先週末から、朝日新聞で「宿題が終わらない」と題する連載がありました。新課程への移行による学習観の変化や、一人一台の端末が普及したことなどで、新たなタイプの宿題が増えたことが、生徒一人ひとりの学びに様々な形で、好ましくない影響を及ぼしている様子が窺えます。
連載「宿題が終わらない」:朝日新聞デジタル (asahi.com)
❏ 新しい学力観に応じたタスクを加えるだけでは…
各単元の学習内容を学ぶことを手段に、様々な能力(21世紀型能力で言えば、基礎力、思考力、実践力)を獲得させようとすれば、それぞれに応じた学習活動を授業の内外にきちんと配列する必要があります。
その中には、教室の中での対面環境で行うべきことと、生徒が個々の学習活動で取り組むべきことがあり、両者の切り分けをしっかり行えば、自ずと家庭学習に課す「宿題」も以前とは違ったものになるはずです。
しかしながら、生徒が家庭学習に投じることができる時間には限りがあり、従来から課していた宿題もそのまま与え続けていれば、生徒の頑張りでカバーできる範囲は超過してしまうのは、明らかでしょう。
その結果、宿題を仕上げられなかった生徒/きちんと取り組めなかった生徒への対応(往々にして「やってこなかったことへの叱責」)に終始していては、本来の学習指導は先に進んでいないことになります。
❏ 記銘(定着)の機会は、課題解決の中に組み込んで
学習した内容(知識や理解)の定着をより確かなものにするのに数や量を頼むというアプローチは、以前なら合理的だったかもしれませんが、今の時代にも十分な効力を発揮するかどうかは疑わしいところです。
思考する上で必要な知識があるのは、言うまでもありませんが、そうした知識は「それだけを取り出して覚える」という無理をせずとも、様々な課題の解決に取り組む中で、参照する機会も得られるはず。
参照/再記銘の機会は、生徒が取り組み、解決を図るべき様々な課題にチャレンジする中で自ずと確保できる部分も小さくないはずです。
もし、「せっかく覚えたのに実際に使ってみる機会が一向にない」という事柄があったとしたら、それを覚えさせる必要はなかったのかも…。
生徒に宿題を課すときには、常に「その宿題、本当に必要ですか?」と自問しましょう。
指示通りに履行した生徒が、狙った通りの学力を獲得していないようなら、その宿題は無駄に生徒の時間を食いつぶした可能性があります。
何らかのタスクを生徒に課したら、その成果をきちんと検証するのは、課した側の責任だと思います。履行の度合いを記録に残し、個々の生徒の追跡調査で効果を確かめているケースも見られます。
❏ 必達ラインをベースに、個々のニーズに応じた拡張
学力と学ぶ意欲に余裕がある生徒や、難関を目指そうとしている生徒には、十分な学びの機会を与えてあげる必要がありますが、それをクラス全体に求めては無理が膨らむばかりです。
以下の拙稿でも触れましたが、どの生徒にも必ず到達させたい「必達」部分をクリアできた生徒にのみ、上位向けのチャレンジ課題を与えるなどの、複線的なゴールの設定も考えるべきだと思います。
こなしきれないほどの宿題を課した結果、一つひとつの学びにじっくりと取り組めなくなり、より深い学びや能力・資質のさらなる獲得が遠ざかってしまっては、本末転倒ではないでしょうか。
期限までに宿題をこなすことだけに意識が向いて、安易な方法(ネットで答えを探す、など)に走らせては、学びを歪めるばかりかと。
❏ 教科間での課題量の調整、重ね合わせを活かした学び
課題量の調整は、先生方が個々に、ご自身の授業だけを視野に行うのではなく、生徒が履修しているすべての授業(各教科の授業に加えて、探究活動なども含む)を横断的に見渡して行う必要があるはずです。
- 教科間で行う、課題量の把握と調整(全3編)
また、様々な能力や資質を獲得させるにも、各科目に閉じて行う必要はないはずです。他教科で学ぶ機会があるものは、その成果に乗っかってしまうという発想も積極的に持ちたいところです。
夏休みの宿題なども、総合的な探究の時間で各生徒が設定したテーマに沿って、生徒自身が取り組むことを優先して、各教科からの付与は敢えて抑えるという手もあります。
例えば、英語のサイドリーダーに全員一律で取り組ませるより、先行研究に当たる中で英語で書かれた資料を読ませる方が、意欲的な取り組みが期待できるのではないでしょうか。
このブログでも、宿題や課題の在り方について折に触れて考えてきましたが、起草時の考えが正しいのか、改めて考え直してみる必要があると冒頭の連載記事を読んで強く感じた次第です。
本稿内にリンクを設けた記事について、近いうちに一つひとつ見直しをしてみようと思います。
■関連記事:
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一