緊急事態宣言を受けて、休校措置が取られ対面での授業は行えない状況が続いています。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかる見込みが立たない中で、今の状況に暫くは耐えることになりそうです。
休校中も生徒の学びを止めさせないよう、生徒が自宅で取り組む課題を与えたり動画を配信したりと様々な努力が重ねられています。環境整備が先行していた学校ではテレビ会議システムを応用した双方向性の実現も図られていますが、如何せん、経験のない状況に指導は手探りの感が否めないところもあるのではないでしょうか。
手探り/思考錯誤を重ねる中だからこそ、指導が上首尾に進んでいるのか、成果を上げているのか、きちんと確かめる必要があります。指定した課題を生徒が期限を守ってきちんと提出してきたとしても、履行は確認できますが、成果が上がったかどうかは不明です。
答案や提出物はきちんと評価を行い、学習目標がどこまで達成できたか検証すべきですし、学びに取り組んでの生徒側の認識/意識もきちんと質しておかないと、教える側の独りよがりになるやもしれません。
リモート学習/自宅学習に取り組ませているときの「授業評価」について、質すべき事柄を整理し、質問文の案としてまとめてみました。実際の指導様式に合わせてアレンジが必要な場合もあろうかと存じますが、まずはご検討のベースとなれば幸いです。
Ⅰ 先生からの課題の指示(内容、範囲、期限)はわかりやすかった。
どの教材のどの範囲をいつまでに仕上げ、どうやって提出するのかに具体的な指示がなければ、生徒は計画的に学習を進められません。時間割がない状況ではなおのことです。評価の方法や基準も示しましょう。【課題の指示】
Ⅱ 学習方法や取り組み方は具体的に示され、戸惑わずに進められた。
課題が与えられただけで正しく取り組める生徒ばかりではありません。進め方に戸惑う生徒を想定し、教材にどう取り組むか、わからないことがあったときにどうするかモデルを提示するなど手引きが必要です。【ガイダンス】
Ⅲ 解説プリントや動画などは、学習を進めるのにとても役に立った。
学習課題を前にわからないことがあったときに何の助けもなければ先に進めません。生徒が自力で読んで理解できる解説教材などを用意しておきましょう。生徒からの質問とその応答をシェアするのも一手です。【解説教材】
Ⅳ 教材はしっかり理解できた/疑問点は解説教材などで解消できた。
指定された範囲を形の上で終えただけ、あるいはわからないまま覚えただけでは確かな学びは期待できません。きちんと理解できたか、解説教材が不明解消に十分な機能を果たしたかも把握しておくべきです。【着実な理解】
Ⅴ 目的意識や意欲をもって課題に最後まで取り組むことができた。
学びに目的意識を持たせ、学ぶ意欲を刺激するには、解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝えるのが最も効果的な方法です。この質問への回答は学ぶことへの自分の理由を作らせられたかを示します。【目的意識】
Ⅵ 教材で学んだことをもとに自力で答えを考える経験が十分できた。
問いを前に答えを考え、それを自力で見つけることができたという認識は、快体験として次の学びへのモチベーションを作ります。学んだことを用いた課題解決体験の場を用意するのは先生方のお仕事です。【知識の活用】
Ⅶ この科目を学んで、学力の向上や自分の進歩を実感できた。
この質問にYESで答えた生徒は、高い確率で科目への興味や学びへの意欲を高めます。授業評価を行う際の最重要項目であり、目的意識、活用機会、対話による気づきが大きく寄与することが分かっています。【学びの成果】
Ⅷ 勉強を経て、この科目の学び方が身についてきた/わかってきた。
主体的な学びを実現するのは意欲だけではありません。学びの方策をきちんと身につけることが欠かせません。単元内容を理解させながら、学び方を獲得させていくことが学習者としての自立に向かわせます。【学習法獲得】
Ⅸ 答案や提出物に対する先生からの講評や助言はとても有益だった。
生徒が作った答えへの先生からのフィードバックは、生徒にとって振り返りの貴重な材料です。振り返りを通し自らの取り組み/パフォーマンスに改善点を見つけてこそ、生徒は次に向けた目的意識を持ちます。【講評・助言】
Ⅹ 課題の難易度はあなたにとって、{難しすぎた~易しすぎた}
適切な難易度を維持することは、生徒の学力を伸ばす上で欠かせません。難しすぎてもいけませんが、生徒が「ちょうどよい」と答える水準では負荷の不足が疑われます。反応を確かめつつ調整を図りましょう。【課題難易度】
休校が長引く中、直接的に観察の機会が乏しくなる生徒の学びへの姿勢や意識を、アンケートなどの方法で把握することは、平時に増して重要です。これまでに実施してきた「教室内での授業」を前提とした評価項目や質問文をアレンジして、学習指導が適切か、効果を上げているかをしっかり把握するようにしましょう。
授業アンケートは、特別なシステムを用意していない学校でも、Googleフォームなどを用いれば生徒のタブレット/スマホから回答させることは十分に可能です。なお、当オフィスでもβ版ながらWEB版の授業評価アンケートを提供いたします。ご相談はこちらからお寄せください。
学校がお休みになっていることもあり、情報収集が十分ではありませんが、各地の学校で頑張る先生方にヒアリングのご協力をいただき、考えるところをまとめたのが、先日の拙稿です。
制約の多い中、生徒の学びを深く確かなものにするのに少しでもご参考となれば光栄です。
考えたくないことですが、今回のピンチと同じようなことは、疫病のみならず地震や台風といった自然災害で起き得ることです。この機に指導法の工夫を重ね、効果検証を経てしっかりとしたノウハウを確立できれば将来への大きな備えにもなるのではないでしょうか。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一