
教育現場に限らず、AIを活用するのはもはや「日常」でしょう。仕事の相棒として欠かせない存在という先生方も多いかと思います。過日の拙稿「次期学習指導要領に向けて~教育へのAI利活用」でも触れましたが、教育現場での活用シーンはこれからもどんどん増えそうです。
教科学習指導以外にも、「個別化」が必要な場面では、AIの積極的な活用を進めたいところ。進路指導の場でもAIを活用するケースが増えているようです。特に、生徒の進路意識(進路希望)を作り上げていくプロセスでは効果的な活用も可能かと思われます。
❏ AIとの対話で内省と自己理解を深めさせる
生徒に進路希望を作らせていく指導において、最終学年に進級するタイミングで「志望理由書」を書かせてみると、進路意識形成の進捗と課題を捉えることができます。
- 志望理由を言葉にしてみる~ゼロ学期の始まりに(仮の志望理由書 を書かせてみると、意識の現状や課題を明確にできます)
生徒が書いてきたものすべてにしっかりと目を通し、どこに問題があるかを探り当て、不足を補わせる指導を重ねていくのは、先生方にとっても大変な負担ですが、その手伝いをAIにさせるのはどうでしょう。
AIに志望理由を代筆させるということではなく、起草の過程で内省を深めるための「対話の相手」としてAIを利用するということです。
3年ゼロ学期を迎えた生徒に「仮の志望理由書」を書かせ、AIにその評価と採点をさせてみましょう。デジタルで提出させていれば、そのままプロンプトに貼り付けたり、PDF等でアップロードできます。
指導をAIに任せっぱなしにはできません(間違えるリスクに加え、責任も取ってくれません)が、AIの出力を参考にすることはできます。
どのあたりに改善すべき問題があり、どういう観点で問題なのかをリストアップしてくれるので、精査に焦点を持ちやすくなります。
❏ 実際の手順と出力されてくるもの(イメージ)
具体的な流れは以下のような感じでしょうか。
生徒に志望理由を起こさせる(デジタルで提出)
↓
AIに問題点を指摘させる(AIによる評価)
↓
その結果を生徒に戻してリライトさせる
何往復か「AIによる評価」と「生徒によるリライト」を繰り返すと行き詰まるところも出てくるはずです。そこで先生方の出番。会話に加わって、生徒による内省の掘り下げ、気づきの支援を行いましょう。
ちなみに下の「志望理由書(サンプル)」はChat GPTに作らせました。その上で同じAIに「この志望理由書を読み、改善すべき点を挙げて」と頼んで出てきたもの(評価結果)は後掲の通りです。
サンプルを作らせたときのプロンプト:
生徒が書きそうな「志望理由書」のサンプルを作ってください。志望の起点となった体験への言及がない、視野の狭さが窺える、論理の飛躍があるといった問題を抱えるものをお願いします。
サンプルを評価・採点させるときのプロンプト:
これは生徒が書いた志望理由書です。問題点を挙げてください。
志望理由書のサンプル(AIによる作成)

AIによるサンプルの評価結果

ちなみに「採点」を頼んだら観点別に点数をつけて、簡単なコメントを返してくれます。これを生徒に提示してリライトさせていくことになりますが、先生との対話を挟めば、コメントの理解も深まります。
シビアなことはAIに言わせ、先生がフォローしながら正しく導くと、生徒との関係性も良好に保ちやすいかも…(別に狡くはありません!)

❏ 生徒にもどんどんやらせつつ、内省の進み方を観察
もちろん、志望理由書の書き直しをAIにさせることも技術的には容易ですが、それでは内省の力も、表現の力も生徒は獲得できません。
書き直しにはあくまでも自力で取り組ませることが肝要です。「自己理解を深め、表現を磨くことを目的とする鍛錬の場」であることを生徒にもしっかり伝え、十分な意識を持たせて取り組ませましょう。
Copilotなど、無料のものでも、それなりに使えますので、生徒自身にどんどんやらせてみるのでも良いかと思います。
但し、如上の意識を持たせることと、先生方との「生の対話」の中で内省が正しく進んでいるかのチェックは怠らないようにしましょう。
対話での掘り下げをきちんと経ていれば、入試本番の面談での口頭試問的なやりとりだって臆する必要はなくなるはずです。
❏ 採点ルーブリックを「学習」させることも可能
志望理由書に限りませんが、各教科の学習指導の中でも「採点ルーブリック」を導入し、指導に役立てているケースも多いかと思います。
そこで使っているルーブリックをアップロードすれば、それに基づく評価や採点、フィードバックをさせることもできます。
最終的な出願書類に添える志望理由書と、3年ゼロ学期の仮のもの、あるいは2年の夏のオープンキャンパス訪問前に言語化してみる「訪問先を選んだ理由」では、要求するものも違って然るべきかも。
各時期の主眼に沿った「観点」と「段階的な評価規準」を学習させることで、より効果的な指導を実現できる可能性があります。
ちなみに、以下はAIに作らせてみた「志望理由書のルーブリック」です。細かな指定をせずに作らせた素案ですので、現場の実情に合わない部分もあるかもしれません。さらにAIとの対話を重ねてブラッシュアップしていけば、実際の指導場面でも活用できるものになるでしょう。

追記:
AIを活用した進路指導に関する提案はネット上にも多く見られます。本稿では「AIを対話の相手として活用し、生徒の内省を促す」ことに焦点を当てました。指導の効率化だけでなく、生徒の自己理解を深めるプロセスを重視したAIの利活用を進めていきましょう。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一