クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その2)

前稿でご紹介したデータが示すように、クラス内にある程度の学力差があった方がクラス全体での学習成果の総量は大きくなるとはいえ、度を過ぎては弊害が大きくなるのもまた事実です。日々の授業で成果を一つひとつ着実に積み上げ、新たな差を作らないようにしたいものです。
日々の授業で成果を積み上げる上で問題となるのは、学力差ではなく前提知識の有無です。授業の成否を分けるのは、その科目の総合的な学力ではなく、その日の学習内容を理解するための前提たる、既習内容の理解が整っているかどうかです。
学力差がある程度まで拡大していたとしても、その日の授業をきちんと土台を整えて正しくデザインすれば、学びの成果は得られますし、既習内容の理解と定着における差も解消していくことができるはずです。

2014/11/07 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 学力差の解消より、学びの土台を揃えること

本時の学びの前提になる既習事項については、スタートラインをできるだけ揃えておくべきであることは言うまでもありません。
説明を聞かせるにしても、前提知識を欠いて新たな理解は積み上げられませんし、指示を出して何かをさせるにも、態勢が整っていなければ適切な反応は引き出せず、動いた結果も想定と違ったものになります。
ペアやグループでの話し合いで知識や発想の交換を図るにも、ベースとなる知識に生徒間の開きが大き過ぎると、議論がかみ合わなかったり、特定の生徒だけが活躍して周りはそれを眺めるだけになりがちです。
ちなみに、生徒ごとの知識の濃淡は、単元や学習内容によって異なるため、模試や考査の総合点で集団を分割してみたところで、「本時の学びの前提」を揃えたことになりません。

❏ 教室に入る前に持たせる、既習事項を学び直す機会

前年の授業で教えたときにはちゃんと理解してくれたという手応えがあったのに、改めて確認してみたら、理解や知識はおろか、学んだ記憶さえ消えかかっていることも少なくないようです。
きちんと学ばせていたとしても、その知識を使ってみる再記銘の機会がないまま半年、1年と時間が経過しては、記憶が保持できなかったり、想起できない状態になっていたとしても不思議ではありません。
どの単元を学ぶときでも土台となる既習内容の確認は導入フェイズで行っていると思いますが、以前に学んでから長い期間が経過している場合は、少し手厚く、復習の機会を整えておくのが好適です。
既習単元の内容に関するミニ実力テストを事前に課すのもお奨めです。
ただし、先生が採点して結果を返すだけでは、生徒は「覚えていなかった」という事実を認識するだけです。自ら再記銘や理解の再構成に取り組んでくれる保証はありません。
先生が採点する代わりに、生徒自身に教科書や副教材、自分のノートを参照させ、自己採点と間違い直しをさせましょう。一人でこの作業を完遂できない生徒もいるでしょうから、グループでの答え合わせをさせてもかまいませんが、あくまでも「個人ワークを経てから」が鉄則です。

❏ まとまった学び直しが必要なときは自主学習会

ミニ実力テストの自己採点結果を見て、ある程度まとまった学び直しが必要と判断されるときもあると思います。初出単元として学ばせたときの理解が浅かったり、欠けていたりすることもあるからです。
その場合には、既習単元の学び直しを目的とした補習を行うことになりますが、先生が講義で教え直すのではあまり効果は期待できません。
課題を与えて生徒に自力で答えを作らせるようにすれば、そこで用いる知識の総ざらいもできますし、知識や理解を生きて働くものとして再獲得することができます。言うならば「PBL型の学び直し」です。
既習内容とはいえ、理解の不全、定着の不足があったから行う補習ですので、自力で挑むだけではうまく先に進めない箇所も出てきます。
この状態を放置しては、躓いた生徒はいつまでも同じところに立ち止まり、無駄に時間を過ごさせるばかりか、そこで感じる苦痛が科目への嫌悪感に転じるかもしれません。
机間指導で完答できた生徒を見つけたら「先生役」にして他の生徒の質問に応対させましょう。先生一人ではある生徒の面倒を見ている間、他の生徒は放置されることになりますが、完答者=先生役が増えるにつれて、教室内での不明を解消するスピードはぐんと上がります。
教える側にも「理解を言語化する」ことでのメリットは言うまでもありませんが、ある学校では「別の生徒の躓きに触れることで自分も見落としていたことに気づき、より深く考えてみるきっかけになった」との感想をリフレクション・ログに残した生徒もいました。

❏ 既習内容の理解と定着を確認する様々な機会

如上のミニ実力テストを実施する機会は、授業時間の中に限りません。各地の学校で様々な工夫がなされています。
中間テストの後に学ぶことになっている新単元に関連する既習単元を、考査の出題範囲に含むというケースもありました。準備の指示は前年度に学んだ教科書や3年間を通して持ち歩かせている副教材や問題集でページを指定したり、自習用プリントを配ったりとパターンは様々です。
毎朝設けている朝テストの時間を既習範囲のミニ実力テストに当てている学校もありました。朝テストは副教材ベースで行っているので、授業での単元進行に合わせてページや項目番号を指定するだけなので手間は最小限で済むそうです。
答えは配布せず、帰りのSHRまでに自己採点と間違い直しを完了させて、各科目を担当する係の生徒が集めて提出を点検し、教科担当の先生に点検リストと提出物を届けに行くのを見たこともあります。

❏ 導入フェイズでは、発問を重ねて土台を再点検

既習内容の復習テストを行い、学び直しを経て授業に臨ませても、土台が完全に整っている保証はありません。授業の冒頭ではその日の授業の前提になるところの確認を改めて行う必要があります。
ここでも、先生が改めて説明して聞かせるというのはうまいやり方ではありません。
既に理解できている生徒にとっては退屈で進歩のない時間ですし、ちゃんと理解できていない生徒には通り一遍の説明を聞かせるだけで理解が大きく進むとは思えないからです。
別稿で書いた通り、復習は先生からの発問を重ねて行わせましょう。
問われれば、生徒は記憶を手繰り寄せようと頭を働かせますし、教科書やノートをめくって該当箇所を探します。自ずと、周辺の事柄も視野の中に入りますし、マークアップしてある箇所や余白への書き込みも目に留まるでしょう。
答えを求められた生徒は、そこに書かれていることを咀嚼し、自分の言葉にしますので、理解は重ね塗りされてより確かなものになります。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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