学力差、苦手意識への対応

不要な苦手意識を抱かせない(前編)

小学校入学以来の学びの経験の中で、苦手意識を膨らませてしまっている生徒は少なくありません。中には、実際には成績も悪くないし、授業には問題なくついて来られるのに、その科目が得意か苦手かと訊かれると「苦手」と答える生徒も思いのほか多くいます。苦手意識を抱えたままでは、与えられたことを超えて積極的に挑もうとする意欲を持てなかったり、少しでもわからないことがあるとそこで立ち止まってしまったりします。学びを…

苦手意識を抑えて、伸びている実感を持たせる

授業を受ける中で「学力や技能の向上」「自分の成長や進歩」を実感できている生徒は、高い確率でその科目に新たな興味や関心を見出していくというデータがあります。逆に、伸びている実感が得られなければ、その科目を学び続ける意欲を維持するのは容易ではありません。教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させることができる授業、学びの成果や伸びている実感を持てる授業こそが、実現を目指すべき「良い授業」の姿の一つだと…

難易度をどう考え、どのように調整するか #INDEX

教材や課題の難易度をどのように設定するかは、生徒の学力分布だけを見て決めるものではありません。同じ負荷をかけていても、生徒が感じている得意/苦手の意識や、授業を通じた学力伸長の手応えを把握しながら調整を行う必要があります。得意/苦手という意識においても、授業内での学習者活動や、それまでの指導で形成してきたレディネスによって生徒の感じ方が変わります。模擬試験の成績や進路希望の分布だけを見て、そのクラ…

苦手意識が膨らんでしまったら(その3)

前学期までの学習で、学習を通じた成果を感じ取れなくなり、苦手意識が芽生えているということは“認知の網”がしっかりと張れていないことを意味します。 新しいことを理解するには、その情報を過去の経験や既得知識と結びつけることが欠かせません。結びつける先を持たない情報は、認識を通過してしまい記憶に残らないからです。 「認知の網」が張られていなかったり密度が足りなかったりする領域では、知識の獲得や理解の形成…

苦手意識が膨らんでしまったら(その2)

新しい単元に進むとき、もしそれまでに生徒の側で苦手意識を持ってしまっていたり、学力の向上を感じ取りにくくなっていたりしたら、次に進むレディネスが整っていないことを前提とした指導を設計しなければなりません。 これをやれば大丈夫という“万能薬”はありません。いくつかの対策を複合的に講じることが大切です。 もちろん、こうした対策にはそれなりの時間を投じる必要がありますので、順調に勉強を重ねてきた生徒の足…

苦手意識が膨らんでしまったら(その1)

苦手意識を抱えていたり、学力向上感が希薄だったりする場合、授業への消極的な取り組みを続けてきた結果、これまで学んできたことがらへの習熟が不十分であることは十分に想定されます。 そのまま単元を進めてしまっては、次の学習目標の一つ一つをクリアしていくことが加速度的に難しくなるのは、当然ながら予想されることです。 実際に、授業評価アンケートの結果を見ていると、前学期に苦手意識が膨らんでいると、次のターム…

負荷調整は、得意/苦手の分布を見極めて

“その科目が得意か苦手か”――生徒自身に意識によって、負荷(課題の難易度など)に耐えられる力が異なります。得意と考える生徒は、チャレンジングな課題を与えられた方がより強固な手応えを感じ取り、苦手な生徒はちょっと難しいと感じただけでも諦めてしまうと考えれば、無理からぬことと思えます。実際のデータを見ても、以下の通りです。 ● この科目が「得意」「やや得意」と答えた生徒の評価 ● この科目が「苦手」「…

活動性を高めて苦手意識を抑える

討論や練習、作業などの活動を通じて生徒が充足感を得ているクラスほど難しい課題にチャレンジさせても苦手意識を作らせにくいようです。課題や授業内容を難しくしていくと生徒の意識は「得意」から「苦手」にシフトしていくのが普通ですが、生徒自身が能動的に学びに関わる場面を作ることで、苦手意識の発生を遅らせることが出来そうです。 ❏ 活動性が高ければ、難易度を上げても苦手に振れない 上のグラフは、同じ質問を採用…

高意欲群に訴求し、低意欲群も支える授業(その2)

クラス内で学習意欲の差が大きくなると、どの層をターゲットにするか判断が難しくなるというのは日常的な感覚です。しかしながら、前記事でデータをご紹介した通り、高意欲群に生徒に対して十分な学習成果をもたらしつつ、学習に取り組む“自分の理由”があいまい(=自分なりの目標や課題をもって授業に取り組んでいない)生徒にも、しっかりと学びの成果を上げている授業があります。 その一方で、高意欲群に対する効果が同水準…

高意欲群に訴求し、低意欲群も支える授業

あなたは、自分なりの課題や目的意識をもってこの授業に取り組んでいますか――この質問にYESと答えた生徒には、きちんと学力向上感を与えてあげなくてはいけませんが、かといってNOと答えた生徒を放っておいて良いという話でもありません。 下図は、生徒本人の目的意識(≒学習意欲)の強弱により、学力や技能の向上を感じたかどうかを尋ねる項目での評価がどのように違うかを調べてみたものです。調査対象としたのは280…

習熟度別クラスと考査共通問題 INDEX

先日行われた、代々木ゼミナール教育総研主催の教員研修セミナー「授業法研究ワンデイ特別セミナー」では概説講義を担当いたしました。年度末のご多用の中、多くの先生方にご参加をいただきましたこと改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。講義のテーマに取り上げたのは、「学力差を活かした指導授業~積極的な学習参加を促すために~」です。その中で、習熟度別クラスでの定期考査のあり方についても少しですが触れ…

習熟度別クラスと考査共通問題(その3)

定期考査を共通問題で行い、優良差分から指導知見を抽出し、それを共有していくことが学校全体での指導力を高めていくことになります。今回は、習熟度別クラス編成を採った場合の共通問題のあり方と、その結果をどのように利用すべきか、シリーズ冒頭で提起したままになっていた問題に対し、考えるところをまとめて締めくくりとします。 ❏ 考査問題を2部構成に 考査問題を作成するとき、「知識・技能」を主に測定するAパート…

習熟度別クラスと考査共通問題(その2)

習熟度別クラス編成では、進度差は設けず、単元ごとの学びの深め方で差をつけていくのが好適であるというのが、前回の主旨です。成績上位の生徒が集まるクラスでは、「思考」や「表現」の要素を多く取り入れ、既習内容の習熟に不安があるクラスでは、集団知で課題に挑ませるなど、状況に応じた学習を設計しましょう。今回は、定期考査を学年共通問題で行うことの必要性について、一緒に考えていただこうと思います。 ❏ 共通問題…

習熟度別クラスと考査共通問題(その1)

習熟度別にクラスを編成/展開する場合、考査問題を共通にするか、別にするかは悩みどころです。共通問題とした場合、上位で点差がつきにくくなったり、下位で低得点に集中したり何かと問題が生じます。別問題にすると、今度はクラス間の比較ができないだけでなく、指導上の改善課題も見えにくくなるなど、こちらもスムーズに行きません。こうした問題への解決策を探ってみる前に、まずは、前提となる「習熟度別クラス」の運用方法…