シラバス(年間授業計画)は、単体で機能させようとするのではなく、グランドデザインを最上位に据え、到達目標一覧、学習の手引きと補完させ合うことで、使いやすく本来の目的を果たし得るものになります。
様々な学校で如上の書面群を拝見しましたが、互いの関連付けが曖昧なままにされているものも少なくありません。時には、記載内容が競合を起こしているケースすら見受けられます。
各科目の指導を通じて達成を目指す目標は、学校全体の教育目的を達成するために置かれるものです。教育目的が明確にされていなければ、それらを支える各々の教育活動が目指すものも決められず、計画に起こしていくこともできません。
ときには建学の精神に立ち戻って、そこに描かれていることを現代に併せて読み替えていく場も必要だと思います。学習指導要領の改訂は、その好機かもしれません。
科目ごとに年間授業計画を立案しようとするとき、まずは、最上位に置かれる学校の教育目的や3ヵ年/6ヵ年を見渡したグランドデザインを明確に描けているかどうかに立ち戻りましょう。
年次更新といえども、具体的な作業に手を付けるのは、それからです。前年踏襲で修正を入れるだけでOKという状態なら、更新作業は年度末にざっと終えることができるでしょうが、方々で該当文書を拝見すると、少なからぬ学校でちょっと大がかりな仕事になりそうです。
受験生の指導、入試の実施など、ただでさえ多忙な年度末に作業が進められることが多いだけに、作業工程そのものをしっかりと描かないと、中途半端に終わります。
改訂は年に1回のチャンスなので、うっかりすると完成を1年先に延ばすことになり、その分、学校全体が後手を踏むことにもなりかねません。先生方には次年度というチャンスがありますが、生徒は入学・卒業を待ってくれないことを忘れないようにしたいものです。
シラバスにしろ、年間授業計画にしろ、主に学年教科が作成している「学習の手引き」にしろ、多大な手間をかけて作成しているだけに、作ることが自己目的化してはあまりにも勿体ない…。
どうせ手間をかけるなら、指導にも生徒の学びにも役立つような作り方・使い方をしたいものです。このシリーズでお伝えしてきたのは、一つのパターンに過ぎませんが、何かのご参考になれば幸いです。
講座選びに使うカタログとしての大学シラバスに対して
教育目的の達成に各科目が担う役割を規定するもの
シラバスは単体では機能しない
まずは3年/6年を見渡したグランドデザインを描く
教科・科目×時期ごとに、目指すべき到達状態を規定する
学年×教科の到達目標をまとめたリスト
目標の設定は{到達水準×到達率}で、かつ複線的に
学ぶ意欲、進路意識、学び方、協働性・主体性にも言及
定性的目標も工夫次第で定量的に達成管理ができる
教科・科目間の関連付けや重ね合わせにも注目を
副教材の取り扱いにも十分な協議と確認を
副教材にも、明確な使用目的と到達目標を
余すところなく網をかけるという発想を離れて
年間授業計画と学習の手引きで記載内容を分ける
学習者の成長を見越して、学習の手引きは学期ごとに作成
学年を跨ぎ合本にすることで、先の学びを見通させる
手引きを通じて、指導方針やこだわりを教員間で共有する
年間授業計画の起草は、約束事を確認する機会
単元進行だけでは、授業計画の要件を満たさない
経験させるべき学習活動も記述し、好適実践の共有を
出来上がった書面は、頻繁に参照し、更新に備えて朱入れ
新たな工夫・試行錯誤の結果をきちんと反映
公式文書として配布した以上、履行責任が生じる
シラバスの熟読が到達目標の達成を近づける
起草よりも、「使わせること」に力を注ぎたい
評価の観点と方法は、きちんと書き出されているか
シラバスや年間授業計画の改定・更新に向けたロードマップは、担当者の頭の中に思い描くだけでなく、組織全体でイメージを共有できるよう可視化しておきたいものです。
作業の進め方に先が見渡せれば、あらかじめ準備を進めるなど限られた時間も有効に利用できます。ガントチャートに書き出してみると、必要なリソースの確認もでき、無理を抑えた進行が行いやすくなります。
ガントチャート:作業計画を横型棒グラフで示した工程管理図のことでプロジェクト管理などに使われる。縦軸に作業内容・タスクを置き、横軸に期間を取って各作業の所要期間を横棒で示すのが基本構造。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一