家庭学習の質と量(深く確かな学びの実現のために)

生徒の家庭学習時間を定期的に調査している学校は少なくありません。中には、平均学習時間について数値で「指導目標」を設定している学校も見かけますが、学年平均を算出するだけだったり、データが指導の改善に有効活用されていないケースも散見されます。「学習時間調査」の目的と方法について、改めてきちんと考えてみる必要がありそうです。

❏ 目標時間を達成したかどうかで成績などに違いはあるか

当然ながら、授業外の学習時間を延ばすことは、それ自体を「目的」とすべきものではありません。生徒の学力を十分に伸ばすという目的を達成するために採り得る「手段」のひとつに過ぎないはずです。
教室でしかできない学びを充実させるには、生徒が個々の学習活動でカバーするところもある程度は大きくしていく必要があります。
また、授業を受ける中で見いだした興味を掘り下げたり、残った不明を解消したりといった、活動にも取り組んでもらう必要があります。
古くは昭和の時代から、難関突破には「学年プラス1時間」などの表現で、家庭学習に習慣として投じる時間の「目安」を示してきたケースが少なくありませんが、その「基準」に合理性はあるのでしょうか。
確かに、全生徒を母集団に平均学習時間と成績の変化を調べてみると、両者の間に一定の相関が観測されるのが普通であり、伸びている生徒と伸び悩む生徒を分ける「境界」のようなものも見つかりますが、その位置とこれまで目標としていた学習時間数は一致しているでしょうか。
生徒の学習時間をより精緻に調べ、学習時間の目標が適正に設定されているかどうか、改めて点検してみる必要は十分にありそうです。

❏ 学習に投じている時間と成績の伸長が一致しないのは

平均学習時間と成績やその変化の間に、有意な正の相関が観測されないとしたら、考え得るのは以下のいずれかだと思います。

  • 与えている課題(予習や復習のタスク)が、成績伸長に寄与しない /新しい学力観にマッチしない
  • 生徒が、課題への正しい取り組み方を身に付けておらず(=指導が 効果を挙げていない)、無駄な時間を投じている

いずれの場合も、振り返って改めるべきは、課題を与えている側(=先生方)の方にありそうです。
教材研究の充実は言うまでもなく、出題研究を通した「問い方」の研究を密に、生徒が獲得すべき能力やスキルを改めて捉え直し、それに合致した課題に切り替えていく必要があるのは言うまでもありません。
授業開きなどで生徒に伝えた「予習や復習への取り組み方」が妥当なものだったかどうかは、指示に従っている生徒と、そうでない生徒の間で成績の伸長などに有意な差が生じているかどうかで点検できます。

顕著に成績が伸びている生徒の学習行動を観察することでも、生徒に示すべき「好ましい取り組み方」を再発見できるかもしれません。

❏ 散布図上の位置から、一人ひとりの課題を探る

生徒の学習時間を把握したら、模試や考査などの成績データと組み合わせて、散布図やクロス集計表を作ってみましょう。
散布図なら、横軸に学習時間、縦軸に成績(あるいは一定期間を挟んだ変化)を取ることになります。
各々の中央値で座表面を分割してみると、「時間をかけているのに成績が伸びない生徒」は第四象限に、「時間をかけておらず、成績も伸びていない生徒」は第三象限にプロットされます。
前者の生徒と後者の生徒に同じ指導をするのでは、改善効果はあまり期待できないはずです。
前者の場合、これまでの学習方法を見直す機会を持たせるべきですし、後者の生徒には、時間の使い方やタスクマネジメントのスキルを身に付けさせることが指導の主眼になろうかと思います。

ちなみに、縦軸に成績(「変化」ではなく)を置いた散布図で第二象限に位置する生徒は、「十分な時間を投じて勉強していないのに成績は良い」ということになります。
過去の貯金に頼って成績を維持しているだけ(今の成績を今後もキープできる保証なし)、能力を伸ばす十分な努力ができていない(ポテンシャルを眠らせたまま卒業?)のどちらだとしても要注意です。
後者の場合、進路の選択も本来より狭くなり、その後の可能性を小さなものにしてしまうリスクを抱えさせることになりかねません。

❏ 科目ごとの相違を捉えるには学習生活の記録が必要

当然ながら、勉強方法や取り組む意欲は、同じ生徒であっても、教科や科目で異なるのが普通です。全教科を合算した学習時間を、トータルで把握するだけでは、科目ごとの偏りが把握できません。
学習時間を調査するときは、科目ごとに学習への取り組みを記録させていくようにしましょう。各科目を担当する先生も、日々の振り返りシートなどに、予復習と宿題に掛かった時間を申告させても良いはずです。
昔ながらの、「平均すると、平日は一日当たりどのくらい勉強していますか」という聞き方をしては、科目ごとに学習量を把握することはできませんし、何よりも、忙しい毎日の中、一週間の学習の様子を正確に覚えている生徒はいないはず。
手帳などを持たせて生活の記録をレコードに残させる指導も、だいぶ前から目にしますが、一人一台端末がいきわたった今なら、記録を残す手間やそれをデータとして再集計するのも、楽になったはずです。
記録を残すこと自体も、一日の終わりにその日の過ごし方を振り返る機を生徒に持たせることで、行動の変容を促すきっかけになり得ます。
365日、記録をつけさせるのでは、データを利用することで得られるメリットを、記録の手間(コスト)が上回ってしまいますので、定期考査期間と幾つかの平常期をサンプリングするのでも良いかと思います。

❏ 授業外学習に十分な時間を掛けさせることの意味

授業をしっかり聞き/真面目に取り組み、学習した内容を十分に理解できているなら、授業外の勉強は不要との考え方もあろうかと思います。
しかしながら、前述のように「教室でしかできない学びを充実させる」「授業で得た気づきなどを起点に学びを広げる」となると、教室を離れて生徒が一人で学習に取り組む時間も必要なはずです。
必要なタスクをきちんと与えることで、生徒は忙しい時間を上手に使い、やるべきことにきちんと取り組む姿勢と方法も学んでいけます。
改めて、与えるべきタスクはしっかり与えると同時に、不要な/意味の少ないものを無駄に与えないという判断こそが重要と考えます。
与えるべきものには、以下の記事で触れたものなどが該当します。

他方、与える必要が本当にあるのか、冷静に判断すべきものも少なくありません。まず思い浮かぶのは、以下のようなものでしょうか。
「既に十分に理解している生徒にも反復を求める、足止め型タスク」

「個々のニーズや備えるレディネスを考慮しない、無理強い型タスク」
生徒に与えるタスクを考えるときには、以下の記事で申し上げたことをしっかりと念頭に置く必要があろうかと思います。


ジャンル別記事インデックス「予習・復習、課題のあり方
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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