主体的、対話的な深い学びの実現のカギをにぎるのは、生徒に自ら問いを立てさせることだと思います。先生方の発問や教科書会社が用意した設問が、個々の生徒の興味を十分に刺激するとは限らず、学びは自分事にならない(=学ぶことへの自分の理由を持てない)かもしれません。
また、教材を離れ、問いが付与されていないテクストや資料を読む場面では、読み取ったことの中に自ら問いを立てられてこそ、より深い理解が作られますし、書かれたことを鵜呑みにするリスクも抑えられます。
自ら問いを立てさせ、その練習を教室の内外で積ませていくことで、生徒の学びに向かう姿勢/学ぶ力の改善と向上を図っていきましょう。
2015/08/26 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 問いを立てること、イコール教材に深く関わること
どれだけ練られた良問であろうと、他人が作った問いでは、答えを導き出すことに意義を見出せないこともあります。「それが何なの?」との認識では、調べたり考えたりするのも面倒に感じるかもしれません。
問いに食いつかず、「正解は何?」「答えを覚えればいいんでしょ?」という姿勢を生徒が示したとしても、無理からぬものを感じます。
他方、文章や資料を読み、その中に自ら疑問を見つけ、問いに起こしたら、生徒の意識(教材への関わり)は大きく変わります。その疑問を解消することは、まさに「自分事」。解消への意欲も膨らむはずです。
問いを立てようとすることそのものも、思考を深める好機です。「背景に何があるのか、根拠は何か、なぜこの言葉を使ったのか」を意識しながら読めるようになれば、書き手との対話もより深いものになります。
読みを深めていけば、自ずと新たな気づき/見落としていたことの発見があり、その積み重ねは、教材により大きな面白さを与えていきます。
❏ 問いを立てることで、学びは広く、より深いものに
上例からは、国語や英語といった言語系教科での学びを想像されるかもしれませんが、どの教科を学ぶときも同じです。当たり前のように書かれていることにも、「なぜ?」「どういうこと?」を問わせましょう。
書かれていること/聞かされたことに対して、「なぜそう言えるのか」「この記述が加えられている意味は何か」といったことを考えてこそ、学びは表層に止まらない、より深いものになるのだと思います。
矛盾を見つけ、それに対処する力(cf. PISAが測定する「読解力」)や、複数の資料に当たり、双方の主張や記述を比較する中でより合理的な結論や解を導きだす力も、「問いを立てる力」が土台です。
たとえ教科書に書かれているようなことでも、鵜呑みにせず一つひとつ事実を確かめていく姿勢(ファクトフルネス)も、読んで理解したことの中に問いを立ててみる習慣の中で獲得していくものだと思います。
❏ 記述されていないことを見つけ、裏付けを取る
教科書やプリントの資料は、別稿の通り、生徒自身にきちんと読ませることが大切ですが、紙面に明示されていない(記述されていない)ことが隠れていることに気づかせることにも注力しましょう。
教科書は、ページ数の制限もあり、大胆に情報を削り落とした(簡潔に過ぎる)書き方になっている箇所が少なくありません。
太字(ゴシック体)で書かれたことでも、十分な説明は添えられていないことが多いはず。そのまま先に進んでは、「用語を知った」だけで、その内容を深く理解するところには達しないはずです。
信頼できるソースに当たって、書かれていない情報を集め、周辺の事実を調べてみる中で、そうした習慣と方法を学ぶにも「これってどういうこと?」との疑問を自ら持てるようになっていることが前提です。
質問をしたり、参考図書などを使って調べたりする姿勢を育むにも、起点となる指導のひとつは「問いを立てさせること」にあると思います。
なお、調べたことを簡潔にまとめ、班やクラスでシェアすることを求めれば、プレゼンのスキル向上も期待できますし、調べ方やまとめ方を、生徒が互いの工夫から学ぶ「相互啓発」も働き始めます。
❏ 早い時期から積ませたい「問いを立てる練習」
書かれたものに思考を加えず(=問いを立てず)に目を通しただけで、分かった気になっていては読みは深まりません。これでは「正しく読めた/ちゃんと理解した」という手応え/達成感も希薄なはずです。
達成感は、次に向けたモチベーションや挑戦欲の原資であり、それが弱いということは、読むことに対する意欲や姿勢も強まらず、学習行動も改善に向かわないのではないでしょうか。
問いを立てることを早いうちから練習させることは、学びに向かう姿勢の改善と向上を図らせる上でも欠かせないこととお考え下さい。
最初の内は、ろくな問いが立てられない生徒も多いはずですが、練習を繰り返す中で勘所を掴んだり、他の生徒た立てた問いに触発される中で徐々に問いの立て方を学んだりしていくものです。
先生方が説明してくれることを聴いて理解するだけの学びより、はるかに高度なタスクを課すことになりますが、早いうちからその方法と習慣を学ばせれば、その後の学びはより実りの大きなものになりそうです。
また、続編で触れる通り、問いを立ててみる練習は、出題者の意図を読み取る力を高める「受験対策」としても有効ですが、やり始めてすぐにできるわけではありません。一定期間に亘り、計画的に練習を重ねさせる必要がありますので、スタートは早めに切るのがお奨めです。
❏ 問いを立てる力は、対話的な学びにも欠かせぬ土台
問いを立てることは、主体的な学びの土台になると同時に、対話的な学びをより高い次元で実現するにも欠かせないものとなります。
対話的な学びは、相手の発言や主張に耳を傾け、その理解の上に次の議論を構築していくプロセスです。聴くと読むの違いはあれど、理解した中に未解決の問題を見つけるところから始まるのは同じでしょう。
見聞きしたことを鵜呑みにしていては、その後の対話は生まれません。「なぜそう考えるのか」「触れていないここはどう捉えているのか」という問いがあってこそ、実りのある対話が生まれます。
課題の解決に協働で取り組むにも、参加者の一人ひとりが、課題とそれを取り巻く諸条件を正しく理解し、その中に問題を見つけだす(=問いを立てる)力を備えていることが肝要です。
この土台を作るための指導の重要な部分は、教科書をきちんと読ませることと、生徒に問いを立てさせることにあるのではないでしょうか。
蛇足ながら、論述式の答案作りでは、「採点者との対話」も重要になりますが、自分が書いたものに客観的な視点で問いを立てる/ツッコミを入れる力が、より良い(合格)答案作りを支えるはずです。
生徒に問いを立てさせる(続編)
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一