これまで(=新課程への移行前)に教育活動の一環として「地域連携」に力を入れてきた学校では、新たに始まる「総合的な探究の時間」でも引き続き「地域課題」に取り組ませることが多いかと思います。
長きに亘り築いてきた地域との関係は大いに生かすべきであろうと思いますし、学校が教育目標として「地域課題に向き合える人材の育成」を掲げてきたのであれば、急に旗を降ろすわけにはいかないはずです。
地域課題の解決を「ターゲット」に、体験と実践を伴った探究的な学びをデザインすることで、地域連携と探究活動の一体化を図りましょう。
❏ 地域連携に探究活動の要素を組み込む
地域社会への生徒の「参加」に主眼を置いていた従来の地域連携では、ことさら「探究」の要素を意識して指導計画を組む必要はなかったかもしれません。
しかしながら、単に地域のイベントなどに参加して、パフォーマンスを披露したり、売店の運営などを手伝ったりといった、これまで多く見られた体験活動のままでは「探究」の要素を十分に組み込めず、教育活動全体では単純な「足し算」になってしまいます。
新課程への移行で「総合的な探究の時間」を設定する以上、地域連携と探究活動を併存させるのでは、教育リソースの枯渇は避けられません。
両者を一体のものとしてデザインし直すことで、教育活動全体をできるだけコンパクトなものにまとめる必要があるはずです。
本稿でご紹介するのは、地域課題の解決をターゲットに、体験と探究を組み合わせたプログラム作りのアイデアの一つに過ぎませんが、要所に込めた意図を汲み取っていただければ幸甚に存じます。
❏ 先ずは地域社会が抱える課題を知るところから
地域課題の解決をターゲットにするからには、地域が抱えている課題を正しく知るところからのスタートになるのは当然です。この段階から、これまでに培ってきた地域との関係性は有益に働くはずです。
先輩学年が参加してきた地域イベントを主催していた自治会や商工会との繋がりもできているでしょうし、自治体の地域振興担当部署との接点も持っているのではないでしょうか。
これまでの体験学習の中で、特産物を活かした商品作りなどを先輩学年が経験していれば、農家の方や職人の方との関係もあるはずです。
こうした方々の生の声を聞くことや、現地で実際に体験してみることをスキップして(端折って)は、課題の把握も表層的なところに止まり、課題の発見/解くべき問いの設定を誤るリスクが大です。
地域の方のお話を一方的に聞くのではなく、対話(対面でもオンラインでも)の中で疑問をぶつけ、より深く知ることが、生徒にとっての自分事としての課題の発見につながるのではないでしょうか。
ちなみに、「斜めの関係」にある人と話をすること/活動すること自体が生徒にとってコミュニケーション能力の向上を図る好機になります。
❏ 知ったことを起点に、より広く深く調べる
地域の方の話を聞くことは、地域課題をリアリティを持って知るきっかけになりますが、そこで学びを止めては「ただ話を聞いただけ」です。
聞いて知ったことを起点に、自力で/協働でさらに情報を集め、地域をより広く、深く知ることに挑ませましょう。
地域の図書館を訪ねれば、地域の歴史や文化についての(一般の書店には並ばないような)ディープな書籍にも出会えるでしょうし、ネットを活用すれば、他の地域でも同じような問題はないか、どんなアプローチでそれらの解決が図られているのかも調べられるはずです。
生徒一人ひとりに取り組ませるだけでは、調べられるところは限られますし、どの生徒も似たような情報しか拾えないかもしれません。
個々の生徒/グループごとに役割(調べること)を分担して取り組ませて、その結果を持ち寄らせるのが好適です。いわゆるジグソー法です。
クラスを大きく幾つかのグループに分けて、各グループの中でさらに役割分担をすれば、グループ間の競争で取り組みも活発化するかもしれませんし、それぞれが得た情報を共有することで、クラス全体が得る知識や理解は、広さも深さもぐんと大きなものになるはずです。
❏ 調べ学習に取り組ませるフェイズでの「ねらい」
この調べ活動を通し、情報を集めて知に編む力も養われるでしょうし、信頼できるソースを見つけてアプローチする姿勢と方法も実践を通じて学んでいけるはずです。
調べた結果をプレゼンテーションにまとめる中では、他者の理解を得られるように表現する力も身についていきます。
あれこれと調べていけば、矛盾する情報を見つけることもあるでしょうが、そこでの対処もまた、学ぶべきことの一つです。
当然ながら、これらの「ねらい」が十分に達成されるには、指導に当たる先生方の適切なガイドが欠かせません。
また、すべての教科の学習指導の中でも「鍛錬と評価の機会」を積極的に作りだしていかないと、単位数の限られる総合的な探究の時間だけでは、十分な成果は得られないと思います。
❏ 調べ終えたところが、探究活動の入り口
調べ学習と探究活動の境界は、別稿でも書いた通り、「問題の捉え方」や「課題の解決法」といった新たな知を生みだしたり、当事者としての課題への関わりを持つところにあります。
同じモノ/コトについて地域の方の話を聞いても、それぞれの立場で違う捉え方をしているでしょうから、それらを統合して新しい別の見方で捉え直すことができれば、「新たな知」を作ったことになります。
また、調べ学習を通して把握した地域課題に解決策を考え出すことは、新たな知の創造にほかなりませんし、解決に向けて当事者として関わる意識は、「社会参画力」「持続可能な未来への責任」そのものです。
解決策を練り上げていくこのフェイズでも、地域の方との接触は絶やさないようにしたいところ。生徒の活動時間と地域の方が割ける時間が合致しない場合、遠方で行き来が難しい場合でも、Slack などのチャットツールを活用するなど、障害を取り除くすべは色々あるはずです。
❏ 考え尽くしたことへの地域の方からのフィードバック
生徒が思案を尽くして作り上げた「解決策」には、見落としていることもあるはずですので、地域の方々にプレゼンをして、フィードバックをもらうことが、解決策のブラッシュアップに欠かせません。
また、解決策も実行に必要なリソースを得なければ「絵に描いた餅」ですから、地域にあるヒト・モノがどう活用できるか、カネをどうするかなども、地域の人と一緒に考えてみる必要があるはずです。
考えた解決策を試行に移してみるときにも、生徒だけではどうにもならないところも多いはず。地域の方の協力は不可欠です。
ここまで踏み込むことができれば、解決策もリアリティを持ち、当事者として関わる意欲や覚悟も生まれ、総合的な探究の時間が目指すところ(自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成する)にも大きく近づけるはずです。
また、成果発表会などに地域の方を講評者・助言者としてお招きして、助言や質問をしてもらうのも、生徒にとっては大きな刺激になります。
学校の先生方とは違ったコメントももらえるでしょうし、何より「自分たちが考え出した解決策の実現に協力してくれる可能性のある方々に、思いや考えを伝える機会」ですから、気合いも入ろうというものです。
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追記: 地域経済分析システムRESASのWEBサイトでは、人口、地域経済循環、産業構造、企業活動、消費、観光、まちづくり、医療・福祉、地方財政の各マップのほか、様々な授業モデルが参照できます。
便利なツールはどんどん活用すべきですし、自校のプログラムを考えるにも、ゼロから起案するより先行例を参考により良いものを作り上げていく方が効率的&建設的です。先端研究で得られた知見を活かして授業改善を図りましょう。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一