理解を確認した後のフォローに不要な時間を取られない

授業ごとに/単元ごとにターゲットとなる問いや課題を設定するのは、教室での対面で行う学習活動と、それ以外の場で獲得させるものを切り分けることで限られた授業時間を効率良く活かすための方策の一つになるのは、別稿で申し上げた通りです。
そうしてデザインした授業をワンステップずつ確実に進めて行くには、前稿のように、ターゲット設問を分割した小さな問いで要所ごとにそこまでの理解を確認していく必要があります。

しかしながら、中途での理解確認の結果、不明を抱えている生徒が想定を超えて多かったりすると、その解消に多くの時間を取られてしまい、その後の授業は予定通りに進みません。
不明を見つけたときに生徒が自力でその解消を図れるようになっていないことで、足踏みが大きくなってしまうこともあれば、前提としていた生徒による授業準備(予習)が所期の成果を得ていないことが原因となることもあるはずです。

❏ 問いを与えて見つけさせた不明の解消に挑ませる

こまめに理解確認をするのは、「わからないでいること」を見落としたまま、積み上げてしまい、後でやり直す手間が増えてしまうことを予防するためにも欠かせません。
ターゲット設問を分割した小さな問いを有効に使って、その日の学びで到達を目指したこと(=学習目標や本時の主眼の達成)を、より確実なものにしていく必要は言うまでもありません。
とは言え、小さな問いで生じた疑問の解消に「教える」という手段だけで対処しようとすると、余計な時間がかかるばかりです。
如上の問いで所在が明らかになった不明は、小さなものであれば、参照型副教材(辞書、文法書、用語集、資料集など)に当たらせることで、自力での解消をその場で図らせるようにしましょう。
そこまでの理解を確かめるための問いを発したら、生徒がその答えを作るのに相応の時間を取りますが、その間、参照型教材を自由に使わせてしまいましょう。考えるための道具を必要に応じて自在に探せるようになることは、「学びの力」を身につけることに外なりません。
なお、この間、既に理解できていた生徒には先の課題に進ませるようにすれば、有効に使われず浪費されていく時間も最小限に抑えられます。

❏ 参照箇所を探させ/示して、不明解消を後押し

問いを与えられてもなお、手も頭も止まっているように見える生徒がいたら、「副教材のどこに載っている?」と声をかけて、副教材のページを開くことを促しましょう。
それでも該当箇所を探し出せない様子でも、黒板の隅に参照ページを書き出してあげるなど、最小限の手を差し伸べるところまでで我慢です。
内容を教えて不明を解消するのでは、生徒はいつまでも「誰かが魚を取ってくれるのを待つだけ」です。自分で魚を釣る方法を学べません。
教えてあげないと理解できないというのは、普段の授業でそうした「副教材に相談する練習」への取り組ませ方が足りなかったせいかもしれません。教えることでその場を凌いでも問題を先送りするばかりです。
拙稿「自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”」で書いた通り、わからないことがあったときに最初に行うべきは、教科書や参考書を頼りに調べて考えること。次が周囲に訊ねること。先生の出番はその後です。手元のコンサル先をきちんと活用させましょう。

❏ 予習の段階で可能な限り不明解消を図らせる

如上の方法は、理解の確認を行った後での対処ですが、想定を超えて不明や理解不足、既得知識の欠落があると、いかに効率よく対処しても、多くの時間が掛かってしまい、授業が予定通りに進まなくなります。
唯一取れる対策は、授業準備の段階で、できる限り生徒自身で不明を解消し、必要な知識と理解を獲得させておくことです。予習で生徒自身がカバーできる範囲を増やす仕掛けを講じましょう。
学習範囲を指定して自習させるだけでは、生徒は必要な情報を正しくピックアップすることもできず、不明がどこに残っているのかも把握できません。その結果、「言われた通りにひと通りやってきた」けど、期待されていた知識・理解は形成されずという事態に至ります。
必要な情報にサーチライトを当てさせるには、問いが必要です。
予習に際しても学習範囲を示した上で、そこを読んで理解すべきことや拾い上げておくべき情報(知識に編まれる前のパーツ)を認識させるための問いをセットにして与えることで、生徒の学び(自習)に明確な方向性を与えることができるとお考え下さい。
予習したことが所期の成果を得たかを生徒自身が確認できる「授業準備確認テスト」を指示書に加えてみるのも好適です。
ちなみに、自己採点用に「正解」を示してはそれを鵜呑みに書き写すだけです。自力で調べる(教科書などを読む)よう仕向けましょう。
いずれの方法でも、予習段階で解消されていない不明や拾い上げるべき情報の欠落に気づければ、それを解消する行動も引き起こせます。指定範囲を学習するだけでは、先生の指示で教科書が教えてくれることを受け止めるだけ。インプットに止まりますが、解消すべき不明や知識の欠落を解消する必要を認識した後の学びはインテイクに変わります。

こうした学びを重ねることで、新しい学力観の下で必要性がさらに高まるであろう「反転的な学習」に対応する「学ぶ力」の獲得も進みます。

❏ 前提理解を授業準備で獲得させる支援の仕組み

生徒が自学で取り組むだけでは、理解しにくいであろうと思われる箇所は、解説動画を用意してアップロードしておくのも効果的です。
動画だけで50分の授業を構成するのはあまり好ましい結果をもたらさないのは別稿で申し上げた通りですが、パーツとして利用するのであればこれほど有為な道具は多くありません。
パーツとして作った解説動画は、どのクラスでも、あるいは年度を跨いでも再利用できますので、中長的にみれば先生方のお仕事の省力化にもつながり、働き方改革にも一役買うのではないでしょうか。
また、生徒同士が教え合う場は、教室以外にも作れます。「オンライン自習室」も可能でしょう。前出の「授業準備確認テスト」の答え合わせは、その中で完結させてしまえば、教え合いをせざるを得ません。
学校がシステムとして導入したコラボレーションツールがまだなかったとしても、LINEグループなど、SNSを使って互いに質問を挙げ、わかる生徒に教え役に回ってもらうという手もあります。
先生が過度に介入しては「教えてもらう」という姿勢に拍車をかけてしまいますので、できる限り生徒同士で解決させるようにしましょう。
なお、教室での対面での学習活動に当てられられる貴重な指導時間がどれだけの成果を得るかは、学びの仕上げへの取り組ませ方にも大きく左右されます。ターゲット設問への答えをしっかり仕上げさせ、学びを深く確かなものにさせていきましょう。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一