指導方法の効果測定#1 平均値の変化だけでは…

新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図ろうとするとき、最初に考えるべきは、「どのような方法で(指導方法)」ではなく、「何を目指して(指導目標)」であるのは、改めて申し上げるまでもありません。
目標を定めた以上、それが達成されたかの検証も必要ですし、指導の方法を考えたら、その効果も測定しなければなりません。「どうやって目標の達成を検証(指導の効果を測定)するか」は、指導方法についてあれこれと議論を始める前に、しっかりと検討しておくべき事柄です。
新しい道具やシステムが導入されれば、それらを使ってできることは増えますが、「目標の達成にどれだけ寄与するか」を視点に、きちんと取捨選択をしないと、道具を使うことが自己目的化しかねません。道具に使われたり、システムに振り回されたりしては本末転倒でしょう。

2015/12/03 に公開した記事を再アップデートしました。

❏ 指導方法を考える前に、指導目標と評価方法の定立

指導方法の効果測定を行うのは、現状での指導方法が「目標の達成」に十分に寄与しているかを確かめ、必要ならば改善策を講じるためです。
新しく導入した方法も、実施に移したことで達成感のようなものを感じるかもしれませんが、従来のものと比べてどれだけ費用対効果に優れているかを確かめないことには自己満足の域を出ない可能性もあります。
効果を測定する前提として、その指導場面でどんな状態への到達を目指していたかはっきりさせておく必要があるはずです。目標が曖昧なままにされていては、達成検証の方法の検討も進まなくなります。
目標を明確にした上で、「どんなデータをモノサシにして、どのように効果を測定するか」を予め決めておけば、あとはそれぞれの先生方が最善と思う方法を試し、その効果(=好ましい方向での変化量)を比較しながら「より良いもの」を選びだしていけば良いはずです。
データに基づく取捨選択(より好適な方法へのリソースの集約)こそが教育活動の最適化に向かう要件の一つであるのは、新たな取り組みを始めるときの鉄則指導案の優劣を論じるときもで書いた通りです。

❏ 平均値の変化だけでは不十分~箱ひげ図の活用

効果測定は「好ましい方向への変化量」によって行いますが、着目するのが「平均値」だけでは、状況を十分に把握することはできません。
一部の上位生だけは伸ばせていても、中~下位の引き上げが図れていないこともあります。この場合も平均値は上昇しますが、置いてきぼりにされた生徒がいるこの状態を手放しに喜ぶわけにはいかないはずです。
また、別稿でも申し上げたことですが、用意した学習の機会にきちんと取り組んだ生徒と、そうでない生徒を分けた集計比較も必要です。
新しいカリキュラムに移行したり、指導計画を見直したときにも、過年度と今年度の比較を、模擬試験や外部検定のスコアの平均点で行うだけでは、不十分です。入学時点での成績分布にだって差があったかも。
同一期間を区切った場合の、過年度生が見せた「伸び」と本年度の生徒に観察された「伸び」との比較で、指導の成果を捉えるべきです。

❏ 箱ひげ図を重ねて指導の効果を比べてみる

従来からの指導法を改めたときや、各担当教員がそれぞれ最適と思う方法を試したときなどは、対象となる生徒の成績を追跡したデータから箱ひげ図(四分位図)を作って重ねてみるのがお奨めです。
出来上がったグラフ(下図:ひげは非表示)からは、上位・中位・下位の各層が、指導の方法や計画を変更した前と後で、それぞれどう動いたか(=どこに効果があったか)を直観的に把握できます。
各グラフのレイヤーを分けておき、スタート時点での成績分布を中央値などで合わせれば、入り口での違いを「補正」した比較も可能です。


箱ひげ図はエクセルに標準機能として実装されており、手間もかかりません。四分位数以外で区切りたい場合も、LARGE関数の出力で折れ線グラフを描き、ロウソクを加えれば同じようなグラフが書けます。

❏ 既成の度数分布図に条件付き書式を設定するだけでも

度数分布表が既に手元にあるなら、区切り位置を指定して条件付き書式を設定すれば、以下のようなグラフに仕立てることもできます。


得点区分の刻みが大きくなり、微細な変化を捉えにくいデメリットがありますが、手軽さならこちらが勝ります。区分点付近の人数分布もわかりますので、どの層に、どのくらいの指導強化で目標に近づけるか目算を立てやすいというのもメリットかもしれません。
模試などの結果で、紙ベースでの資料しかないときでも、ラインマーカーで色さえ付ければ、箱ひげ図の代用には十分だと思います。

❏ 様々な比較を行い、どのターゲットに有効なのかを探る

ある指導法がすべてのターゲット(生徒)に有効であることは稀です。
成績上位者には有効でも、中位~下位には効果がないようなケースやその逆があることは、よく知られるところですが、事前指導の成否によるレディネスの違いが効果を左右します。
普段の学習行動の観察の結果を、ルーブリックに照らして評価し、記録をしっかり残しておけば、「どのような行動を取れること」が、十分な指導効果を上げる前提になるのか、推定することもできるはずです。
ポートフォリオに残された学習記録や活動記録のデータで、学修履歴やそれまでの取り組みに「類型」を与えて、それぞれに含まれる生徒に対する「指導の効果」も図れます。
こうした知見の蓄積を通じて、指導を始める前に、生徒をどのような状態(学習の経験、能力や資質・姿勢の獲得、意識付けなど)に導いておく必要があるかを捉えられているかどうかは、教育効果を分けます。
新しい指導法を採り入れてみたときに、学年全体の平均ぐらいしか見ずに、効果なしと拙速な判断をしては、せっかくの取り組みも尻すぼみになるのは必定かもしれません。指導方法の効果測定を行うときは、様々なパラメーターでデータを区分けしてみることが大切です。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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評価、効果測定・成果検証Excerpt: 1 効果測定を通じた教育資源の最適配分1.1 効果測定とスクラップ&ビルド(教育資源の最適配分) 1.2 指導案の優劣を論じるときも 2 データを用いて理解者と賛同者を増やす2.1 効果測定は、理解者と賛同者を増やすため 2.2 新たな取り組みを始めるときの鉄則 3 指導方法の効果測定3.0 指導方法の効果測定(序) 3.1 指導方法の効果測定(その1) 3.2 指導方法の効果測定(その2) 3.3 指導方法の効果測定(その3) 4 データをいかに利用するか4 データをいか...
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