進学実績にしろ、模擬試験や外部検定の成績にしろ、あるいは授業評価や学校評価のアンケートにしろ、成果が出たときの行動こそが重要だと思います。結果を受けた振り返りというと、どうしても課題/反省点の洗い出しに意識が向きがちですが、成果をあげた好適な取り組みにも、しっかりとスポットライトを当てましょう。
失敗に原因があるのと同様に、成功にもそれをもたらした要因があります。それをきちんと分析的に捉え、共有と継承ができる形に「言語化」しておくとともに、実践の記録をきちんと残すことが大切です。
ある学年で大きな成績伸長があったのにも拘わらず、1年後に次の学年が同じ局面を迎えて、前年度に続くような進歩が見て取れなかったり、成績にも低下がみられたりするようであれば、前年度までの指導の中で作り上げられていたノウハウが生かされなかったということです。
2019/08/08 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 成果を得た指導法はきちんと共有・継承しているか
授業評価アンケートの集計結果を見ていると、一つ上の学年の1年前の結果を大きく下回るケースが少なからず見られます。
担当の先生が変わったから、という理由付けで事をすませてしまうことも少なくないようですが、本当にそれでいいのでしょうか。
例えば、授業評価アンケートでは「授業で学んだこと(=獲得した知識や理解)を用いて考える(=課題の解決に挑戦する)機会があるか」という質問に答えてもらう項目があります。
この項目は、先生方の側からすれば、「どんな問いを用意して、生徒にどう取り組ませるか」という「材料と手順の問題」であり、ノウハウの継承はそれほど難しいものではないはずです。
しかしながら、実際のデータでは、前年度の評価を有意に下回るケースが散見されます。(もちろん、改善が積み重なることが多いですが…)
別稿「授業で使った教材・課題や考査問題の引き継ぎ」で書いたように教室に持ち込んで手応えがあった問いをきちんと保管・継承するようにしてさえいれば、翌年はその先に更なる工夫を重ねられるため、少なくとも大きく崩れることはなかったはずです。
理解確認の方法や、学習目標を把握させる手順なども、継承が比較的容易な事柄ですし、対話などの授業内活動の作り方にしても手順/プロシージャ―と各フェイズの注意点などを言語化して次学年に伝えることはそれほど難しくありません。
❏ 前年度までの試行の結果を踏まえてこその継続的改善
毎年、ご担当される先生方がそれぞれに知恵を絞り、最善と考える指導を作り上げていくことの必要性は疑う余地もありませんが、前年度までの成果を活かさないのでは、あまりにも勿体ないと思います。
過年度の成果を踏まえて、その先に新しい発想や工夫を加えることは、まさに「巨人の肩の上に立つ」ことにほかなりません。
これを怠れば、見渡せる水平はいつまでたっても広がりませんし、教科学習指導の技術に不断の発展は期待できなくなります。
前年度までに同じ学年・同じ科目を担当された先生方が作り上げた成果を活かし、失敗から学び、同じ轍を踏まないようにすることは、そこで学んでいる生徒に対する誠意でもあると思います。
今の生徒に対して「より良い学び」を提供することは、先生方の責任ですし、試行錯誤に付き合ってくれた過年度の生徒に対しても、そこでの課題と成果が生かされないのでは申し訳ない気がします。
自校内だけでなく、全国で行われている先進的な研究で得られた知見にだって無関心でいることはできないはずです。
❏ 実践を伝えるログと成果を検証したデータ
日々の研鑽を積み、工夫を重ねて成果を得たら、それをきちんと記録に起こし、共有と継承を図りましょう。優れた指導法は、理解者・賛同者を増やして広く実践してもらってこそ、より大きな価値を持ちます。
このような工夫を採り入れた結果、こんな変化が観測されたという事実に加え、そのメカニズムを考察して、指導ログを残すことが大切です。
指導案と教材だけでは伝えきれない部分もあると思います。実際の指導の姿を伝える/記録するには授業動画の活用も好適です。
教科学習指導に限らず、生徒を指導するときの「方法の適性」は学び手が備えているものとのマッチングに左右されますので、事前の指導での仕込みで注力すべきことや、成果が見込めるかどうかの判断基準なども書き添えておきましょう。
しかしながら、そうした実践を文字に起こし、「実績」として並べ立てただけでは、理解者や賛同者が増えるわけではありません。
別稿「効果測定は、理解者と賛同者を増やすため」でも書いた通り、模試成績やアンケートの集計結果、ルーブリックで数値化できた生徒の行動や姿勢の変化といった「可視化された成果」を示せてこそ、説得力をもって実践を伝えられます。
新たな工夫を採り入れる前と採り入れた後の変化など、指導効果を定量的に把握できるよう、データを積み上げていくことが求められます。
当然ながら、学力観の変化に合わせて、効果測定の仕組み(考査や評価方法、アンケートの質問設計)などもアップデートが必要です。
特に今は、新課程への移行で先生方も新たなチャレンジに取り組んでおられます。「試してみること」も増えているはずであり、きちんと効果測定を行う必要は、これまで以上に大きいはずです。
なぜ事態が改善したか、理由がわからないことにはノウハウの継承どころではありません。意図しない因果が重なり合って思わぬ成功を手繰り寄せることは多々ありますが、そこにもきちんと理由は存在します。
仮説を立て、実践を重ねて検証ができれば、それは確立した知見となります。仮説通りにいかなければ、別の仮説を立てて検証するまでです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一