その1)~目的とするところ

理解度の確認は、次に進む準備が整っているかどうかを確かめるために行うものです。もちろん、教えたことを覚えているかどうかも大事ですが、断片化した知識として記憶に残っているだけでは、理解したことにはなりません。獲得した知識が「生きて働くもの」になっているか、課題解決に活用させることで確かめるところまで踏み込みましょう。 2014/05/22 公開の記事をアップデートしました。 ❏ 次のフェイズに進む前…

対話により思考の拡張を図り、観察の窓を開く

授業内に生徒が活動する場を作る目的は、解くべき課題を与えて発動させた思考を「対話を通じた知識や発想の交換」で拡張させることに加えて、生徒の頭の中で何が起きているかを把握するための「観察の窓」を開くことにあります。沈思黙考という言葉もありますが、一人の頭の中だけで考え得ることには限界があります。それ超えていくためには対話を通じた思考の拡張が欠かせません。また、生徒一人ひとりの思考を言語化させてみない…

自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”

授業中に問題演習を行っているとき、生徒に「わからないことがあったら手を挙げ(て質問し)なさい」と声をかけるのは教室でよく目にする光景です。明示されていませんが、質問する相手は「演習の様子を観察している先生」が意図されています。生徒の疑問にきちんと答えるのはもちろん先生方の大事な仕事ですが、不明解消の方策を学ばせる/学習者として自立に向かわせるなら、最初に問いかけさせるべき「相手」は別にいると思いま…

活動させるのは観察のため~「観察の窓」を開く

授業の中で生徒は様々な活動に取り組みますが、それらを通して生徒は以下をはじめとする様々な「学びの目的」を達していきます。 自ら考えて行動する中での体験を、知識や理解に再構成していくこと 理解や思考の結果を言語化する中で学びをより確かなものにすること 対話(気づきの交換)で思考を拡充し、判断に必要な視野を得ること 一方、教える側/学ばせる側である先生方にとっても、生徒が活動する場を整えることでしか、…

デジタル・トランスフォーメーションと教室での学び

コロナ禍で、教育ICTの活用が一気に進みました。新たに開発・導入された技術やサービスが「新しい学力観に沿った学ばせ方」の実現に役立つところでは積極的に活用したいところです。デジタル・ツールを活用することで指導法にも可能性が広がりますし、新しい道具は、思考法や行動様式も変えるため、従来の方法に拘っていては新しい時代が求める能力やスキルを育て損ねる可能性もあります。しかしながら、「新しい技術やサービス…

考査問題の改善が授業も変える#INDEX

先生方の頭の中には「学力観」というものがあります。普段はことさら意識することがなかったとしても、それらは授業の進め方、テスト問題の作り方にはっきりと現れます。学力観が背景要因となって{何を教えるか=何を測るか}という関係が作られているということです。瞬間ごとに相を変えていく授業は、固定して吟味の対象にするのも容易ではありませんが、紙の上に固定されたテスト問題はじっくりと眺めて検討したり、複数の先生…

考査問題の改善が授業も変える(後編)

卒業までに身につけさせたい学力から逆算して、時期ごとに獲得させるべき学力(科目固有の学習内容に加えて能力や資質など)を目標に設定し、その達成度を測れる定期考査問題を3年間/6年間に正しく配列することは、授業の改善に大きく寄与します。定期考査は学力形成の工程における「中間検証」の機会です。そこまでに獲得できた学力を正しく評価できてこそ、その後の指導に明確な指針と課題が得られます。また、定期考査の内容…

考査問題の改善が授業も変える(前編)

より良い授業を目指した工夫や取り組みは実に様々で、拝見するたびに先生方の意欲的な取り組みには頭が下がるばかりです。しかしながら、学びの成果を測るツールたる考査問題の改善には指導法の工夫に比べてあまり意識が向けられていないようにも感じています。新しい学力観を取り入れた学ばせ方への転換が図られても、定期考査が旧態依然のままではその成果を正しく測定できず、次の指導に向けた課題形成もままなりません。生徒は…

目標理解と活用機会を整える授業デザイン

学習目標を正しく認識した上で、習ったことを用いた課題解決を経験することで、生徒の学びは着実に成果(=学力の向上や自分の成長)を結ぶようになります。学習目標を提示するには、解くべき課題をもって行うのが最も効果的であるのは別稿で申し上げた通りであり、獲得した知識・理解の活用機会を整えることには一石二鳥の効果が見込めます。これに、対話による気づきの交換を重ねることが加わることで、学びはより深く広いものに…

遠隔授業のデータから考える対面の良さを生かすポイント

今年も幾つかの大学での本年度前期の授業評価アンケートのデータを分析する機会に恵まれました。今年はコロナ禍で対面授業ができず、前期を通してずっと遠隔授業が行われていたこともあり、項目間の相関など集計結果には例年と違ったものが方々に見て取れます。 対面授業が行われていた過年度と比べ、遠隔授業では以下のような変化が生じており、どうやら特定の大学だけの現象ではなさそうです。 教員の理解確認と学生の到達目標…

実技実習の授業に「振り返り」がもたらす効果

実技実習系に限らず、どの教科でも学び終えた段階できちんと「振り返り」を行うことは、生徒一人ひとりの学びに様々な効果をもちます。自分の取り組みやパフォーマンスを振り返る中で、授業を通じて新たにできるようになったことの「たな卸し」ができれば科目への自己効力感が高まりますし、今日の自分に足りなかったことを捉えれば「次に向けた課題形成」ができて、学びに目的が生まれます。 2016/08/25 公開の記事を…

"アクティブ・ラーニング"で学習時間が減る?

所謂「アクティブラーニング的な要素を取り入れた授業」が広く行われるようになった学校で、生徒の平均学習時間が減っているというデータがありました。興味がわいて調査してみたところ、ひとつの学校の特異な事例ではありませんでした。自己評価や学習時間調査の方法は各校それぞれであり、また精度も良くない訊き方をしていることもあり、集計結果を鵜呑みにすることはできませんが、生徒が学びに主体的に関わろうとさせる中、実…

協働学習を"集団としての調和"で終わらせない

教室内での問答や討論などで実現される「対話的な学び」は、生徒が互いの知識や経験、発想や気づきを交換することで学びをより深いものにするのに加え、一人では解決できない課題に取り組むときに「集団知」をどう生かすかを学ぶのにも欠かせないものです。しかしながら、対話が盛り上がったかどうかと、一人ひとりのうちに学びの成果が蓄積され、深く確かな学びになっているかどうかは別の問題です。集団としての調和が生まれ、学…