自ら学ぶ力を獲得させるために~観察と評価

日々のご指導において、知識や技能、思考力、判断力、表現力を鍛え、獲得させるための「指導と評価」に抜かりはないところと拝察いたしますが、その一方で「学びに向かう力」については如何でしょうか。
学びに向かう力を育み、主体的に学習に取り組む態度を評価することの目的は「生徒を学習者として自立させる」ことにほかなりません。
卒業後も学び続け、より良く生きるのに必要な知識をアップデートし、それらを正しく生きて働かせるための「基礎」を備えさせて生徒を送り出すのは学校の仕事。そのために必要なのが、如上の指導と評価です。
在学中も、学年が進んで、進路希望などが具体化したり、学力差が拡大したりすれば、「学びの個別化」の必要も高まります。それに対応するにも、「学ぶ力」を個々に育む指導を先行させておく必要があります。

❏ 生徒が学びに取り組む様子をまずはしっかり観察

別稿「指導と評価の一体化~実現のための発想転換」の後編でも書きましたが、評価(≒きちんと観察)すべきは、「粘り強く取り組む姿勢」と「自らの学びを調整しようとする姿勢」という2つの側面です。


生徒が学習活動(課題解決や対話協働)に取り組む場面をきちんと設けて、生徒一人ひとりが「粘り強く取り組みを続けているか」、(所期の目標が達成できなかったときに)「どうすれば良いかを考え、行動に起こしているか」を継続的に観察しなければ、評価はできません。
的確な評価なしには、個々の生徒に適合した指導(タスク付与や助言)は担保できず、生徒に無理や無駄を強いることになりかねません。

❏ 指示したこと一つひとつがどこまで内在化しているか

まずは、年度当初の「授業開き/オリエンテーション」で生徒に伝えたことが、どこまで実行でき、習慣になっているか観察してみましょう。
シラバスや学習の手引きにも、生徒に向けた「学び方のガイド」などがあれこれと書かれているかと思いますが、生徒はそれらをどこまで実行し、より良い学び(=学習の改善)を実現しているでしょうか。
指示した予習や復習のやり方、活動への取り組み方を、きちんと行えている(=習慣化できている)生徒はどのくらいの割合か、訊かれてすぐに答えられないとしたら、日々の観察が不足しているかも…。
授業開きで伝えたことを消化できていない生徒への支援(やり方の理解向上、できない理由の解消など)が必要なのは言うまでもありません。
また、指示の背後にある「そうさせる理由」を正しく理解している生徒ばかりではないかと。言われた通りに何も考えずにやっているだけでは形だけの取り組みになり、効果も大きくならないはずです。

ときには生徒に「この手順/行動が必要なのはどうしてだと思うか」と尋ねてみて、一人ひとりの認識とその分布を確かめたいところです。
得心して行動し、習慣として内在化しなければ、外からの圧(先生方からの指示や提出などの縛り)がなくなった瞬間に行動も消失します。

❏ 指示した行動から派生した工夫がどのくらいあるか

初期のガイドとして先生方が出した「指示」の意図するところをきちんと捉えていれば、学習への取り組みと振り返りを重ねる中で、「新たな工夫(=学びの調整)」が様々と生まれて然るべきでしょう。
4月の授業開きに伝えたことをきちんと実行していても、そうした工夫が見られないようなら、「自らの学びを調整しようとする姿勢」に不足があるとの疑いを持って、観察を続ける必要があると思います。
もし、工夫があまり生まれていないようなら、初期の指示の意図が十分に伝わっていなかったか、生徒に振り返りを通して学習の改善を図らせる機会が不足していたか。いずれにせよ、「省みるべき状態」です。

生徒の柔軟な発想からは、先生方の知見を超えた工夫も生まれているはずです。その中に、好適なものを見つけたら、クラス/学年でシェアして「相互啓発」の材料にしましょう。もし汎用性の高いもの(工夫)なら、次年度の授業開きやシラバスで紹介しても良いはずです。
なお、好適な実践を見つける手掛かりは、考査の答案や日々の提出物などの中に見つかります。パフォーマンスが向上した背景には、取り組み方に好ましい変容があったはず。本人に話を聞いてみましょう。
別稿でも書いた通り、授業開きで伝えた要求を満たせた生徒にはその先を目指させるべきです。言われた通りにしかできていないのでは、学習者としての自立にはほど遠い状態。学習の改善が自力で図れるように、メタ認知・適応的学習力の向上を目指させましょう。

❏ 取り組み方それぞれの効果を、データで検証

指示したことであれ、生徒の工夫から生まれたことであれ、学びへの取り組み方が、きちんと成果を得ているかどうかの検証が必要です。
学びへの取り組み方を変えてみて一定の期間を経たら、それが結果学力の向上などに繋がっているか、データを使って確かめてみましょう。
効果測定の材料に用いるのは、定期考査や模擬試験における領域別のスコア(→考査問題における得点集計)や、ルーブリックに照らした評価結果の分布などです。
ある方法で学びに取り組んでいる(例えば、年度当初に先生が指示した方法で予習を行っている)生徒と、それを実行できていない生徒の間で上記のスコア/評価分布に有意差が生じているでしょうか。
データをきちんと統合し、整理保管していれば、t検定やクロス集計表の残差分析などの統計手法が使えます。cf. データをいかに利用するか
別稿でも書いた通り、生徒に提示した方法の妥当性も確かめて、絶えず改善を図らないと、知らぬ間に生徒の学びを歪めるリスクを抱えます。
初動(学習ガイダンスやオリエンテーション)で間違った方向に進ませては、余計な遠回りをさせるばかりです。
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追記: 生徒はそれぞれの学習履歴の中で、(正しいかどうかは別として)自分なりの「学び方」を身につけています。それを踏まえて「学ばせ方」をアレンジしないと、ミスマッチが学びを阻害しかねません。
生徒の現状に合わせて円滑なスタートを切らせた後に、より良い学びを実現させるべく、段階的に行動の変容を求めていくのも大切です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一