探究活動の指導を行うときに頭を悩ませるのは、生徒の活動にどこまで介入するかです。とりわけ、生徒の取り組みや成果を、中間段階でどう評価・フィードバックするかで困る、とのお声は少なくありません。
生徒の探究テーマと先生方ご自身の専門領域が大きく異なると、内容や探究方法に助言を行うことへの躊躇や不安も生じがちですが、「専門外の助言はできない」との結論に向かうのはやや拙速な感じがします。
生徒と一緒に(同じ目線で)、現時点までに分かっていることや生徒が考えてきたことの中に、問い(あるいはその前身である「違和感」)を見つけて、言葉にして伝えてみるだけでも、生徒の探究に新たな方向や足掛かりを見出すための「踏み台」は与えられるはずです。
❏ 探究活動における先生方(指導者)の役割
大学のゼミ(卒論指導)とは違い、高校の探究活動における指導者の役割は、「専門性(知識)」を必ずしも前提としません。先生方の専門はそもそも「教科(あるいは科目)」ですので、その枠から超えたところで義務のようなものを課されるのは「道理」にも合わないはずです。
問われるのは、内容の知識ではなく、問いと方法を点検する視点です。
高校の探究活動は、身の回り/社会にある問題を見つけ、その解決策を考える(或いは仕組みを解明する)ことで、より良い社会を作り出していく方法と姿勢を学ぶことが目的であり、本質でしょう。
この観点からみても、先生方が「答え(正解)を持っていること」は、探究活動の指導に当たる上での必須要件ではありません。
生徒が疑問を見つけ、周辺を含めて調べ、解き明かすべき問いを具体化していく工程に寄り添い、生徒が立ち止まってしまったときに、次に踏み出すべき方向や、足掛かりを一緒に探せば、役割は果たせています。
そんな場面で積極的に活用したいのは生成AIです。AIはときに平気でウソ(尤もらしいだけで、根拠を欠く回答)を出力しますが、「未検証の仮説」を示しているだけと捉えれば、次にどう考えていくか、何を調べてみるべきかを見つける上では十分なヒントが得られます。
実際の場面(例)
ある生徒が、「幕末と戦後は民衆意識が大きく変わった時代だとされている。そこで、当時の狂歌や新聞の投稿欄に表れた内容を手がかりに、その変化を探りたい」と考え、資料を集めてきたとします。
着眼点としては興味深く、本人なりに筋道も立てています。しかし、そのまま読み進めていくと、狂歌や投稿に見られる表現から、当時の「民衆意識」を直接的に言い切ろうとしている箇所に、どこか引っ掛かりを覚えます。取り上げられている資料が限られていることや、掲載される段階での選別の影響などが十分に検討されていないようにも見えます。
どう「突っ込み」を入れて、方向修正させるかは、中々の難題。「それでは民衆意識は分からない」と切ってしまえば、この探究はそこで止まってしまいます。その代わりに、「その仮説で上手くいきそうか、AIに訊いてみようか」というのはどうでしょう。
以下は、この場面を想定して作ったプロンプトと、それに対するAIの出力です。AIの使い方を生徒に学ばせるにも好機になり得ます。
プロンプト: 「幕末と戦後は民衆意識が大きく変わった時代だとされている。そこで、当時の狂歌や新聞の投稿欄に表れた内容を手がかりに、その変化を探りたい」と生徒が言ってきた。研究方策を俯瞰して見直す(修正する)ために必要な提案を、生成AIから受け取るためのプロンプトを考えて。
AIの出力(回答=プロンプト例): 以下の探究計画について、研究方策の妥当性を点検し、必要な見直し案を提示してください。
【探究テーマ】
「幕末と戦後は民衆意識が大きく変わった時代だとされている。そこで、当時の狂歌や新聞の投稿欄に表れた内容を手がかりに、その変化を探りたい」
【求める検討内容】
① この研究方策に含まれる前提や仮定を整理せよ
② 方法上の課題・限界(資料の偏り、選別、一般化の妥当性など)を具体的に指摘せよ
③ この方法で「言えること」と「言えないこと」を区別せよ
④ 探究の方向性を活かしつつ、問いの立て方や対象の設定をどのように調整すればよいか提案せよ
【条件】
・結論を断定するのではなく、検討の視点を提示すること
・もとの発想の価値を損なわずに、改善の方向を示すこと
ここでやろうとしているのは、「現時点までに考えてきたことを、言語化して(=プロンプトを起こして)外在化し、そこに大規模言語モデルに照らした批評を受ける」ということ。AIを「答えを得る道具」ではなく、「思考の壁打の相手」として活用しよう、との趣旨です。
AIが示した「プロンプト例」を実際に、ChatGPT、Gemini、Copilotに与えてみたところ、表現の違いこそあれ、前提の可視化、資料バイアス、一般化の限界、問いの絞り込みなど「基本部分」は同じでした。
適切なプロンプトを与えれば、検討材料として信頼できる回答が得られるといって差し支えなさそうです。指導の中で、AIの出力を先生と生徒が一緒に吟味するのであれば、誤誘導されるリスクも抑えられます。
❏ フェイズごとの評価もルーブリックを読み込ませて
探究活動(総合的な探究の時間)は、限られた活動機会に一つのテーマを追っていきますので、先でのやり直しや「次の機会で再チャレンジ」が、各教科の学習に比べて、やりにくい構造にあります。
各フェイズで取り組ませることは、その都度しっかりと評価し、不足を補わせていく必要があります。きちんと手順を踏んで探究を進めているか、フェイズごとに目指すところに到達しているかを、ルーブリックで規定しておくとともに、評価も確実に行いたいところです。
そのときにも、AIは作業量の抑制や、見落としの防止、観点の整理などに寄与するはずです。ルーブリックを読み込ませて、フェイズごとに整えた生徒の成果物のどこに不足があるかを推定させましょう。
ただし、AIによる出力(評価結果)を鵜呑みにしては、その「ウソ」に騙されるリスクを抱えます。先生方の見立てとのすり合わせは不可欠です。判断に迷ったときは、周囲の先生方とも相談してみるべきです。
追記: 巷では「探究公害」(この言い方も相当に「失礼」ですが)という言葉が使われることも。大学教員の専門性を探究指導を進める上での拠り所にする傾向が行き過ぎてきた感も、否定できません。
対応する側(大学)の体力や時間にも自ずと限界があります。こうした状況下では、高校の指導の現場でAIを上手に活用することが、探究活動の「持続可能性」を維持するために有効な手立てになり得ます。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
