学力差からうける悪影響をできるだけ小さく抑えるには、以下の前各稿で申し上げた通り、
などのアプローチがありますが、これ以外の場面でも、「いかにして生徒一人ひとりの学習を止めないか」はとても重要です。生徒を指名して発言させるときや、実験の手順を説明するときなども注意しましょう。
学びが遅れていた生徒が手と頭を止めてしまっては、先行する生徒との差が開くばかりですし、自力で進める生徒に「待て」をかけては、到達できるはずのゴール(進路希望の実現など)が遠のいてしまいます。
2014/11/12 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 個別にケアする間に、他の生徒の活動を止めない
クラス内の学力差が拡大していると、集団としての指導より、個々の生徒に対するケアに意識と時間を投じることが多くなりますが、その間に他の生徒が活動を止めていないか、十分に注意したいものです。
指名した生徒が答えに詰まり、なんとか窮地を救ってあげようとヒントを出して考えるのを待っている間、他の生徒がそのやり取りを見守っているだけで、何もしていないことも少なくありません。
指名する前にきちんと観察して、発言させるべき生徒を探し当てておく必要があったはずです。わからないでいる生徒を指名しても、得るものは多くありません。
- 生徒を指名して発言させるとき(全5編)
何かの課題に取り組ませるときも、ある生徒の躓きを見つけてそのケアに先生の意識が向いている間に、目が届いていないところで他の生徒があちらこちらで躓いていたり、早々に解き終えてしまった生徒がやることもなくただ待っているのも、わりと良く見かける光景です。
課題や練習に取り組ませるときは、生徒間にはスピードの差があることを前提に、手空き時間に進めるべき追加の課題を与えておいたり、わからないことがあったら先生が回ってくるのを待たず、教科書や副教材、周りの生徒に尋ねることを習慣化させておくべきだったはずです。
❏ 指名した生徒に答えを板書させるときも
生徒を指名して黒板に答えを書かせ、答え合わせや公開添削を行うこともあると思いますが、ここにも同様のリスクが隠れています。
指名された生徒が黒板に向かい合っている間や、丸つけを経て次の段階に進んだときに、既習事項への習熟などが十分な生徒とそうでない生徒とは互いに異なる活動をしています。
この結果、学びの深さ・広さには新たな差が生じ、クラス内の学力差はさらに拡大していくことになります。
❏ 昔から馴染んだ方法も、効果と効率を疑ってみる
生徒一人ひとりが主体になれる場を教室の中に作ってあげたいという意図があるのかもしれませんが、昭和の時代から行われてきた方法が、本当に効果的なのか、代替策のないものなのか常に自問が必要です。
もし、目的とするところが、
- 生徒の答案に見られた優れた着想などをクラスで共有したい
- 生徒が陥りやすい間違いなどを添削を通じて示したい
というのであれば、他にもやり方はあるはずです。
例えば、事前に答案を提出させておき、先生が目を通した上で如上の目的にピッタリの答案をピックアップして、黒板やプロジェクタ、あるいはタブレットを介してシェアするようにすれば、生徒間の差を拡大するリスクのある如上の2フェイズを最小化できそうですよね。
黒板の前で固まられてしまっても、模範解答と寸分違わぬ答えを板書されても、学びを広げたり深めたりするのは大変になるばかりです。
❏ 不用意な“待て”が、伸びるチャンスを奪う
学力差の問題は、理解の遅い生徒がさらに立ち遅れることに目線が向きがちですが、理解の早い生徒の学習活動にブレーキをかけてしまうことがないようにすることにも十分な意識を向ける必要があります。
学びの成果は、瞬間ごとの積み上げですから、限りある授業時間の中に学びが積み上がらない「停滞」を生じさせては、卒業させるまでの学びの総量を小さくしてしまうばかりです。
何かの課題やタスクに取り組ませたいときに、やらせてみればできそうなのに、事前の説明を長々と続けてしまうことはないでしょうか。
実験や実習の場でも、手順を説明したプリントが配ってあり、どんどん読み進めさせればいいのに、読もうとするのを押し止めるように先生の説明を待たせているのを見かけることもしばしばです。
自力で読んで理解できる生徒にストップを掛けるだけでなく、読めない生徒からは「自力で読んで理解する力」を養う場を奪っていることになります。どちらの生徒にもメリットはありません。
❏ 先生が肩代わりしては、できることは増えない
授業者が常に意識すべきは、不用意な“待て”をかけないことです。
別稿「できない?やらない?やらせてない?」でも申し上げましたが、説明してあげないと生徒はわからない/できないと決めつけるのは、生徒の能力を低く見積もり過ぎではないでしょうか。
先ずはどんどんやらせてみましょう。タスクが与えられれば生徒はそれに対して様々な工夫を行い、学びに必要な方策を獲得していきます。
ちょっと乱暴に聞こえるかもしれませんが、ジョージ・パットンの言葉とされている「人にやり方を教えるな。何をすべきかを教えれば、人はその創意工夫で驚かせてくれる」は、学びが遅れがちな生徒に本当に必要な「学ぶ力の再構築」にも必要な発想です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一