前稿「授業評価アンケートの集計結果を相対的にみる」でも少し触れましたが、Ⅴ活用機会やⅥ対話協働は、教室でどのような「学ばせ方」がなされているかを集計結果から推測できる項目です。
活用機会:習ったことをもとに考える機会が課題などで整っている
対話協働:話し合いなどの協働で気づきや学びの深まりが得られる
これらの項目で、校種間あるいは学年間の差が大きくなっている(円滑な接続がなされていない)箇所では、学び方の急激な変化による躓きが多くなることが予想されます。
それまでは習ったことを覚えるだけで良かったのに、急にそれらを「生きて働かせること」を求められるようになったり、以前はわからないことがあっても話し合いなどで解消できたし、発想や気づきの交換もできたのに、進級後は突然、先生の話を聞くだけになったりしたら…。
対応のすべを身につけていない(そうしたチャンスも与えられていなかった)生徒は、戸惑うばかりではないでしょうか。
下図は、様々な学校(中高一貫を抽出)のデータをマージして作成しました。マージによって「段差」は各校における実際よりも小さくなっていますが、それでも学年を跨いで箱の位置のズレが随所に見られます。
学年内でも担当の先生が複数いる場合、前年は箱の上端を超える授業を受けていたのに、進級後は箱の下端に近いところに置かれるかも。
変化による戸惑いから生じる躓きが小さなものなら、それを乗り越えることでの学習者としての成長も見込めますが、乗り越えられないほどの大きさでは、科目への自己効力感を失わせてしまうかもしれません。
❏ 段差を小さく、学びの接続を円滑にするために
如上の箱ひげ図における「学年教科間の段差」を小さくしていくには、まずは何といっても、学年教科内の優れた実践を共有することです。
各学年教科の中で、上側のひげに含まれる授業での工夫などを、改善が遅れた授業に取り込んでいければ、自ずと箱の下端は上側に移動するため、下方が伸びたことによって生じている隣接学年とのギャップは縮小に向かいます。
例えば、上のグラフで、Ⅴ活用機会における社会/地歴公民は箱の位置がかなり低めですが、箱の上端は80ポイントを超えるところにありますので、中央値未満の授業がこの水準までキャッチアップするだけで、段差はほぼ解消されます。
また、実際の学校別のデータでは、こうした「優良実践」が学年教科内に見つからない場合もありますが、そうしたときは、優れた実践を探す先を隣接学年まで広げてみるのが好適です。
❏ 何より大切なのは、高い評価を得た先生方からの発信
優れた実践を教科内で共有するといっても、改善が遅れた先生の側からできることは限られてしまいます。
校内の授業をあちこち見て回っても、どの授業が高い評価を得て、成果を出しているかわからない以上、その努力は効率的とは言えません。
インパクトのある方法に出会ったとしても、それが本当に有益であるとは限らず、成果の確定していない試行錯誤の途上かもしれません。仮に本当に効果的な手法も、表面的な模倣では同じ成果になりません。
優良実践の共有で鍵になるのは、高い評価を得た授業を担当している先生からの「意図と具体的な工夫の発信」(実践報告)です。
自分の実践を伝えることで、隣接学年の授業が変われば、日々の授業で意図していることが、前後の学年の指導と相まってさらに大きな成果を結ぶことにもなるでしょうし、特に下の学年での指導が変われば、ご自身の授業もよりやりやすくなるはずです。
❏ 新課程が求める学びが実現すれば、箱は短く高い位置に
先生方がそれぞれに持つ強みや、積み重ねてきた工夫が共有されれば、箱の下端は高く、下方のひげは短くなるはずです。
実際のデータでグラフを描いてみると、そうした進歩もまさに目で見えるものになります。
箱がより短くなり(=学年教科内での授業間の差が縮小)、高い位置で教科内の箱が揃うようになったら、それは「新課程が求める学び」が学校全体で実現に向かっていることを示唆します。
授業改善は、先生方が個々に取り組むべき課題であるのは間違いありませんが、先生方の協働と連携で教科/学校全体での学びが、3年間/6年間の見通しの中で段階を踏みつつ、適切に配列されれば、生徒が享受するメリットはさらに大きなものになります。
❏ 難易度などの「負荷の大きさ」にも段階性を
Ⅴ活用機会とⅥ対話協働は、どのような学ばせ方をしているか(=授業デザイン)を示す指標として、集計値にあまり大きな変動が起きない方が良いと申し上げてきましたが、同じことはⅧ難易度にも言えます。
前稿でも申し上げた通り、このシリーズで用いているデータは、長年に亘り授業評価アンケートをご利用いただいている学校のものですので、すでに改善や調整がかなりのところまで進んでいますが、まだ箱がきれいに整列した、という状態ばかりではありません。
選択科目の履修がメインになる、高校3年では、苦手な生徒は履修していないことに加え、学習方策や目的意識が高まっていることもあって、生徒は難易度[負荷]を軽く感じるようになるケースがあります。
また、学習内容が難しくなるタイミングには各教科に固有のものがありますが、内容が高度化してからの対応では後手を踏みます。
そこに至るまでの指導で、学び方への習熟が十分に図れていれば、実際には同じ負荷を掛けても、生徒は過剰な負荷を感じることなく、学びはよりスムーズなものになるはずです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一