前稿(その1)に引き続き、授業クリニックの現場で目にした「倣いたい手法」をご紹介したいと思います。現場で頑張る先生方の創意と、それを実現していく努力には、いつも深く学ぶことばかりです。
❏ 板書で授業に流れを作る(前段理解と展望の共有)
前稿でご紹介した、問いを重ね、生徒の発言に乗っかりながら展開していく授業では、対話を重ねながら、そこまでの理解や今考えていることが、常に板書によって生徒の眼前に示されていました。
今何をやろうとしているかを見失わせず、且つ前段の理解をこぼさないだけでも、学びは一気に活性化し、生徒の授業参加も良くなります。
生徒が考えた結果を黒板でシェアしようとすると、生徒自身に板書させるという選択肢もありますが、往々にして授業の流れが悪くなります。
もじもじ/もたもたされている間に、他の生徒が退屈して集中力を失っては元も子もないはず。学びの緊張感も損ねてしまいます。
❏ 着目点を獲得させるタイプの問い
問いの使い方も、先生方の実践から互いに学べることを、クリニックを行いながら、いつも強く感じます。
問いには3つのタイプがあり、いずれかに偏ることなく使い分けたいところ。過日の教室では、3番めのタイプが上手く使われていました。
1つめは、知識や理解の有無を試すもの。別稿「理解度の確認~場面と方法 」で紹介した「前提となる知識や理解を確かめる場面」での使い方になじみます。
2つめは、「生徒の行動を引き出す問い」です。思考のキュー(きっかけ)を作る問いであり、「ペアで討論」「ノートに解答案」などの指示が続くことで、実際の行動を引き出します。先に紹介した、「問いを重ねて進めるスタイル」で頻繁に用いられるタイプです。
3つめが、ここで取り上げる「着眼点を獲得させるための問い」です。
たとえば、空所補充問題を扱う場面です。埋めるべき箇所の直前におかれた単語に着目させたうえで「次に来られる品詞は?」という問いを幾度か繰り返しておられました。
回数を重ねるうちに、生徒は自ら同じ問いを頭の中に作り出せるようになり、どこに着目すれば良いかを見つけ出す能力を獲得していきます。
❏ 予習方法を授業内で学ばせる
昨日、拝見した授業の一つでも、「問い」が積極的に使われていましたが、残念なことに、生徒はそれらにうまく反応できていない様子。
選択肢に並ぶ単語を知らない状態だったことが原因だったように見受けられました。手順を少し変えてみたらもっとうまく回せたはずです。
先に選択肢に目を通し、もし予習していない生徒が多ければ、その場で調べさせても良いはずです。
予習ができていないことの一因は、予習のやり方を知らないことです。
授業内で、「品詞は?」「この単語はどんな句形を取る?」など、構造に着目させるような問いを頻発しながら、辞書の引き方に習熟させる集中的な訓練期間を設けてみてもよさそうです。
こうした場面を重ねることで、どんな予習をしなければならないのか、辞書を引くときに何を見なければならないのかを身につけさせていくことで、予習の履行率も向上を図っていけるはずです。
❏ 次の授業へのつなぎ方
ある授業では、問いに対する答えを生徒が発言して先生がそれを板書したところで終礼のチャイムが鳴りました。一見すると「時間切れ」にも見えますが、副次的に大きな効果が得られています。
板書した、複数の生徒の答えを指し示しながら、「答えとしての表現は違っても、本文中の根拠になり得る部分は共通している」ことを確認したうえで、改めて答えを作り直しておくことを、次の授業までの宿題として指示なさっておられました。
生徒は手がかりをつかんだ状態で宿題の指示を受けていますので、手が出る状態におかれ、やってみようという意識も持ったはずです。
宿題や予習をやってこない最大の原因は、生徒の側に材料と発想がないままに指示が出されることですが、この授業でのやり方は、この最大原因を取り除く効果を持っています。
後でお尋ねしたところ、意図したものではなかったそうですが、こうした効果を知っていただければ、意図的に如上の進め方を授業に取り入れることができるようになります。
生徒の主体的な授業参加をこれまで以上に引き出す授業ができるようになるのではないでしょうか。家庭学習を通じてアウトプットの機会が作られることからも大きな効果が期待できます。
その3に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一