最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果

課題などに取り組ませるときには、その日の学び(調べる、話し合う、説明を聞くなど)を始めさせる前に、その時点で持ち合わせていた知識や発想で、生徒それぞれに「仮の答え」を作らせてみましょう。
その後、ひと通りの学びを終えてから、改めて答えを作り直させてみると、仮の答えと作り直した答えの間に明らかな違い(差分)が生じているはず。言うまでもなく、両者の違いは「学びの成果」そのものです。
最初に作った答えを消さずに保存しておき、学び終えて仕上げた答えと比較させるだけで、生徒一人ひとりに「その日の学びの成果(=自分の進歩)」を確認、実感させることができるということです。

❏ 学びの成果(学力の向上、自分の進歩)を実感させる

学びを経て生じた変化(最初に作った「仮の答え」と学びを経て「作り直した答え」の差)は、「その日の学びの成果」そのものでしょう。生徒にとっては「自分の成長」、先生方にとっては「指導の成果」です。
教科書や参考書を読んだり、先生の説明を聞いたり、周囲と話し合ったりして得たもの(知識や気づき)が答えを進化させているはずです。
しかしながら、生徒は、授業内外の学びに真剣に取り組み、成果を得ていても、必ずしも学びの成果を実感しているとは限りません。
学びの成果を「たな卸し」する機会を用意し、その方法を学ぶ機会を作ってあげる必要があります。科目や単元の特性上、「学力が伸びたと実感しにくい」と生徒が感じている場面ではなおさらです。
どれだけ覚えたかは、小テストの結果などで、生徒にその増大を数値として認識させることができますが、現行課程の学力観の下では、知識等の獲得がどれだけ進んだかに加えて、どれだけ「生きて働く」ようになったかにも、きちんとモノサシを当てる必要があります。
学んだことを用いて答えを導くべき問い(可能ならば、生徒が自分事と捉えられるもの)をきちんと用意し、生徒が作り上げた答えの変化(どのように進化したか)を捉えられるようにしてあげましょう。
選択式や求答式の客観問題では、思考の深まりや判断の合理性、表現力などは測れません。思考の結果と過程を言語化することを求めるタイプの問題の方が、この場面での用をよりよく満たします。
また、適切な問いや課題を用意しても、生徒が「正解できた/できなかった」の認識しかできないのでは、学びの過程で得たものがあっても、それを捉えきれず、学びを通じた自らの成長を正しく認識できません。
詳細は以下の別稿に譲りますが、正解に至るまでのプロセスを分解し、どのフェイズに進歩があり、どこで躓いたのかを把握させましょう。

❏ 思考の過程を、消さずに残し、見比べさせるだけ

この方法の利点のひとつは、「そんなに手間はかからない」ということにあります。問いを与えられれば生徒は答えを作ろうとノートやタブレットに何かを書きますので、それを消さずに残しておくだけです。
思いついたことを乱雑に文字にしただけのメモかもしれませんし、題意を理解しようと描いた図であることもあるでしょう。ときには、問題の本質に迫ろうと立てた「問い」の形もあり得そうです。
最初の答えと見比べる「仕上げ直した答え」も、どのみち作らせる必要があります。別稿の通り、答えを仕上げる中で学びは深まるからです。協働学習を通して何となくわかった気がしても、そこで終えてしまっては、学びは深くも、確かなものにもなりません。
たとえ授業時間内で正解に到達できなかった/答えがまとまらなかったとしても、未整理のメモが構造化された、図がより整理されたものになった、問いがより具体的な焦点を持つものになった、といった「学びを経ての初期状態からの変化」には進歩が見て取れるはずです。
唯一増える手間は、最初の答えと仕上げ直した答えの見比べです。自分で書いたものだけに、読み直しにさほどの時間はかかりませんが、見比べるときの観点(採点や評価の基準)は整えていく必要があります。
生徒が作った答えをシェアして、それぞれの違いに着目させ、どのようなアプローチや視点が、より良い答えに必要なのかを「相対化」の中で学ばせていくのも、「見比べる視点」を養うのに効果的です。

❏ スパンを伸ばして単元を通した学習にも

前段までにご紹介したのは1つの授業の中での実践ですが、同様の方法は、指導期間を伸ばした「単元でのまとまった学習」にも使えます。

教科書に載っている章末の探究課題、先生が用意した「じっくり取り組ませたい一問」、あるいは入試問題から取った論述問題などについて、単元導入の段階で、「現時点で自分に考えられること」を書かせてみたり、グループで話し合わせて答えを作らせてみましょう。
何と言っても未習の単元ですから、十分な材料も揃わず、判断軸もろくに定まらない答えしかできないかと思いますが、「無知を知る」こともまた、学びに向かう契機となります。
単元の学習を終えたときに作り直す答えが、今の自分に作れる初期段階の答えをどれだけ超えていけるかを目標に、これから始まる学習に取り組ませるというやり方です。

❏ 成果を実感できたところにモチベーションは生まれる

最初の答えとの差分に見出した「学びを通じた自分の進歩」は、そこまでに取り組んできた学習活動の価値(有用性)も再認識させます。
自分で調べたこと(情報を集めて問いが求める知に編んだもの)が、より良い答えの創出に貢献すれば、きちんと調べることの重要性に気づくでしょうし、より効果的な調べ方の模索も始めるはずです。
話し合いの中で得た気づきが、行き詰まりを打破するブレイクスルーとなった経験を持った生徒は、考え尽くしたことを互いに持ち寄る場の価値を知り、グループワークにも違った取り組みを見せてくれるかも。

これ以外にも「観察を通じて問題を見つける」「仮説を立てて、それを検証する」といった体験が、思考の深化(=より良い答えへの接近)に近づく上で欠かせないことなども、生徒は学んでいくはずです。
きちんと振り返りをさせ、学びに取り組んだことの成果を実感させることは、学習活動への取り組みの改善にも繋がっていくということです。

❏ 生徒の学びの成果で、先生の指導の効果を測定

最初の答えと作り直した答えの差分によって可視化する「生徒の学びの成果」は、当然ながら「先生の指導の成果」を示すものでもあります。
指導がどれだけ成果をあげたかを測るには、どこまで到達させたかよりも、どれだけ進めさせることができたかに着目すべきです。目標に到達した割合よりも、変化量にこそ指導の成果が表れます。
新しい学力観に沿った学ばせ方を探究するには、こうした効果測定を重ねていく必要があります。効果測定・成果検証なしの「やりっぱなし」では、生徒を試行錯誤に巻き込むリスクが避けられません。
日々の授業で用いているワークシートにも「最初の答え」を書く欄と、学び終えたときの「仕上げた答え」の欄の2つを併設してみると、効果測定の材料を揃えていくことができるはずです。
クラウドで答えを集めれば、生徒の答案にどのような変化が生じているか、集団として生じた差分の把握に、AIを活用することも可能です。

❏ 探究活動や進路指導における効果測定にも

本稿で紹介した方法は、教科学習指導だけでなく、探究活動の場や進路指導、あるいは防災・安全教育や生徒指導にも応用できそうです。
探究活動であれば、仮のテーマを考えてから具体的なリサーチクエスチョンを起こすときまでに先行研究等に触れて対象への理解を深めたか、中間発表で得たフィードバックを最終的に仕上げた論文に盛り込めたかなどは、差分として把握できるところです。

進路指導で志望理由を書かせたときに、ゼロ学期の始まりに書いたものと、最終学年に進級して「第一志望宣言」で文字にしてみたものとの間には明確な違いがあって然るべきでしょう。
大学に進んで学ぼうとしていることへの向き合いの度合いや、志望理由の根拠として挙げたことがらの具体性などにどれだけ違いがあるかで、その数か月間で生徒がどれだけ進路を真剣に考えたかがわかります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一