「仮の答え」とは、本時/単元で設定した「ターゲット設問」に対し、学習を本格的に始める前の段階で、生徒がその時点で持ち合わせている知識・経験・発想を総動員して作る「未完成の答え」です。
これによって「どこまで理解しているか」「どこに不明や誤解があるか/何が不足しているか」といった、学びの初期値を測定することができます。初期値の把握は、その後の学びを正しく設計する前提です。
また、問いを与えられ、答えを作ろうとする過程で、生徒は自らの中にある不明の所在に気づきます。この「わかっていないことの自覚」が、その後の説明・対話・調査・思考を受け止める準備となり、インプットにとどまらない学び(インテイク)へと接続されていきます。
さらに、仮の答えを消さず、ノート/ワークシート上に記録しておくことで、学習後に仕上げ直した答えとの比較が可能になります。両者の差分こそが、その学びを通して生じた変化=学びの成果です。
必要とされる背景
学び始める段階で「仮の答え」を作らせてみないと、生徒がどこまで理解しているのか、どこに誤解や不足があるのかが把握できません。授業が始まった後で、前提理解の欠落に気づくと、活動の流れを止めて補足する必要が生じ、授業設計の前提が崩れます(26780)。
生徒の側で「受けとめる準備」が整わないと、どんなに工夫した説明も正しい理解形成に繋がらないことがあります。問い掛けて、考えさせ、不明の所在に気づかせてこそ、それを解明したい欲求(=学ぶことへの自分の理由)が生まれ、認知の網が張られます(2042、2567)。
学びの成果(学習を経た自分の進歩、思考の更新など)を、生徒は必ずしも正しく把握していません。進捗と改善課題を捉えた学びを実現し、科目学習への自己効力感を高めるためにも、学習の前と後でどんな答えが導けたかを比較できる「材料」が必要です(2301)。
実践の場での使い方
1.導入で「仮の答え」を書かせ、学習の初期状態を可視化する
学びの初期値を計測~授業デザインと効果測定のためにでは、授業冒頭でターゲット設問を提示し、説明を始める前に生徒に自分の考えを書かせることを提案しました。生徒がどんな答えを書けたかを観察することで、「理解している範囲」や「誤解や不明の分布」を把握できます。
2.不明の所在を自覚させ、その解消に向けて欲求を刺激する
導入フェイズで仮の答えを作らせることの効果で書いた通り、仮の答えを作る過程で、生徒は理解の不足や、情報の欠落に気づきます。わからないと思えば、わかりたい/知りたいと思うのが本能。問いで作った不明解消の欲求を、学びへのエネルギーにさせていきましょう。
3.予習の指示の代わりに、問いを与えて学びに焦点を持たせる
予復習に課すタスクで”教室の学び”を最適化では、予習指示にも「答えを導くべき問い」を添えることの必要性を伝えました。学習範囲を指定するだけでは、何をやるかもわからない生徒もいます。具体的な問いを与えることで、それに沿って情報を集め、知に編む行動が促されます。
4.学習後に答えを作り直させ、差分で学びの成果を確認する
最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果では、授業を終える際に、学んだことを振り返って答えを仕上げさせることを提案しました。聞き、調べ、考え、話し合ったことを組み込めば、答えは自ずと磨かれます。完成した答えと「仮の答え」の違いに、学びの成果が現れます。
追記: 仮の答えを作らせることを習慣化していくと、学び終えてから仕上げ直すものとの捉え方も定着します。「最初から正解(完成度の高い答え)」を作らずとも良いと考えるのは「安心感」にも繋がります。生徒の意識は、本時の学びの中でどれだけ知識と思考を積み上げられるかという「挑戦」の方向に変化する副次的効果も期待できそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
