思考力と表現力を養うには

表現力を高める指導

表現力は、思考力・判断力とともに、学力の重要な部分を構成します。志望大学の入試に記述・論述問題が課されているかどうかに拘わらず、自分の考えに他者の理解と共感を得る必要は、日々の活動を送る中にも多々あります。合理的な思考がきちんとできていても、表現力の不足がボトルネックとなっては、持てるものを十分に発揮できません。各教科の学習指導のみならず、進路指導、探究活動、さらには学校行事や体験学習などあらゆる…

身の回りの問題を多角的に捉えさせる

身の回りに起きていることの中にも様々な問題があり、それらの多くは日々の授業や総合的な探究の時間の中に、学んだり、解決策を考えたりする機会を持ち得ると思います。各単元の学習の中で扱うことができるものもあれば、単元を跨いだ融合問題を設定することで学習機会が作れるものもありますし、他の教科と連携した合教科型学習、探究活動で扱うのが好適なものもあります。そうした問題について学んだり考えたりする中で、生徒は…

正解がひとつに決まらない問題

別稿で取り上げた「学習型問題」と並び、近年の入試で出題が見られるようになったものに「答えが一つに決まらない問題」があります。答えが一つに決まらないのと「答えが存在しない/解答不能」は全くの別物です。論理的に(=理屈で考えれば)成立する様々な答えがあり得る/一つに限られないというだけのことです。社会に出れば、こういったタイプの問題に多く遭遇しますので、様々な答え/アプローチを考え、それらが論理的に成…

学習型問題への対応力を養う

2020年の高大接続改革の前後から「学習型問題」をよく見かけるようになりました。教科書では扱われていない、つまり生徒がそれまで学んだことがない事柄についての説明や資料を読ませ、そこで得た理解を土台に問いに答えさせたり、意見を述べさせたりするものです。以前はごく一部の大学に出題が限られましたので、個別指導でも対応ができましたが、出題が一般化してくるとなると、授業のあり方や3年/6年を通した指導計画に…

問いのあり方に焦点を置いた授業研究

以前の記事で、教室でしかできない学びを充実させるべく、授業は問いを軸に設計するのが好適と申し上げましたが、これを裏返して考えるとターゲットに設定した問いによって、授業の質/生徒がそこで学べることが大きく変わってしまうということです。先生方が集まって「より良い授業」を目指した研究や研修を行うとき、教え方や学ばせ方に焦点を置くケースが多いように思いますが、学力観が大きく変化した今、問いのあり方をテーマ…

しっかり音読、問いを立てて理解の深化(英語の授業例)

ある学校を訪ねて参観した英語の授業では、教科書本文の音読を様々なバリエーションで徹底的に行った上で、生徒が3人1組になって本文の内容に関する「問い」をそれぞれ作っていました。A君の問いにはB君が、B君の問いにはC君がといった具合に互いに答えを作ります。音読を重ねる中で、英文の構造なども十分に把握し、内容を捉えていく様子が見て取れましたし、後半のQ&Aを作るパートでは辞書の活用や教え合いなどで不明を…

思考力を鍛えるのは、教える前が勝負

生徒の思考力を鍛えられるのは「正解や解法を示すまで」です。答えや解き方がわかった後にできるのは、解に至る過程を辿り直して、「なるほど、そうか」と納得すること(+答えを覚えること)くらいです。そこでは、答えを導き出すために重ねるべき思考(題意の理解/問題の発見、解法の考案など)の大半を、生徒は自ら体験できません。答えを導くべき問いや解決すべき課題を与えたら、生徒が十分に思考を尽くすまで、不用意に正解…

「正解ありき」で教えていないか?

問題の解き方などを説明するとき、当然ながら、先生方は答え/正解も知っていますし、そこに辿り着くのに最適なルートも分かっています。そのため、うっかりすると「ここに補助線を引けば、〇〇の公式が使えます」「空所に〇〇を補えば、こういう構造ができて…」といった解説をしてしまうこともたびたびではないでしょうか。このやり方では、スマートに問題を解いてみせることはできても、生徒が初見の問題に対して「見通しを立て…

新しい学力観にそった授業と家庭学習の再設計

新課程への移行で学力観が新しいものに更新されていく中、家庭学習にも「学ばせ方の変化」に応じた新しい形が求められるようになるのは、既に以下の拙稿などでもお伝えしてきた通りです。 単純に授業外学習時間の延伸を図れば良いということではありません。宿題・課題の増量といった昔からの対策には、自ずと限界があると思われます。荷物を増やしても学びが膨らむとは限らないことを念頭に、「その宿題、本当に必要ですか?」 …

複数テクストの比較で試す「読解力」

大学入試問題では、複数のテクストを取り上げた問題が見られるようになり、注目を集めています。今年の大学入学共通テストの国語でも小説の本文と併せて、当時の新聞に掲載された批評が資料として与えられ、両者を読み比べて答えを導く問題がありました。他教科の問題でもどのデータに当たるべきかを考えさせたりする設問が登場しています。 ❏ 新課程が求める「学ばせ方」を実現するために PISAの読解力定義には2018年…

答案を正しく評価できているか

別稿「学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える」でも申し上げた通り、高大接続改革以降の入試で出題の増加が予想される「答えが一つに決まらない問題」などの新しいタイプの問題では、採点基準の在り方しだいで、設問は良問にも悪問にもなり得ます。答案を正しく評価することは、生徒の学びを正しい方向に導くことにほかなりません。新しい学力観に沿った出題が増える以上、それを正しく採点する方法の開発・確立は真っ先に取り…

対話により思考の拡張を図り、観察の窓を開く

授業内に生徒が活動する場を作る目的は、解くべき課題を与えて発動させた思考を「対話を通じた知識や発想の交換」で拡張させることに加えて、生徒の頭の中で何が起きているかを把握するための「観察の窓」を開くことにあります。沈思黙考という言葉もありますが、一人の頭の中だけで考え得ることには限界があります。それ超えていくためには対話を通じた思考の拡張が欠かせません。また、生徒一人ひとりの思考を言語化させてみない…

授業の中で思考力を鍛える

新しい学力観の下で、思考力を鍛えることの必要性への認識はますます高まってきています。なかなかすっきりした定義が難しい「思考力」ですが、「分析的な思考力」と「統合的な思考力」に大きく分けて考えるようにするとストンと落ちることが多いように思います。 分析的な思考力 与えられた問題を分析的に理解する力 統合的な思考力 複数の情報を統合して新しい考えに編む力 テクストを読んで理解したうえで、その中に問いを…

入試問題を授業の教材に使うときに

新課程への移行に先駆け、新しい学力観を取り入れた出題も、意欲的な大学・学部では既に見られるようになっています。いよいよ新テストも始まりますので、これから暫くは、大学入試問題ウォッチに例年以上の力を入れて、新しい学力観の下での学ばせ方を模索しましょう。出題研究を通して”問い方”を学ぶ ことは、先生方ご自身の持つ学力観を更新するのに代えがたい機会のひとつですし、「問いの立て方と…

どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる

どんな問いを立てて教室に持ち込むかは、授業の成否を分ける最大のポイントだと思います。拙稿「学習目標は解くべき課題で示す」で申し上げた通り、「問い」は学習者にとって取り組むべき課題そのものです。従来は「導いた結論が何か」が問いの主流でしたが、高大接続改革以降、どうやってその結論を導くかが問いになるシーンも見かけることが珍しくありません。問いのあり方、問いを軸に授業をデザインするかについて発想とスキル…

質問に答えて不明を解消してあげる前にやるべきこと

生徒が問題演習を行ったり、実験や話し合いに取り組んでいたりするときに、先生方が机間指導をしながら生徒の質問に答えるシーンは日々の授業で頻繁に見かけるものです。わからないことがあったら訊くようにと声をかけ、出てきた質問のひとつひとつに丁寧に答えていくのは、親身になって生徒を指導している姿そのものにも見えますが、よくよく考えてみると、「質問に丁寧に答える」という対処だけでは様々な問題があるようにも思え…

学習内容が同じでもアプローチによって学びの質は異なる

生徒にとって新しい単元を学ぶのは、歩いたことのない道を歩き、訪ねたことのない目的地を目指すようなもの。歩き方にも色々とあります。以下の3つのシチュエーションを思い浮かべてみてください。 先導する先生にくっついて、先生が決めたルートをただ歩く。 ゴールまで歩き終えたら、通ってきた道を地図上で確認する。 事前にゴールまでのルートを考え、地図で確認しながら歩く。 次回のチャレンジでもちゃんとゴールに辿り…

リモート学習で「答えが一つに決まらない問題」を扱う

答えが一つに決まらない問題は、生徒が社会に出て多々直面するものであり、教室の中でもそれらへのアプローチを学ばせる必要があるのは明らかです。解内在型の問いがメインだった従来の教科学習では、立場によって賛否が分かれる問題や解法が未確立の問題を扱うのはどちらかと言えばレアでしたが、今後は教室で扱うケースも増えていくはずです。様々な見方で問題の把握を試み、原因や解決策を考えていくことになりますが、そこで欠…

〇〇的な(教科・科目に固有の)考え方、ものの見方

教科・科目に固有の考え方を理解させ、それに基づき物事を正しい見方で捉えられるようにさせることは、教科・科目を学ばせる最大の目的のひとつだと思いますし、そうなれたとの実感は生徒がその先に学びを進めていく上で大きな動機になると思います。科目への自己効力感も高め、興味も大きく広げさせるでしょうし、今まで興味を持つことがなかったことに面白みを感じ、関心を向けられるようになったら、そこから先の成長には大きな…

PISAが測定する「読解力」

国立教育政策研究所から『OECD生徒の学習到達度調査2018年調査』の結果 が発表され、テレビや新聞では「数学や科学は上位をキープしたが読解力で大きく順位を下げた」と大きく報じられています。結果はたしかにショッキングなものかもしれませんが、騒いでいるだけでは問題の正体を見失うような気がいたします。 ❏ 測定する能力に新たに加えられた2項目 同研究所のホームページに掲載されている「OECD生徒の学習…