思考力や判断力、表現力を高める上では言うまでもなく、知識の定着を図るにも、理解を深く確かなものにするにも学習者自らが活動する必要があります。どれだけ丁寧に教えても覚えるのは生徒ですし、習ったことを使ってみてこそ、道具としての知識に意味の拡張が図られます。
知識の獲得・拡充を図る場面でも、自ら調べて情報を集め、知識に編む練習をさせなければ、いつまでたっても教わること以外に学ぶすべを知らないままです。
課題を解決するにしても、教わった通りに手順を進めたら正解がポンと現れたという場合と、生徒自らが工夫して正解を導く方法を考え出した場合とでは、学びの成果も、そこで得られる達成感も大きく違ったものになります。(cf. 生徒が解法を考える機会)
授業と予復習からなる日々の学びの中の一つひとつの場面において、生徒に活動させるべき好機を逃していないか振り返ってみましょう。
2015/01/21 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 想起・再記銘+言語化を通した既習内容の再定着
今日の授業で習ったことはしっかりわかった、2日前のことも大丈夫。1週間前の分はちょっと怪しい。3ヵ月前の前のこと?…習ったような気がする。1年前?…そんな昔のことを訊かれても…。
忘却曲線に改めて触れるまでもなく、一度教えて覚えさせた(はずの)ことも、想起と再記銘の機会がなければ記憶は保持されません。
すっかり忘れてしまってから学び直しをさせるよりも、忘れかけたときに再記銘の機会を持たせた方が効率的です。
授業の冒頭で、前回の学習内容を問い掛け、そこで学んだことを思い出し言語化させるという活動だけでも小さからぬ効果が期待できます。
先生からの発問をキューに、教科書やノートの該当ページを開かせ、そこに書かれていることを発言させたり隣同士で説明させたりするぐらいでも良いかもしれません。
単なる想起に止めずもう少し深く学び直しをさせたい場面なら、相応のタスクを与えることになりますが、それもやらせっぱなし、できない生徒もそのまま放置というのではせっかく割いた時間も無駄になります。
どんなタスクであろうとも、仕上げ切るだけの時間を授業内に確保するか、宿題として持ち帰らせてきっちり取り組ませることが大切です。
❏ 習ったことをまとめ直させる(言語化/メタ化)
授業を通して学ばせたこと(+生徒自身に拡張させた理解)を、生徒自身の手でまとめ直させることも、理解の再整理と定着に有効です。
例えば、英語で比較構文を学ばせたときなど、ノートの見開きページを使ってその単元のまとめシートを作らせてみるのも良いかと思います。
例文を集めて分類させ、文法的な説明を添えさせたり、ポイントになるところをまとめさせる作業です。生徒一人ひとりのオリジナル参考書づくり、といったところでしょうか。
メタ言語を用いた文法的な説明はもちろん、それぞれに該当する例文、使用する場面、用法上の注意点、関連項目との比較など、理解の範囲が急速に広がっていく様子は頼もしい限りです。
同様の手法は、古典などの言語系の教科に加え、地歴公民や理科にも適用できると思います。
はじめてトライさせた時は、大したものには仕上がらず、ノートの整理や教科書からの丸引き程度かもしれませんが、習慣化して繰り返すうちに、周囲の取り組みからも学びながら、みるみる進歩していきます。
❏ 予習・復習も一体化して活動の総量を増やす
予習では、次の授業の中で計画している対話的な学び(協働での課題解決)に向けた「準備」として、教科書や資料を読んで理解したり、調べ学習で前提知識を整備したりすることに取り組ませましょう。
授業での学びをひと通り終えたところでは、学んだことを用いた課題解決/問題演習などに取り組ませることになります。
また、授業内のPBLを通じて単元理解の「核」を作ったら、周辺知識の拡充にも取り組ませなければなりません。教科書や資料集などを参照させ、サブノート式の自習プリントの空所を埋めさせるのも好適です。
作業性のあるタスク、手と頭を使う機会を用意してあげることで、生徒に「やるべきこと」を具体的に理解させるのは、目的意識(学ぶことへの自分の理由)が明確になるまでの繋ぎとしても欠かせません。
ここで挙げたものは授業時間の外に持ち出し得るタスクです。予習・授業・復習を一体で捉えることで学習活動の「総量」を大きくできます。
❏ 習慣化、相互啓発、段階的な手放し
生徒の学びを活性化し、活動の総量を高めようとするときに押さえておくべき幾つかの勘所の中でも、特に大切なのは、以下の1~3です。
1.習慣化を図り、単発で終えない
先ずは大切なのは「習慣化」です。「新しいことに生徒が戸惑いを見せても」で書いた通り、どの単元でも必ず行うことを繰り返すうちに、生徒はそのやり方に習熟し、以前より上手にできるようになったことに喜びも見出します。
さらに進んで、如上の課題が課されることを念頭に授業に臨むようになってくれたら言うことはありません。
課題を見越して授業に臨むことで、積極的にメモを取るなど、主体的に授業に学ぶ姿勢も作られます。課題そのものが学習における目標を示す機能を持つということでしょう。
2.好適例をサンプルに発想を広げる
前出のまとめシートにしろ、問いへの答えにしろ、良く書けた/できたものを、プリントにして配ったり、プロジェクタで映写したりすることで、生徒間で共有させていくことも重要です。
好適なモデルに触れ、まとめ方に手札を増やしたり、課題のアプローチに新たな着想を持ったりします。(生徒の答案をシェアして作る学び)
良い出来栄えのものとそうでないものを比較して、考えたところを言語化させることを繰り返す中では、相対化スキルの獲得が進み、より良いものを作り出していく力も養われます。
3.教室内の作業で習熟が図られたら授業外課題に切り替え
どんなタスクも、しっかり取り組んで、仕上げていくには相応の時間が掛かります。授業内に先生方の目が届くところだけでやらせようとすれば、指導時間の枠はあっという間に埋まってしまいます。
とは言え、最初のうちは授業時間内でガイドと観察を密にしながら取り組ませていく必要があります。ペアやグループで互いの足りないものを補うことも、課題/タスクの達成可能性を高め、習熟を加速させます。
取り組みとその成果を観察しながら、生徒がある程度のところまでやり方に習熟したようなら、少しずつ授業外の課題に切り替えましょう。徐々に手を放していかないと学習者としての自立は進みません。
その2に続く
このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一